2017 Volume 12 Issue 4 Pages 723-730
【目的】看護師が実践している心不全終末期患者の症状アセスメント・症状緩和のための非薬物療法による対応およびターミナルケア態度に関連する要因を明らかにする.【方法】循環器病棟看護師180名に質問紙調査を実施した.【結果】症状アセスメントは14症状全てにおいて8割近くが実施していた.症状緩和のための対応では日常生活の調整,体位・生活動作の工夫,環境整備が多く実施されていた.緩和ケア院外研修受講経験あり群で,ターミナルケア態度の死にゆく患者へのケアの前向きさおよび総得点が有意に高かった.終末期ケアに対する困難感の看護職の知識・技術は,ターミナルケア態度の死にゆく患者へのケアの前向きさの得点が高い程,有意に低かった.【結論】心不全の緩和ケアに関する研修・教育を行うことにより,看護師のターミナルケア態度を高め,緩和ケアに関する実践を図っていく必要がある.
厚生労働省発表の「人口動態統計の概況」1)によると,平成27年1年間の死因別死亡総数のうち,心疾患(高血圧性を除く)は196,113人で,死因別死亡数全体の15.2%を占めており,悪性新生物に次ぎ2番目に多い.心不全で亡くなった人は71,860人で心疾患の死亡数の36.6%を占める.高齢化が進むなか,2025年には日本人の100人に1人が心不全患者になると予測されている2).
心不全は,増悪,寛解を繰り返しながら,長期にわたり徐々に悪化していく経過を辿る.心不全患者は,呼吸困難,疼痛,倦怠感,浮腫など多彩な症状を呈し,末期でも1人当たり6.7種類の症状を有していると報告されている3).したがって心不全終末期においては,十分な症状緩和を図ることが望まれるが,経過の予測が難しいこともあり,患者の苦痛が積極的に緩和されることなく最期を迎えることが多い4).循環器疾患における末期医療に関する提言では,心不全末期状態に関する治療,管理について述べられているが,その多くが欧米からの報告によるものであり,わが国における研究報告は少ない5).
心不全患者の終末期に対する心臓専門医と看護師を対象に行った調査では,医師と看護師ともに緩和ケアの導入に対して困難を感じていた6).また,循環器病棟看護師を対象とした調査7)においても,対象者の9割以上が心不全終末期の緩和ケア実践で悩んだことがあると回答していた.このように心不全終末期患者の緩和ケアの実践については,ガイドラインが示されていないこともあり,看護師は葛藤や困難を感じていると考えられる.
緩和ケアにおける看護師の役割として患者の苦痛のアセスメントと治療的介入があり8),心不全終末期の患者に対しても,症状アセスメントや症状緩和のための対応といった症状マネジメントの実践が求められる.これらの実践には,ケアに対する看護師の態度が影響する.終末期患者に対する看護師のターミナルケア態度については,がん診療に関わる看護師を対象とした調査で,年齢や臨床経験,看護組織のチーム力などとの関連が報告されている9).また,高齢者ケアに関わる職員を対象とした調査では,看取り研修の参加,看取り人数,死生観とターミナルケア態度の関連が指摘されていた10,11).
中井らは,ターミナルケア態度とケアの実施状況の研究をすることで,ターミナルケア態度と実際に提供しているケアとの関係が明確になると述べている12).そこで本研究では,①看護師が実践している心不全終末期患者の症状アセスメント・症状緩和のための非薬物療法による対応の実態,②ターミナルケア態度に関連する要因を明らかにすることを目的とした.
心不全終末期:心不全終末期を,循環器病の診断と治療に関するガイドライン5)を参考に「繰り返す病像の悪化の末に,急激な症状増悪から死が間近に迫った状態であり,治療の可能性のない状態」とした.
症状マネジメント:症状マネジメントとは,患者の体験している症状をとらえてケアすることであり13),アセスメント,治療・ケアの実施,再アセスメント,治療・ケアの修正といったサイクルがある8).本研究では,「看護師が行っている症状アセスメントと,症状に対する非薬物療法による対応のこと」を総称して症状マネジメントとした.
研究対象者関東地方の11施設(大学病院3施設,地域支援病院8施設)の循環器病棟に勤務する看護師180名を対象とした.
データ収集方法平成28年11〜12月において,無記名の自記式質問紙調査を行った.対象施設の看護部責任者に研究趣旨を文書および口頭で説明後,研究協力に同意を得られた施設に,対象者への研究依頼書および調査票を郵送した.第三者に回答がわからないよう調査票には封筒を添え,近隣施設は留置法,それ以外は郵送法にて回収を行った.
調査内容1.基本属性
年齢,性別,看護師経験年数,循環器病棟経験年数,緩和ケア研修受講経験(院内・院外研修)の有無,看取りの経験(心不全患者の看取り含む)の有無について尋ねた.
2.心不全終末期の症状アセスメントの実施状況
心不全終末期にみられる症状として,呼吸困難,咳嗽,疼痛,倦怠感,食欲不振,悪心・嘔吐,便秘,下痢,浮腫,不安,うつ,せん妄,睡眠障害,認知障害の14症状について,アセスメントの状況について尋ねた.症状については緩和医療学に関する成書14),非がん疾患の症状出現率に関する先行研究15,16)を参考にし,『心不全の終末期における各症状について,アセスメントの実施状況を「よく実施している」「実施している」「あまり実施していない」「全く実施していない」の中から,該当する番号に1つずつ○をして下さい』と尋ねた.
3.心不全終末期の症状に対する非薬物療法による対応
各症状への非薬物療法による対応は,緩和ケアの成書8),症状緩和に関する先行研究17〜19)を参考に,「①マッサージ,②温罨法・冷罨法,③体位・生活動作の工夫,④リラクセーション,⑤アロマセラピー,⑥日常生活の調整(食事の工夫,清潔:足浴・入浴・清拭,睡眠,排泄),⑦環境整備,⑧精神療法,⑨呼吸リハビリテーション,⑩音楽療法・その他の療法,⑪その他」を非薬物療法とし,『各症状への対応について,実施しているすべてのものに○をしてください』と回答を求めた.
4.終末期ケアに対する困難感
終末期にある患者のケアに看護師が感じている困難感については,日本では心不全など非がん患者を対象にした尺度は見当たらないため,本研究では,笹原らによって開発された「一般病棟の看護師の終末期がん患者のケアに対する困難感尺度」20,21)を使用した.本尺度は8ドメイン78項目からなり,本研究では「患者・家族を含めたチームとしての協力・連携」14項目,「看護職の知識・技術」10項目,「治療・インフォームドコンセント」8項目,「看取り」10項目,「環境・システム」8項目の5ドメイン50項目について,「全くない」「あまりない」「少しある」「非常にある」の4件法で回答を得た.ドメインごとの項目数が異なるため各ドメインの平均値を求め,平均得点が高いほど,困難感が高いとした.
5.ターミナルケア態度
終末期の患者に関わる看護師の態度は,ターミナルケア態度尺度日本語版「FATCOD-B-J」を使用した.本尺度は米国のFrommeltによって開発された死にゆく患者に対する医療提供者のケア態度を測定する尺度22)であり,日本語版は中井氏らによって開発された.オリジナル版は30項目1因子からなり,日本語版は「I.死にゆく患者へのケアの前向きさ」「II.患者・家族を中心とするケアの認識」の2つの下位尺度で構成される.各項目は「全くそう思わない」「そう思わない」「どちらともいえない」「そう思う」「非常にそう思う」の5件法で回答を得る.ターミナルケアに対する態度が積極的になるほど得点が高くなるように配点されている12).
分析方法対象者の属性や症状アセスメントの実施状況,各症状に対する非薬物療法による対応,終末期ケアに対する困難感およびターミナルケア態度の得点について記述統計量を算出した.緩和ケア研修受講の有無および看取り経験の有無と,終末期ケアに対する困難感およびターミナルケア態度についてt検定を行った.また,ターミナルケア態度に関連する要因を明らかにするため,ターミナルケア態度を従属変数とし,対象者背景,緩和ケア院外研修受講経験,心不全患者看取り経験,終末期ケアに対する困難感としてターミナルケア態度と相関を認めた患者・家族を含めたチームとしての協力・連携,看護職の知識・技術,看取り,症状アセスメントの実施状況については心不全症状として重要な呼吸困難,浮腫,うつ,せん妄を独立変数とした強制投入法による重回帰分析を行った.統計処理には,統計解析ソフトIBM SPSS21 を用いた.
倫理的配慮本研究は,防衛医科大学校倫理委員会の承認を得て実施した.調査票は無記名とし,研究参加は自由意思であること,個人情報の保護について明記した研究依頼書と調査票を同封し,調査票の回収をもって同意が得られたとした.
対象者180名に質問紙を配付し,132名から回収し(回収率73.3%),有効回答132名を分析対象とした.
対象者の属性(表1)対象者の87.1%が女性で,平均年齢は30.9歳,看護師経験年数は平均8.6年,循環器病棟経験年数は平均4.2年であった.緩和ケアの院内研修受講者は43.9%,院外研修受講者は15.2%であった.93.9%が看取りを経験しており,心不全患者の看取りを経験した者は84.8%であった.
心不全終末期の症状マネジメント心不全終末期の症状アセスメントの実施状況について,「よく実施している」とした回答が高かったのは呼吸困難65.2%,浮腫63.6%,疼痛46.2%,低かったのは,うつ27.3%,悪心・嘔吐25.0%,下痢19.7%であった.14症状全てにおいて,8割近くが実施(「よく実施している」・「実施している」)していると回答しており,「全く実施していない」と回答があったのは,うつ,下痢,せん妄,認知障害,倦怠感,睡眠障害,便秘の7症状(2.3~0.8%)であった(表2).
心不全終末期の症状に対する非薬物療法による対応では,呼吸困難・浮腫・疼痛・倦怠感に対して体位・生活動作の工夫(88.6~51.5%),日常生活の調整(56.1~38.6%),環境整備(28.0~15.9%)などが行われ,さらに呼吸困難では呼吸リハビリテーション(37.1%),疼痛に対して温罨法・冷罨法(54.5%)がなど実施されていた.また,非薬物療法のマッサージは便秘(44.7%),疼痛(37.9%),浮腫(34.1%),リラクセーションは不安(33.3%),倦怠感(21.2%),精神療法はうつ(27.3%),不安(24.2%)などに対して行われていた一方で,アロマセラピー,音楽療法の実施率は低い傾向にあった(表3).
緩和ケア研修受講経験および看取り経験と各尺度との関連(表4)終末期ケアに対する困難感について,患者・家族を含めたチームとしての協力・連携の平均値は2.8(SD=0.55),看護職の知識・技術3.0(SD=0.53),治療・インフォームドコンセント2.9(SD=0.57),看取り2.4(SD=0.47),環境・システム2.5(SD=0.56)であった.ターミナルケア態度のFATCOD総得点の平均値は113.3 (SD=8.9),死にゆく患者へのケアの前向きさ58.9 (SD=6.8),患者・家族を中心とするケアの認識50.6 (SD=4.2)であった.
ターミナルケア態度との関連では,「死にゆく患者へのケアの前向きさ」(p=0.001),「FATCOD総得点」(p=0.001)と緩和ケア院外研修,「死にゆく患者へのケアの前向きさ」(p=0.033)と心不全患者看取り経験で有意差を認めた.終末期ケアに対する困難感については,「看護職の知識・技術」(p<0.001)と緩和ケア院内研修受講経験,「看護職の知識・技術」(p=0.006)等と心不全患者看取り経験で有意差を認めた.
ターミナルケア態度に関連する要因(表5)緩和ケア院外研修受講経験あり群で,ターミナルケア態度「死にゆく患者へのケアの前向きさ」(β=−0.249,p=0.028),「FATCOD総得点」(β=−0.340,p=0.004)が有意に高かった.終末期ケアに対する困難感「看護職の知識・技術」が低いほど,ターミナルケア態度「死にゆく患者へのケアの前向きさ」が有意に高かった(β=−0.245,p=0.035).
心不全患者の終末期における症状出現率については,諸外国において報告がみられるものの3,15,16),わが国の出現率やアセスメントの実態については十分明らかになっていない.諸外国の研究では心不全終末期に出現率の高い症状として,倦怠感78%,呼吸困難62%,浮腫43%,疼痛42%が報告されており23),これらの症状について本研究でも,アセスメントを「よく実施している」との回答が多かった(65.2~40.2%).このことから,倦怠感,呼吸困難,浮腫,疼痛などは心不全終末期において国内でも同様に出現率の高い症状であることが示唆され,看護師のアセスメント実施率も高いと考えられた.
症状マネジメントでは,包括的なアセスメントが重要と言われているが8),「よく実施している」との回答でも,看護師経験年数や看護師個々の知識・技術の差により,アセスメントの状況が違うことが推測される.たとえば呼吸困難のマネジメントに関して,アセスメントスケールの知識があるものは,実施している呼吸困難に対するケアが多いことが報告されていることから18),アセスメントツールの活用の有無や実施頻度など具体的に質問することで,アセスメントの実態を明らかにできると考える.
少数ではあったが,症状アセスメントを「全く実施していない」との回答もあった.看護師の緩和ケアの知識,困難感,実践に関する調査で,知識テストは精神的問題が最も得点が低く,実践尺度はせん妄ケアの頻度が最も低かったとする報告24)があり,心不全終末期の症状アセスメントにおいても,うつやせん妄等といった精神的なアセスメントについて,知識の不足から全く実施していないという回答につながったとも考えられる.
非薬物療法については,心不全患者では心負荷の増大は心不全症状の増悪につながることから,日常生活における心負荷を軽減させる目的でも,日常生活の調整や,体位・生活動作の工夫といった援助を実施していると考えられる.
緩和ケア研修受講経験および看取り経験と各尺度との関連について終末期ケアに対する困難感の各ドメインの平均値は,非がん性呼吸器疾患患者の緩和ケアに対する看護師の困難感を調査した研究の結果とほぼ同様であった25).とくに看護職の知識・技術については他のドメインと比較して平均値が3以上と困難感が高く,困難感低減のための支援が必要と考えられる.
ターミナルケア態度の得点についてはターミナルケア態度のFATCOD総得点の平均値は,がん患者らのケアに対する先行研究9,12)の報告と比較してやや低かった.心不全は最後まで治療の可能性があり,どの時点からを終末期とするか判断は難しい.そのような判断の難しさも,循環器病棟に勤務する看護師のターミナルケア態度に影響しているのではないかと考えられる.
緩和ケア研修受講経験の有無とターミナルケア態度との関連では,緩和ケア院外研修受講あり群が経験なしに比べ得点が高かった.研修を受講することで,緩和ケアの知識を得ることになるためケアに対する自信となり,ターミナルケア態度の積極性につながると推測される.
看取り経験の有無との関連では,終末期ケアに関する困難感で,一部のドメインで看取り経験または心不全看取り経験あり群の得点が有意に高かったのに対し,ターミナルケア態度の得点も心不全看取り経験あり群が有意に高かった.つまり,看取りの経験はターミナルケア態度を積極的にする一方で,看取りの経験により終末期ケアに関する困難感が高くなるという結果であった.これは,看護師が看取りを経験したことで,知識・技術の必要性やチームの連携の重要性に気づくなど看護師の意識の高まりが,困難感として現れているとも考えることができる.
ターミナルケア態度に関連する要因についてターミナルケア態度に関連する要因として,表5のとおり「緩和ケア院外研修受講経験」と終末期ケアに対する困難感「看護職の知識・技術」が認められた.先行研究においてもターミナルケア態度の関連要因として,研修などの受講経験が指摘されており11),ターミナルケア態度を高め,心不全の緩和ケアの実践を促進していくためにも,教育・研修を行っていくことは重要である.また,終末期ケアに対する困難感の「看護職の知識・技術」が低いほど,「死にゆく患者へのケアの前向きさ」が高かった結果については,終末期がん患者に対する看護師のケア態度に関する調査で同様の報告がなされており26),知識・技術が不足すると十分なケアが行えないことからも,心不全の終末期ケアに関する知識・技術の向上を図ることが求められる.直成らは,院外研修受講の経験のない人の「自らの知識・技術に対する困難感」が,経験のある人に比べ有意に高かったと報告27)している.このことから,院外緩和ケア研修の受講経験は,緩和ケアに関する知識を深め,看護職の知識・技術に対する困難感を低くすることになり,看護師の態度として「死にゆく患者へのケアの前向きさ」を高め,看護師の積極的な終末期ケアの実践につながると考えられる.
本研究の結果からは,ターミナルケア態度と症状アセスメント実施状況との関連は明確にできなかったが,うつやせん妄など精神的症状に対するアセスメントを全く実施していないと回答した人が0.8~2.3%みられた.がん患者の終末期ケアに関する先行研究でも,実践尺度でせん妄ケアの頻度が最も低かったとする報告や24),抑うつや不安あるいはせん妄などの精神的症状に関する知識・技術に対する困難感が高いと報告がある27).精神的症状に関する知識・技術の不足から,終末期のケアに対して消極的態度になってしまうことが考えられる.心不全終末期ではうつ症状も24~42%の頻度で合併しており,心不全の増悪因子であることが明らかになっているため5),積極的な症状マネジメントが望まれる.今回は研修の内容について具体的に尋ねていないが,現在の緩和ケアの研修はがん患者を対象とした内容が多く,高齢患者が増加していくなか,非がん疾患の緩和ケアについては十分な取り組みが行われていないため,今後は心不全終末期患者へのターミナルケア態度を高め,緩和ケアに対する看護師の困難感を低減できるような教育的支援が必要である.
本研究は,関東地方の11施設の看護師を対象としたため,研究結果を一般化させることは難しいと考える.また,終末期ケアに対する困難感に使用した尺度も心不全患者を対象として開発されたものではなかったため,回答者が答えづらかったことも推測される.今後の課題として,症状アセスメントの実施状況について,さらに具体的なアセスメントの方法を問うなどの調査も必要である.
看護師が実践している心不全終末期患者への症状アセスメントおよび症状緩和のための非薬物療法による対応の現状,看護師のターミナルケア態度および心不全終末期ケアの困難感を調査した結果,対象とした14症状全てにおいて,8割近くがアセスメントを実施していると回答していた.また,症状緩和のための対応では,呼吸困難・浮腫・疼痛・倦怠感などについて日常生活の調整,体位・生活動作の工夫,環境整備といった基本的な援助が多く実施されていた.今後はさらに,心不全の緩和ケアに関する研修・教育を行うことにより,看護師のターミナルケア態度を高め,緩和ケアに関する実践を図っていくことが重要である.
本研究に協力いただいた,看護師および病院管理者の皆様に心より御礼申し上げます.