Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
非がん患者の終末期のケアと望ましい死の達成の遺族による評価
宇根底 亜希子佐藤 一樹大西 佑果宮下 光令森田 達也岩淵 正博後藤 佑菜木下 寛也
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電子付録

2019 年 14 巻 3 号 p. 177-185

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Abstract

【目的】非がん患者の終末期のケアと望ましい死の達成の遺族評価をがん患者と比較した.【方法】がん・心疾患・脳血管疾患・肺炎で死亡した患者遺族を対象にインターネットで調査した.ケア評価は全般的満足度とCare Evaluation Scale(CES),望ましい死の達成の評価は Good Death Inventory(GDI)を用いた.【結果】がん118名,心疾患103名,脳血管疾患71名,肺炎125名の有効回答を得た.ケアの全般的満足度では有意差はなかった.CESの身体的ケア,GDIの自立の項目などで有意差を認め(p<0.05),すべて非がん患者の方が低かった.【結語】非がん患者が受けたケアの全般的満足度は,がん患者同様,高かったが,CESとGDIの数項目ではがん患者より低い評価で,各疾患の課題が示唆された.原疾患の治療と同時に苦痛症状の緩和と終末期を意識した対応が重要である.

緒言

わが国は高齢多死社会を迎えており,2016年の年間死亡者数は130万人を超え1),2025年には約152万人になると予測されている2).このような多死社会の死であっても,人生の最終段階を最期まで自分らしく過ごすことは誰もが望むことである.そのためには,できる限り早期から全人的苦痛を緩和するためのケア,つまり緩和ケアが重要3)だが,わが国における緩和ケアはがんを中心に発展してきた.すなわち,がん対策基本法が2007年に制定され,全国各地で行われる緩和ケア研修会によって緩和ケアの知識・技術が修得しやすくなり,緩和ケアの普及が進んだ4).しかし,非がん疾患においては緩和ケア関連の研究の知見が質量ともに十分ではなく4),発展途上の段階である.

現実問題として,近年,非がん疾患による死亡者数も増加しており,非がん疾患の緩和ケアの発展が求められている.1981年以降,がんは死因の第1位だが,2016年の2位以降の死因順位は心疾患,肺炎,脳血管疾患の順であり,これら非がん疾患による死亡者数の合計は,がんによる死亡者数を上回っている1).いずれも高齢者に多い疾患であり,今後もますます増加することが予測され,多くの非がん患者の苦痛緩和が必要となる.

また,非がん疾患の終末期の経過はがんとは異なるため,非がん患者の緩和ケアにはがん患者と異なる視点が必要である.がんは比較的長い間機能が保たれ,最期の2カ月程度で急速に機能が低下するが,非がん疾患である心疾患などは急性増悪を繰り返し徐々に悪化するため,終末期と急性増悪の区別が困難である5).そのような状況下での症状緩和が求められており,こういった非がん疾患の特徴を踏まえた緩和ケアの確立が必要である.

このように急務となった非がん疾患における緩和ケアを発展させるためには,まず,現時点での緩和ケアの質評価を行い,課題を明確にすることが重要である.遺族調査による緩和ケアの質を評価する試みは1990年代から世界的に実施されており,死亡小票を用いた遺族調査が米国6,7)やカナダ8,9)で,国民統計局によって管理された遺族調査(Views of Informal Carers- Evaluation of Services: VOICES)10)が英国で行われている.わが国でもがん患者の緩和ケアの質を評価するための遺族調査「J-HOPE(Japan Hospice and Palliative Care Evaluation)study(J-HOPE研究)」11)が2006年に行われ,2014年には3回目のJ-HOPE3研究12)が行われた.これらの調査で得られた緩和ケアに関するさまざまな事項について,がんと非がん疾患の緩和ケアの現状を比較し,非がん疾患の緩和ケアの課題を抽出することは緩和ケアの質向上に有用である.

そこで,今回,遺族の視点から終末期非がん患者のケアと望ましい死の達成度の評価を死因別にがん患者と比較することを目的として研究に取り組んだ.

方法

本研究は,「がん患者医療情報の高度活用による終末期医療・在宅医療の全国実態調査に関する研究」班の分担研究である大規模遺族調査のパイロット調査として実施された「死亡小票を利用した遺族に対する終末期医療・在宅医療の実態調査に用いる遺族による終末期医療の質の評価指標の検討に関する研究(研究実施責任者:木下寛也)」で得た既存のデータを用い,非がん患者の緩和ケアについてがん患者と比較,解析し検討したものである.

1.対象

調査時点で過去1年以内に死亡したがん・心疾患・脳血管疾患・肺炎患者の遺族400名を目安とし,各死因での上限100名に満たない可能性を考慮して125名を上限に設定し,死因の偏りが少ないように抽出した.抽出対象はインターネット調査会社に登録したモニターである.

2.調査手順

2013年11月~2014年8月に市場調査会社にモニター登録し調査参加に同意した遺族に対し,インターネットを利用した質問紙調査を行った.調査会社(株式会社プラメド)が対象者の抽出と調査を行い,完全匿名化して調査データを作成した.この調査の主目的は,遺族による終末期医療の質の評価指標の信頼性・妥当性を検証し,「死亡小票を利用したがん患者遺族に対する終末期医療・在宅医療の実態調査」に用いる調査票を開発することであった.本研究は,この調査にて得られたデータを副次的に分析し,遺族による終末期患者のケア評価とアウトカム評価を死因別に比較したものである.

3.調査項目

1)遺族による終末期のケア評価(ケア評価;構造・プロセス評価と全般的満足度)

ケア評価は,患者が受けた終末期ケアの構造・プロセスに対する評価と,ケアに対する全般的満足度で構成されている.いずれも死亡前1カ月間に受けたケアについて評価した.

終末期のケアの構造・プロセス評価には,Care Evaluation Scale(CES)13)を使用した.CESは「身体的ケア(医師,看護師)」「精神的ケア」「説明・意思決定(患者,家族)」「設備・環境」「介護負担軽減」「費用」「利用しやすさ」「連携・継続」の10領域28項目で構成されており,本調査では,そのうちの各領域の代表10項目からなる短縮版を用いた.受けたケアについて,「1. 全くそう思わない」~「6. 非常にそう思う」の6件法で回答を得,100点満点に換算し,CES得点を算出した.CES総合得点は10項目の平均点とした.なお,CESはその信頼性・妥当性が証明されている14)

また,ケアの全般的満足度は,「全般的に,亡くなった療養場所で受けられた医療は満足でしたか」という質問に対し,「1. 非常に不満」~「6. 非常に満足」の6件法で回答を得た.

2)遺族による望ましい死の達成度の評価(アウトカム評価)

患者が受けたケアのアウトカム評価には,遺族による終末期患者のQuality of Life(QOL)評価尺度であるGood Death Inventory(GDI)13)を使用した.GDIは日本人がん患者の望ましい死の達成度を評価する尺度であり,日本人が共通して重要だと考える項目「からだや心のつらさが和らぐ」「望んだ場所で過ごす」「希望や楽しみを持って過ごす」「医師や看護師を信頼できる」「家族や他人の負担にならない」「家族や友人とよい関係でいる」「自分のことは自分でできる」「落ち着いた環境で過ごす」「人として大切にされる」「人生を全うしたと感じられる」のコア10ドメインとオプショナル8ドメインの計54 項目で構成されている.本調査では,GDIの各ドメインの代表18項目からなる短縮版を用いた.死亡前1カ月間の患者のQOLについて,「1. 全くそう思わない」~「7. 非常にそう思う」の7件法で回答を得,コア10ドメインの10項目の平均点をGDI総合得点とした.「人に迷惑をかけてつらいと感じていた」ドメインは逆転項目であるため,逆転後の得点を用いた.GDI はがん患者の遺族を対象に開発され,高い信頼性・妥当性が示されているが,非がん患者の遺族への使用に際しても,研究の予備調査で高い信頼性・妥当性が証明されている15)

3)患者背景

年齢,性別,死因,同居者の有無,死亡前の意識低下期間および介護必要期間,死亡場所,死亡場所での療養期間についてデータを得た.

4)遺族背景

年齢,性別,患者との関係,介護関与度,死別に対する心の準備の程度,臨終時の立ち合いの有無および情報を得た時期についてデータを得た.

4.分析方法

患者と遺族背景は,死因別に記述統計を算出し,分散分析またはFisherの正確確率検定にて群間差を検討した.ケア評価のCESおよびアウトカム評価のGDIは,各項目と総合得点の平均点を算出し,ケア評価の全般的満足度は平均点を算出した.その後,各項目得点と総合得点について非がん患者とがん患者を群間比較した.疾患をダミー変数,がんを参照カテゴリとして回帰分析を行い,患者背景の調整の有無により2通りのp値を算出した.調整変数は,患者の年齢,性別,死亡場所とした.臨床的な差の大きさを分析するために,効果量としてCohen’s d統計量を算出した.Cohen’s d統計量は,0.8以上を大きな差,0.5以上を中程度の差,0.2以上を小さな差と解釈できる16)

有意水準は両側0.05未満とし,統計解析はJMP Pro 13 Software(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いた.

5.倫理的配慮

「死亡小票を利用した遺族に対する終末期医療・在宅医療の実態調査に用いる遺族による終末期医療の質の評価指標の検討に関する研究(研究実施責任者:木下寛也)」は,東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得て実施された(2013-1-411).本研究でのデータの二次利用については,研究実施責任者の許可を得,名古屋大学大学院医学系研究科および医学部付属病院生命倫理審査委員会の承認を得て実施した(17-140).

結果

本研究の有効回答数は417名であった.死因別では,がん118名(28.3%),心疾患103名(24.7%),脳血管疾患71名(17.0%),肺炎125名(30.0%)であった.

患者背景を表1に示す.年齢(平均値±標準偏差)は,がん76.3±12.0歳,心疾患82.7±12.5歳,脳血管疾患81.3±9.3歳,肺炎85.6±8.0歳であり,男性は,がん58名(49.2%),心疾患48名(46.6%),脳血管疾患49名(69.0%),肺炎67名(53.6%)と,群間比較でそれぞれ有意差を認めた(p<0.001, p=0.021).死亡直前まで意識があった割合は,がん56名(47.5%),心疾患59名(57.3%),脳血管疾患31名(43.7%),肺炎50名(40.0%)であり,死亡前の介護必要期間が1年以上であった割合は,がん17名(14.4%),心疾患45名(43.7%),脳血管疾患38名(53.5%),肺炎68名(54.4%)と,それぞれ有意差を認めた(p=0.008, p<0.001).死亡場所は病院が最も多く,がん66名(55.9%),心疾患66名(64.1%),脳血管疾患47名(66.2%),肺炎102名(81.6%)であり,有意差を認めた(p<0.001).しかし,死亡場所での療養期間の中央値は,がん30日,心疾患30日,脳血管疾患80日,肺炎40日であり,療養期間では有意差を認めなかった.

遺族背景を表2に示す.年齢は,がん54.1±9.6歳,心疾患53.8±10.9歳,脳血管疾患52.4±10.2歳,肺炎54.4±10.5歳,男性は,がん53名(44.9%),心疾患54名(52.4%),脳血管疾患26名(36.6%),肺炎55名(44.0%)であり,群間比較にて有意差を認めなかった.遺族が患者の配偶者であった割合は,がん20名(17.0%),心疾患3名(2.9%),脳血管疾患3名(4.2%),肺炎2名(1.6%),主介護者は,がん54名(45.8%),心疾患29名(28.2%),脳血管疾患13名(18.3%),肺炎31名(24.8%)であり,それぞれ有意差を認めた(p<0.001).また,死別に対する心の準備,臨終時の立会い,臨終に関する情報を得た時期の項目についても有意差を認めた(p=0.002, p<0.001, p=0.008).

遺族による緩和ケアのケア評価の疾患間比較を図1,遺族による緩和ケアのアウトカム評価の疾患間比較を図2に示す.なお,疾患毎の比較を容易にするため,各項目の値は「非常にそう思う」「そう思う」「ややそう思う」の肯定的評価の割合で作図した.平均値などの詳細な値については付録表1・2に示した.

遺族による緩和ケアのケア評価のうち,CESにおける肯定的評価の割合は,「身体的ケア(医師)」では,がん88.1%,心疾患77.7%,脳血管疾患77.5%,肺炎81.6%であり,がんとの比較では,心疾患(Cohen’s d(以下d)=0.51, 患者の年齢,性別,死亡場所を調整したp値(以下Adj p)=0.003),肺炎(d=0.36, Adj p=0.033)が有意に低かった.「身体的ケア(看護師)」では,がん90.7%,心疾患75.7%,脳血管疾患81.7%,肺炎83.2%であり,がんとの比較では,心疾患(d=0.49, Adj p=0.004),肺炎(d=0.33, Adj p=0.043)が有意に低かった.「精神的ケア」では,がん80.5%,心疾患72.8%,脳血管疾患73.2%,肺炎80.0%であり,がんとの比較では,心疾患が有意に低かった(d=0.37, Adj p=0.029).「説明・意思決定(患者)」では,がん69.5%,心疾患65.0%,脳血管疾患64.8%,肺炎64.0%であり,がんとの比較にて有意差を認めなかったが,「説明・意思決定(家族)」では,がん81.4%,心疾患68.9%,脳血管疾患80.3%,肺炎79.2%であり,がんとの比較では,心疾患が有意に低かった(d=0.41, Adj p=0.010).他5項目「設備・環境」「介護負担軽減」「費用」「利用しやすさ」「連携・継続」は68.0~84.0%であった.受けたケアの「全般的満足度」の肯定的評価の割合は,がん75.4%,心疾患68.9%,脳血管疾患62.0%,肺炎65.6%であり,がんとの比較にて有意差を認めなかった.

緩和ケアのアウトカム評価のうち,GDIのコアドメインの肯定的評価の割合は,「ひととして大切にされていた」の項目が,がん80.5%,心疾患74.8%,脳血管疾患66.2%,肺炎72.8%と最も高かった.「医師を信頼していた」では,がん67.8%,心疾患56.3%,脳血管疾患46.5%,肺炎60.0%であり,がんとの比較では,脳血管疾患が有意に低く(d=0.28, Adj p=0.040),「家族や友人と十分に時間を過ごせた」では,がん65.3%,心疾患48.5%,脳血管疾患54.9%,肺炎53.6%であり,がんとの比較では,心疾患が有意に低かった(d=0.35, Adj p=0.006).「身の回りのことはたいてい自分でできた」では,がん31.4%,心疾患24.3%,脳血管疾患16.9%,肺炎12.0%であり,がんとの比較では,脳血管疾患(d=0.51, Adj p=0.014),肺炎(d=0.59, Adj p=0.013)が有意に低かった.他6項目は「からだの苦痛が少なく過ごせた」「落ち着いた環境で過ごせた」「人生をまっとうしたと感じていた」の項目は43.2~61.2%と半数程度であり,「望んだ場所で過ごせた」「楽しみになるようなことがあった」「人に迷惑をかけてつらいと感じていた」の項目は23.9~43.7%とやや低かった.GDIのオプショナルドメインの肯定的評価の割合は,「自然に近いかたちで過ごせた」「納得がいくまで治療を受けられた」の2項目が50%前後と8項目の中で高かった.

表1 患者背景
表2 遺族背景
図1 終末期ケアの遺族評価

*ケアに対する全般的満足度とプロセス評価のCES の各項目において「非常にそう思う」「そう思う」「ややそう思う」と回答した割合

**がんとの比較にて有意差を認めた項目のみ記載(Adj p:患者の年齢,性別,死亡場所を調整したp値)

図2 望ましい死の達成の遺族評価

*アウトカム評価のGDIの各項目において「非常にそう思う」「そう思う」「ややそう思う」と回答した割合

**がんとの比較にて有意差を認めた項目のみ記載(Adj p:患者の年齢,性別,死亡場所を調整したp値)

考察

インターネット調査への登録者を対象に,がん患者と非がん患者の遺族による緩和ケアのケア評価とアウトカム評価を調査し,非がん疾患の緩和ケアをがんと比較した.

がんと比較した結果,多くの点で有意差はみられなかったが,有意差のあった項目は非がん疾患の方が低い評価であり,それらは疾患に関連する特徴と解釈できるものがほとんどだった.

患者が最期1カ月に受けたケアの総合評価となる全般的満足度では,非がんとがんで有意差を認めなかった.英国の2015年の遺族調査10)では,最期3カ月に受けたケアの全般的満足度における肯定的評価ではがん,心疾患,その他疾患では有意差を認めなかったと報告している.英国では1990年に行われたRSCD研究17)を皮切りに,非がん疾患の緩和ケアが議論されており,その英国の調査に類似した結果であったことは,わが国の非がん疾患の緩和ケアが現在の妥当な水準であることを示している.

しかし,CESにて評価した緩和ケアの構造・プロセス評価では,がんとの比較にて有意差のあった項目は,すべて非がん疾患の方が低い評価であった.

心疾患のCESでは,「身体的ケア(医師・看護師)」「精神的ケア」の項目で統計的有意差を認め,効果量より臨床的にも差を認めた.心疾患の終末期患者は様々な症状を経験し,死が近づくにつれて症状の悪化による苦痛が増大する18)ため,臨床経過にあわせた緩和ケアが求められるが,2016年に厚生労働省より循環器疾患の緩和ケアの医療体制整備に取り組む方針が打ち出されたのを皮切りに,急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改定版)に緩和ケアの位置づけが明記され19),2018年の診療報酬改定にて緩和ケア診療加算に末期心不全患者が追加される20)など,緒についたばかりである.心疾患では,がんと異なり,症状を緩和するために最期まで心不全や合併症に対する治療が必要である19).緩和ケアチームによる専門的緩和ケアも有用だが,心疾患の治療を熟知した循環器内科医による基本的緩和ケアの充実が緩和ケアの質向上に大きく貢献すると考えられる.また,CESの「説明・意思決定(家族)」の項目も統計的有意差を認め,効果量より臨床的にも差を認めた.わが国の心疾患患者の家族に対する支援は欧米と比べ遅れており,家族対象の研究や一般的な情報提供や支援は少ない21).石原21)は,心疾患患者の家族には,心疾患特有の突然死や心不全への移行に対する不安がある一方で,回復への期待と相反する感情が生じていると述べており,そのような心理状態の家族への病状説明時の支援や意思決定支援の確立が求められる.

脳血管疾患患者のCESは,患者背景を調整した分析では統計的有意差を認めなかったが,調整前では「身体的ケア(医師)」の項目で統計的有意差を認め,効果量より臨床的にも差を認めた.Addington-Hallら17)は,脳卒中患者が疼痛をはじめとした多くの症状に悩まされ,療養場所に関係なく疼痛緩和が不十分であったと報告している.脳血管疾患の後遺症による認知機能の低下やコミュニケーション障害は患者の苦痛や状態変化の把握を妨げることがあり,過小評価になりやすい17).そのことを念頭に置き,症状緩和に努める必要がある.

肺炎患者のCESは,「身体的ケア(医師・看護師)」の項目で統計的有意差を認め,効果量より臨床的にも差を認めた.わが国における肺炎死亡の97%が65歳以上であり22),本研究の調査対象も肺炎患者の年齢が有意に高かった.Watererらは,死因が市中肺炎である患者の多くが高齢者であり,より多くの併存疾患を抱えていたと報告している23).また,高齢であればあるほど認知症を合併する可能性は高く,65歳以降では5歳ごとに認知症の有病率が倍になる24)といわれている.認知症やその他の併存疾患が多いと症状緩和は難渋しやすく,本研究対象の併存疾患は未調査だが,高齢の特徴であるこれらが結果に影響した可能性がある.定期的に症状の評価を行い,症状緩和に努めることが求められる.

GDIにて評価した緩和ケアのアウトカム評価においても,がんとの比較にて有意差を認めた項目は,非がん疾患の方が低い評価であった.「家族や友人と十分に時間を過ごせた」「身の回りのことはたいてい自分でできた」「大切な人に伝えたいことを伝えられた」の項目は,急性心筋梗塞などの急変による突然死25),脳血管疾患の後遺症,高齢,認知症など,疾患の特徴による影響が考えられた.「医師を信頼していた」の項目は,脳血管疾患において統計的有意差を認め,効果量より臨床的にも差を認めた.脳血管疾患患者の一部は急性期に死亡するが,急性期を脱した患者は併存疾患や合併症で死亡する26).このような急性期を脱した脳血管疾患患者は,医師との関係を希薄に感じやすく,そのことが医師の低評価につながった可能性がある.Kendallら27)は,医師がリハビリを重視していた一方で,患者は死の準備に関する話し合いを求めていたと報告している.このようなずれが生じないよう,患者の意向を確認し,対話を積み重ねていく必要がある.

研究の限界

本研究の限界は,第1に,遺族の回答による疾患名が医学的な死因と一致しない可能性があり,また,死因以外の併存疾患が考慮されていない点にある.そのため,死因別の群間比較において検出力低下に影響を与えた可能性がある.第2に,調査方法がインターネット調査であり,対象がインターネットを利用する人に限定されたことによるサンプリングバイアスが考えられる.第3に,ケア評価およびアウトカム評価が遺族による代理評価であり,遺族の主観の影響や思い出しバイアスの可能性がある.また,回答した遺族の患者との関係性が影響するため,評価の質が均一ではなかった可能性がある.第4に,死亡場所における緩和ケアの提供状況については調査しておらず,施設間の差ががんと非がん死因別の評価の差に影響した可能性がある.

結論

本研究は,インターネットを使用した質問紙により,がん患者と非がん患者の終末期に提供される緩和ケアについて,ケア評価とケアのアウトカム評価を遺族の視点から調査した.非がん患者の終末期のケアに対する遺族の満足度は,がん患者の遺族同様,高い評価であった.しかし,緩和ケアの構造・プロセス・アウトカムのいくつかの項目では,非がん患者の方が有意に低い評価であり,心疾患・脳血管疾患・肺炎の終末期における緩和ケアの課題がそれぞれ具体的に示唆された.急性増悪を繰り返すなど治療効果にとらわれがちな状況においても症状緩和への配慮と終末期を意識した対応が必要である.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

宇根底および大西は,研究データの収集・分析・解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;佐藤,宮下,岩淵は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析・解釈,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;森田および木下は,研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;後藤は,研究データの収集・分析・解釈,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献した.また,すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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