Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
終末期にある小児がん患者のQOLと関連要因─看護師によるQOL代理評価尺度を用いて─
名古屋 祐子宮下 光令入江 亘余谷 暢之塩飽 仁
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2020 年 15 巻 2 号 p. 53-64

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Abstract

【目的】看護師による代理評価を用いて終末期にある小児がん患者のQuality of Life(QOL)とその関連要因を検証する.【方法】2015年10月〜2016年2月に国内の小児がん治療施設に勤務し,終末期にある小児がん患者を担当した看護師を対象とし,看護師によるQOL代理評価尺度(Good Death Inventory for Pediatrics: GDI-P)22項目とその関連要因を調査した.【結果】18施設から患者53名分の代理評価を得た.GDI-P8下位尺度のうち「からだや心の苦痛が緩和されていること」が最も平均が低かった.GDI-Pの総得点は,ケアの構造・プロセスの評価と正の相関がみられ(r=0.58),死亡場所は症例数に偏りがあったが集中治療室の場合は自宅や病棟より得点が低かった.【結論】苦痛緩和が最優先課題であるとともに,ケアの構造・プロセスの評価がQOLと関連している可能性が示唆された.

緒言

近年,小児がん治療の向上によって多くの小児がん患者が治癒を望める時代になった.しかしながら,未だ小児がん患者の20〜30%は治癒が難しく,子どもの死因の上位を占めている状況に変わりはない1,2).小児がんの終末期医療やケアの現状に関しては諸外国を中心に,終末期における積極的な治療や心肺蘇生などの実施状況35),死亡場所の希望や現状6,7)などの報告がされているが,終末期におけるケアの構造・プロセスの評価やQuality of Life (QOL)に焦点を当てた定量的調査の報告は数少ない.

終末期ケアの質の保証や向上のために,質の評価を行うことは重要である810).質の評価として,Donabedian11)は,構造・プロセス・アウトカムの三つの側面から評価する理論モデルを提唱している.終末期ケア評価におけるアウトカム指標の一つとしてQOLが挙げられ12,13),成人領域ではすでに終末期におけるQOLの客観的評価のための数量化が国内外で実用化されるとともに8,14),終末期のQOL評価や関連要因の検討が行われている1520)

終末期のQOL評価を行ううえでの課題がいくつか挙げられている.QOLは患者立脚型のアウトカム指標であり主観的側面が強く,代理評価が難しいとされているが21),終末期は死が差し迫っていることから患者本人による評価が難しく,成人の終末期のQOL調査においても,患者と同居の家族もしくは毎日面会に来た人を中心とした代理評価が行われている22).小児領域においてはさらに,患者が子どもという特性から患者本人によるQOL評価がより一層困難になる.このような場合,代理評価者として適しているのは患者の最も身近にいる親であるが23),終末期にある患者の家族は精神的苦痛が強い状況にあることや24),精神的苦痛は死別後の悲嘆にも大きな影響をおよぼすことが指摘されている25,26).また,日本で年間亡くなる小児がん患者は約400〜450人であり27),大規模な遺族調査を実施することは事実上非常に難しい.

医療者による代理評価についてJonesらは28),終末期にある患者が自己申告したQOLと家族および緩和ケア医によるQOLの代理評価との一致度を調査した結果,入院後の時間経過とともに自己申告と代理評価の差が減少したと報告している.このことから,われわれは,長期的に患者に関わる医療者による子どものQOLの代理評価が可能であるとともに,疾患だけでなく患者とその家族を包括的に理解しケアする役割を担っている看護師が医療者の中で最も終末期ケアの代理評価に適していると考えた.

以上のことから,本研究では看護師による代理評価を用いて終末期にある小児がん患者のQOLとその関連要因を検証することを目的とした.本研究は,終末期の小児がん患者のQOL向上の一助になると考える.

方法

対象

看護師が代理評価を行う患者の選定基準は(1)小児がんによって亡くなった,(2)調査日から3年以内に亡くなった,(3)終末期であることを少なくとも家族には伝えられていた,とした.また,除外基準は(1)終末期と診断されてから1週間以内に亡くなった,(2)死亡時年齢が20歳以上,とした.なお,本研究における終末期とは,これ以上積極的な治療を行っても治癒する可能性が残されていないと医師が診断した以降の時期とした.

代理評価を行う看護師は,日本国内の小児がん治療施設のうち,本研究の先行研究29)の調査で積極的に協力が得られた施設もしくは小児がん拠点病院計45施設に勤務し,終末期の小児がん患者のプライマリー看護師や固定チーム内の看護師など,代理評価を行う患者を主に担当していた看護師とした.本研究における小児がん治療施設とは,2015年4月時点で日本小児白血病リンパ腫研究グループ,日本小児肝癌スタディグループ,日本ウィルムス腫瘍スタディグループ,日本横紋筋肉腫研究グループ,日本神経芽腫研究グループ,日本ユーイング肉腫研究グループおよび日本小児脳腫瘍コンソーシアムのいずれかに登録されている施設とした.なお,代理評価を行う患者1名につき看護師2名を対象とした.

データ収集方法

各施設の看護部長に依頼文書を送付し,調査の同意が得られた場合にのみ,各施設から配布許諾を得た部数の質問紙を送付し返信用封筒を用いて返信を依頼した.なお,質問紙は代理評価を行う患者1名に対して2部送付し,ペアがわかるように番号を付した.調査期間は2015年10月から2016年2月であった.

調査項目 

1)看護師が代理評価を行う患者および患者が死亡時に入院していた施設の背景

性別,病名,発症年齢,死亡年齢,死亡場所(病棟,自宅,集中治療室),自宅からの病院までの移動時間,きょうだいの有無,小児がん拠点病院の有無,施設の種別(総合病院の小児科・小児外科,小児専門病院),終末期の面会制限の有無,利用できる緩和ケアチームの有無について尋ねた.

2)代理評価を行う看護師の背景

性別,年齢,職業経験年数,小児がん領域の経験年数,小児がん患者の終末期ケアの経験人数を尋ねた.なお,終末期ケアの経験人数は厳密な回答が難しいと考え,6段階(1〜5人から21〜25人まで5人刻み,26人以上)の選択式回答とした.

3)終末期ケアの質の構造・プロセス評価

終末期ケアの質の構造・プロセス評価には,日本の成人がん領域で作成された「ケアに対する評価尺度(Care Evaluation Scale: CES)30)」を尺度開発者に承諾を得たうえで一部改編して用いた.CESは10下位尺度28項目からなり,信頼性・妥当性が確認されている.CESに含まれる下位尺度は「医師の対応」,「看護師の対応」,「患者様への精神的配慮」,「医師から患者様への説明」,「医師から家族への説明」,「設備」,「ご家族への配慮」,「費用」,「入院(利用)」,「連携や継続性」であるが,「費用」は代理評価が難しく,また,小児がんの場合には血液腫瘍が多く,終末期であっても病院で過ごすことが多いため「入院(利用)」は該当しにくいと考え,二つの下位尺度を除外し,8下位尺度25項目を使用した.なお,下位尺度名は小児領域の特徴に合わせ,「からだの苦痛に対する医師の対応」,「からだの苦痛に対する看護師の対応」,「子どもと家族への精神的配慮」,「医師から子どもへの説明」,「医師から家族への説明」,「設備」,「家族への配慮」,「連携や継続性」とした.小児用に改編後,内容的妥当性の検討を小児看護学の研究者3名と小児看護専門看護師1名によって行った.また,表面妥当性の検討のために小児がん患者の終末期ケアを1例以上行った経験のある6名の看護師と1名の医師にパイロット調査を行ったが,質問項目の追加,削除や表現の修正に関する意見はなかった.

回答は,各項目の達成度について,5段階リッカートスケール(「5点:非常にそう思う」,「4点:どちらかというとそう思う」,「3点:どちらともいえない」,「2点:どちらかというとそう思わない」,「1点:まったくそう思わない」)で求めた.得点の高さは,各項目の達成度の高さを示す.なお,「医師から子どもへの説明」は,子どもの年齢や状況によって,いずれの回答欄にも該当しないと考えられる場合に限り「該当しない」という回答を認めた.

4)終末期ケアの質のアウトカム評価

終末期ケアの質のアウトカム評価には,筆者らが作成した「看護師による終末期にある小児がん患者のQOL代理評価尺度(Good Death Inventory for Pediatrics: GDI-P)」31)を用いた.GDI-Pは「からだや心の苦痛が緩和されていること」,「遊び学べること」,「思い出づくりや望みを叶えること」,「できる限りこれまでと同じように過ごすこと」,「医療者と良好な関係で過ごすこと」,「家族と過ごすこと」,「最小限の医療環境で過ごすこと」,「家族に見守られながら穏やかに最期を迎えること」の8下位尺度22項目で構成されている.GDI-Pは信頼性・妥当性が検討されているが,代理評価に関連するリスクを軽減するために,評価者2名の平均値を用いることが推奨されている31)

GDI-Pは,小児がん患者の終末期のQOL評価のために開発された尺度であり,小児がん患者のQOL尺度の中で代表的なPediatric Quality of Life Inventory(PedsQL) がんモジュール32)を一例に挙げて比較すると,PedsQLがんモジュールが,痛み,吐気,不安(処置/治療)といった治療関連のドメインで構成されているのに対して,個人の幸せや満足といった主観的認識によるところが大きいドメイン(例「できる限りこれまでと同じように過ごすこと」「思い出づくりや望みを叶えること」)や,終末期特有のドメイン(例「最小限の医療環境で過ごすこと」「家族に見守られながら穏やかに最期を迎えること」)が含まれている.このことから,より終末期の小児がん患者のQOL評価に適していると考え,本研究ではGDI-Pを用いた.

回答は各項目の達成度について,終末期ケアの質の構造・プロセス評価と同様に5段階リッカートスケールで求めた.また,子どもの年齢や状況により,いずれの回答欄にも該当しないと考えられる場合に限り,「該当しない」という回答を認めた.

分析方法

看護師が代理評価を行う患者1名に対して看護師2名から回答が得られた場合には,看護師2名の平均点を分析に用い,看護師が代理評価を行う患者1名に対し看護師1名のみから回答が得られた場合にはそのまま得点を用いた.該当しないと回答があった場合と欠損値は除外して分析を行った.分析は次の手順で行った.(1)看護師が代理評価を行う患者の背景,代理評価を行う看護師の背景,CES総得点および下位尺度得点,GDI-P総得点および各下位尺度得点について記述統計を行った.(2)CESとGDI-Pの各項目の得点が3.5点以上の割合を算出し,その割合を便宜的に達成度とした.(3) GDI-Pの関連要因を検討するため,独立変数を看護師が代理評価を行う患者の背景,従属変数をGDI-P総得点および各下位尺度得点とし,2群間差はWilcoxon検定,3群間差は独立サンプルによるKruskal-Wallis検定を行った.(4)CESとGDI-Pの関連を検討するため,独立変数をCES総得点および下位尺度得点,従属変数をGDI-P総得点および下位尺度得点とし,相関係数を算出した.

すべての分析において有意水準は5%とし,両側検定を用いた.統計学的分析には,JMP® 13.1.0(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いた.

倫理的配慮

調査への参加は対象者の自由意志によるものとし,質問紙への回答をもって同意とした.回収した回答用紙は東北大学大学院医学系研究科小児看護学分野内で鍵管理のもとに保管するとともに,看護師が代理評価を行う患者および代理評価を行う看護師が特定されないように配慮した.本研究は東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2015-1-413).

結果

1. 看護師が代理評価を行った患者と代理評価を行った看護師の背景

45施設中,協力が得られた18施設(施設応諾率40.0%)112名に配布し,85名(回収率75.9%)から回答が得られた.看護師が代理評価を行った患者は53名であった.看護師が代理評価を行った患者1名に対して看護師2名から回答が揃ったのは32組64部,他21部は看護師が代理評価を行った患者1名に対して看護師1名から回答が得られた.看護師が代理評価を行った患者と代理評価を行った看護師の背景を表1に示す.

表1 対象者の背景

2. 終末期ケアの質の構造・プロセス評価

CESの各下位尺度は平均3.2から4.4点であり,最も低かったのが「設備」で,最も高かったのが「医師から家族への説明」であった.全25項目のうち,達成度が8割以上であったのは14項目であり,5割未満だったのは3項目であった(表2).

表2 Care Evaluation Scale(CES)の代理評価得点(n=53)

3. 終末期ケアの質のアウトカム評価

GDI-Pの各下位尺度は平均3.3から4.4点であり,最も平均が低かったのは「からだや心の苦痛が緩和されていること」,最も平均が高かったのは「家族と過ごすこと」であった.全22項目のうち,達成度が8割以上であったのは[信頼できる医師がいた],[日中,家族と一緒に過ごすことができた],[夜間,家族と一緒に過ごすことができた],[家族が仲良く過ごすことができた],[家族に見守られながら最期を迎えることができた]の5項目,5割未満だったのは[穏やかな気持ちで過ごすことができた],[終末期以前と変わらない日常生活を過ごすことができた]の2項目であった(表3).

表3 Good Death Inventory for Pediatrics(GDI-P)の代理評価得点(n=53)

4. アウトカム評価の関連要因

看護師が代理評価を行った患者の背景要因とGDI-Pとの関連を表4に示す.GDI-Pの下位尺度で最も平均が低かった「からだや心の苦痛が緩和されていること」は女児で発症時期と死亡時期が6歳以上の場合に有意に得点が低かった.また,GDI-Pの総得点は,死亡場所が集中治療室の場合に自宅よりも30.9±9.0(平均±標準偏差)点,病棟よりも19.8±7.2点低かった.また,死亡場所が集中治療室の場合,GDI-P8下位尺度中4下位尺度でほか二つの死亡場所よりも平均が有意に低かった.

CESとGDI-Pとの関連を表5に示す.CESの総得点とGDI-Pの総得点間に正の相関が認められた(r=0.58, P<0.001).また,GDI-Pの下位尺度で最も平均が低かった「からだや心の苦痛が緩和されていること」は,苦痛に対するケアプロセスを示すCESの下位尺度である「からだの苦痛に対する医師の対応」との間に弱い相関が認められ(r=0.28, p=0.073),「からだの苦痛に対する看護師の対応」との間には相関が認められなかった(r=0.16, p=0.308).

表4 Good Death Inventory for Pediatrics(GDI-P)と看護師が代理評価を行った患者の背景との関連
表5 Good Death Inventory for Pediatrics(GDI-P)とCare Evaluation Scale(CES)との関連

考察

本研究では,看護師による代理評価を用い,日本における終末期にある小児がん患者のQOLとその関連要因を定量的に調査した.研究の限界として,看護師による代理評価を用いている,看護師の主観や思い出しバイアスによる影響が考えられる,対象者数が少ないといったことが挙げられ,結果の解釈には注意を要するが,本研究の結果から主に二つの知見が得られた.一つ目は,終末期にある小児がん患者の苦痛緩和が不十分であり,苦痛が高い子どもの特徴として,女児,学童期以上であることが推察された.また,集中治療室と自宅で死亡した対象患者数が限られていたが,死亡場所も苦痛と関連している可能性が示唆された.二つ目は,終末期にある小児がん患者のQOLには,子どもの家族への精神的配慮や説明といった終末期ケアの構造・プロセスの評価や死亡場所との関連が示唆された.

1. 終末期にある小児がん患者の苦痛緩和

GDI-Pの下位尺度得点の中で,最も平均点が低かったのは「からだや心の苦痛が緩和されていること」であった.終末期にある小児がん患者の約9割が少なくとも一つ以上の苦痛症状を有しているといわれており33),本研究においても先行研究と同様に苦痛緩和が十分に行えているとは言い難い現状にあることが推察された.また,成人領域の遺族調査の結果,終末期の若年成人(20〜39歳)がん患者は,身体症状の苦痛緩和が得られた割合が56%であり,中年(40〜64歳)がん患者の65%や高齢(65歳以上)がん患者の72%と比較して低いことが指摘されている34).本研究の結果から,苦痛の緩和が小児・若年成人領域に共通した課題だと推察される.

「からだや心の苦痛が緩和されていること」の得点の低さは,女児,発症時期および死亡時期が6歳以上,死亡場所が自宅よりも集中治療室であることと関連していた.性差と苦痛の関連について,女児の方が苦痛の訴えが強いことが先行文献においても指摘されている35,36).また,年齢と苦痛の関連について,Jalmsell37)らは9〜15歳の年代は他の年代と比較して苦痛が強いと述べており,本研究においても9〜15歳の年代が含まれる6歳以上の群の方がより苦痛が強く,性差,年齢と苦痛との関連は先行研究と一致していた.一方,6歳未満の子どもは言語的コミュニケーション能力の獲得段階にあるため,医療者側が子どもの苦痛を十分に捉えきれていない可能性も否定できない.死亡場所と苦痛の関連については,集中治療室と自宅で死亡した対象患者数が限られているため十分な考察に至らないが,集中治療室で亡くなる子どもは,全身状態が悪い,急変に伴う予期せぬ入室,侵襲的処置を受ける機会が多いといったことから苦痛の増加につながったと考えられる.

2. 終末期にある小児がん患者のQOLの関連要因

終末期にある小児がん患者のQOLは死亡場所とケアの構造・プロセスの評価と関連しており,死亡場所については集中治療室の場合に最もQOLが低かった.死亡場所が集中治療室の場合,GDI-Pの下位尺度である「からだや心の苦痛が緩和されていること」,「できる限りこれまでと同じように過ごすこと」,「最小限の医療環境で過ごすこと」,「家族に見守られながら穏やかに最期を迎えること」が,病棟や自宅の場合に比べて有意に得点が低かった.今回得られたデータは,集中治療室と自宅で亡くなった対象患者が少ないため,死亡場所とQOLが関連すると言い切ることは難しいが,集中治療の場で,生命維持のためのケアと苦痛が少ない穏やかな時間づくりなどの質の高い終末期ケアが併走できているとは言い難い現状である可能性が示唆された.

GDI-Pの総得点はCESの総得点およびCESの下位尺度である「子どもと家族への精神的配慮」,「医師から家族への説明」と正の相関が認められ,家族に対する十分な説明や希望を叶えるための調整といったケアが終末期の小児がん患者のQOLにつながっていると推測される.一方で,CESの下位尺度である「からだの苦痛に対する医師の対応」や「からだの苦痛に対する看護師の対応」の達成度が6項目中5項目で9割を超えていたが,GDI-Pの総得点およびGDI-Pの下位尺度「からだや心の苦痛が緩和されていること」と弱い相関しか認められず,苦痛緩和へのケアプロセスが効果的な苦痛緩和に結びついていない可能性が示唆された.先に示した若年成人の調査結果においても,若年成人がん患者に対する終末期ケアの質は全体的に高かったものの,若年成人がん患者のQOLは全体的に低いことが指摘されている34).ケアの構造・プロセスの評価とQOLの結果のかい離に対し,小児領域における症状緩和の質を向上させるための方略の検討や小児緩和医療・ケアのベースアップが必要である.

研究の限界

本研究の主な限界は,第1に,GDI-Pは看護師による代理評価尺度であり,看護師と遺族間,看護師と患者本人間の評価者間信頼性は検討されていない.代理評価の場合,医療者と遺族間で心理的側面の評価の一致率が低いといわれており38),終末期にある小児がん患者本人や遺族の声をどの程度正確に反映しているか課題が残る.第2に,GDI-Pは,看護師の主観や思い出しバイアスによる影響を最小限にするために2名の代理評価者の平均を用いることが推奨されているが,代理評価を行う患者1名につき看護師2名から回答が揃ったのは約6割にとどまった.また,1名の看護師からのみの回答と2名の看護師からの回答の平均を同一に扱うことで,達成度の基準が不明瞭になった点が課題として挙げられる.第3に,看護師が代理評価を行った患者数が少なく,QOLおよび関連要因を十分に検討することができたとは言い難い.そのため,本研究の結果を,日本の現状として一般化することは難しい.以上のような限界があるものの,本研究は日本において小児がん患者の終末期のQOLとその関連要因を定量的に評価した初めての調査である.今後,対象者数を増やしデータを蓄積して関連要因をより明確にするとともに,数年ごとに同様の調査を行い,終末期ケアの質を経年的に評価し,終末期にある小児がん患者と家族のQOL向上につなげていくことが大切だと考える.

結論

本研究は,終末期にある小児がん患者のQOLとその関連要因を看護師による代理評価尺度を用いて定量的に調査した.本研究は看護師による代理評価であるため結果の解釈には注意を要するが,本研究の結果から,終末期にある小児がん患者の苦痛緩和が不十分な現状と,苦痛緩和へのケアプロセスの評価は全体的に高かったが,効果的な苦痛緩和へ結びついていない現状にあることが示唆された.終末期にある小児がん患者に対するQOLの向上において,苦痛緩和が最優先課題であると考えられる.

付記

本研究は平成27年度公益財団法人安田記念医学財団の癌看護研究助成(大学院学生)を受けて行った.また,平成29年第15回日本小児がん看護学会学術集会にて発表した.

利益相反

宮下光令:企業の職員・顧問職(NPO法人ホスピス緩和ケア協会理事),原稿料(株式会社メディカ出版)その他:該当なし

著者貢献

名古屋は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献;宮下および塩飽は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;入江は研究の構想およびデザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;余谷は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2020日本緩和医療学会
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