Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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短報
医療型障害児入所施設の職員のアドバンス・ケア・プランニングに関する意識調査
竹本 潔 譽田 貴子服部 妙香田中 勝治新宅 治夫
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電子付録

2022 年 17 巻 4 号 p. 153-157

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Abstract

【目的】医療型障害児入所施設の職員の終末期ケアに関する意識と施設の現状を明らかにする.【方法】医療型障害児入所施設の全職員466人を対象にACPに関する意識調査を行った.【結果】回収率77.0%,ACP(または人生会議)を知らないと回答した直接支援者は20.2%,間接支援者は50.9%であった.人生の最終段階における医療・ケアについて本人や家族等との話し合い経験者は27.1%であった.話し合いの内容は本人よりも家族の価値観や希望が多く,開始のタイミングは死が近づいた時が多かった.ACP導入については直接支援者の7割以上が希望し,事前準備として研修を希望する人が多かった.家族不在の場合の代理意思決定については多職種の医療・ケアチームで協議し,その結果を倫理委員会で承認を受けることに対して,大半の職員が賛成した.【結論】医療型障害児入所施設でのACP推進には職員への研修が必要である.

Translated Abstract

Purpose: To clarify staff awareness and the current status of facilities regarding end-of-life care and the planning for severely disabled children and adults. Methods: A questionnaire survey on ACP was conducted on all 466 staff members of a residential facility for children with medical disabilities. Results: The response rate was 77.0%; 20.2% of direct support staff and 50.9% of indirect support staff answered that they had never heard of ACP (or life conferences). The respondents had experienced discussions with the patient and family members about medical treatment and care in the last stage of life was 27.1%. The content of the discussions was more often about the family's values and wishes than about the patient's values and intentions, and the timing of the start of the discussions was often when death was approaching .More than 70% of the direct supporters wished to participate in ACP, discussions, and they wished to receive training in advance of ACP implementation .The majority of staff agreed that surrogate decision-making in the absence of family members should be discussed by a multidisciplinary medical and care team, and that the results should be approved by an ethics committee. Conclusion: Training for staff is necessary for the promotion of ACP in medical-type residential care facilities for children with disabilities.

緒言

医療型障害児入所施設には,最重度の身体障害と知的障害を合併した重症心身障害児者(以下,重症児者)が長期に入所している.気管切開,人工呼吸管理,経管栄養など医療ケアが必要な方が多く,原疾患による病状進行や,肺炎やイレウス等の急性疾患で急変する危険性を抱えながら生活している現状がある.

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は「意思決定能力を有する」個人との事前の話し合いであることが国際的に定義されており,代理意思決定者を立てる場合も通常は本人が指定することになっている 1.一方で厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では,本人の意思が確認できない場合は家族が,家族が不可能な場合には医療・ケアチームが本人の意思を慎重に推定して,最善の方針をとることが可能であると記載されている 2.本人が意思決定できない重症児者に対する終末期ケアとそのプランニングは,ACPではなく「best interest課題」であるという見方もある.しかし,家族や医療・ケアチームで推定された「最善の利益(best interest)」を実現するための具体的な事前ケアプランであり,重症児者に対するACPとして報告もされている 35.私たちは事前ケアプランをACPの一つの形と考えて,今回の調査を実施した.

医療型障害児入所施設では,入所者の高齢化によって両親健在のケースが減少しており 6,家族が健在のうちに十分話し合いを行っておく必要性に迫られている 7.しかし,重症児者は医療に限らず日常のケアでも意思疎通が難しいために,職員はACP導入に躊躇する可能性がある.私たちは,意思確認が難しいからこそACPを早い段階から継続的に進めることで,より本人の価値観や意向に寄り添ったケアが実現できる可能性があると考えた.今回ACPに関する自施設の現状把握とACP推進の糸口になることを期待して職員に意識調査を実施したので報告する.

方法

調査対象

大阪発達総合療育センター(大阪市東住吉区の120床の療育施設.併設する医療型障害児入所施設フェニックスは長期入所者63名,うち未成年者14名,意思決定能力があると考えられる方は1名)に勤務する全職員466人を対象とした.職種は医師,看護師,生活支援員,リハビリ専門職,その他の専門職(栄養士,相談員,心理職,薬剤師,歯科衛生士,検査技師),事務職とした.事務職も間接的な支援者であると考え調査対象に加えた.

調査期間

令和2年7月1日~31日

調査方法

無記名自記式質問紙を配布し,結果を回収した.

質問紙(付録図1)は厚生労働省の「人生の最終段階における医療に関する調査」 8を参考にして過去に重症児者のACP作成に関与した経験のある複数の医師,看護師で作成した.

分析方法

項目ごとに単純集計した.

倫理的配慮

本研究は,大阪発達総合療育センターの倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:倫20-2).対象者には文書にて研究目的と背景,研究方法,個人情報保護の遵守,研究結果の使用用途について説明し,アンケートの回収をもって研究協力への同意とした.

結果

回答者の属性

アンケート回収率は77.0%(466人中359人).回答者の属性は表1に示した.重症児者に直接接する「医師」,「看護師」,「生活支援員」,「リハビリ専門職」の4職種(以下,直接支援者)の合計は243人であった.

表1 回答者の属性(n=359)

直接支援者の重症児者との関わりの実態

「重症児者の人生の最終段階における医療・ケア」について,本人,家族等と話し合いの経験があるのは66人(27.1%)で,職種の内訳は医師8人,看護師32人,生活支援員11人,リハビリ専門職15人であった.話し合った内容は図1に示した.「家族の価値観・希望・意向」が60人で最も多かった.話し合い経験者が話し合いを開始した時期は「死が近づいた時」が54人で最も多く,「新たな治療方針の決定が必要な時」33人,「家族からの相談,申し出」29人,「侵襲的,高度医療が必要な時」28人,「定期的な面談時」20人,「普段の関わりの中で」11人,「家族の体調悪化時」5人の順であった(複数回答).

図1 重症児者の人生の最終段階における話し合いの内容

ACPの認知度

「ACP(または人生会議)の意味を知らない」と回答した人は直接支援者では49人(20.2%),間接支援者では59人(50.9%)で,間接支援者での認知度が低かった.

直接支援者のACP導入について

「ACP導入についての考え」は図2に示した.7割以上の職員は導入には賛成の意向を示したが,医師以外の職種では「導入には準備が必要」と回答した人の割合が25%以上を占めていた.「導入したいが準備が必要」「導入したくない」と回答した理由は,「事前研修の希望」が53人で最も多く,以下「導入方法がわからない」34人,「時間的な余裕がなく,勤務時間内に実施できない」20人,「多職種で話し合うことが難しい」14人と続いた.

図2 ACP導入についての考え

本人や家族が意思決定できない場合に相応しい代理意思決定者の複数回答は「担当医師」が160人で最も多く,以下「成年後見人」139人,「親戚」133人,「担当看護師」110人,「担当生活支援員」91人,「担当リハビリ専門職」76人,「施設長」49人,「その他」26人であった.

「家族不在の場合の代理意思決定を医療・ケアチームで協議し,その結果を倫理委員会で承認を受ける」ことについては賛成190人(78.2%),反対3人(1.2%),「わからない」が39人(16.0%)であった.

考察

重症児者の高齢化や重症化とともに家族の高齢化や不在が進む中 6,7,911,重症児者の最善の利益を保証した終末期ケアの実践は重症児者施設の喫緊の課題である.浅野ら 7は,家族にしかわからない本人の表出があるため家族の意思が重視されるべきであるが,施設で生活する重症児者は,家族と離れて生活する時間が長く,家族の理解を超えた状態の場合があり,病状の変化を客観的に伝える必要性を述べている.今回の調査で人生の最終段階の医療・ケアについて本人,家族等と話し合いを経験した職員の話し合った内容は本人の価値観や意向よりも家族の価値観や希望が多かった.本人に代わってさまざまな選択と決断を行ってきた家族の希望には本人の意向が含まれていると推測できる.家族が納得できるように本人の最善の利益について多職種で考えることは家族支援につながると考える.

話し合いを開始した時期は死が近づいた時が最も多かったが,少数ではあったが普段の関わりの中でも話し合いができていた.

片山 12は意思形成の支援は,面談の場を設けて聴くだけでなく,関わる多職種が常に感度よくアンテナを張り,意図的に取り組むことが重要であると述べている.日々の医療やケアの中で重症児者の気持ちを断片的にくみ取ることができれば,それを言語化して他の職員や家族と共有することで,本人の意思に寄り添った医療やケアを提供できる可能性がある.私たちは今回の調査後に電子カルテに「気づきメモ」を作成し,普段のちょっとした「気づき」を文章化して多職種で共有できる取り組みを開始したところである.

ACPの認知度は直接支援者と間接支援者で差がみられた.業務中に死に接する経験をすることで終末期ケアを意識する契機になっていると考えられた.

ACP導入については導入方法がわからないという回答や,導入準備としての事前研修を希望している人が多いことがわかったため,定期的に研修を実施する計画である.また,時間的余裕がないという回答もみられ,日常業務の効率化も課題と認識できた.

本人や家族が意思決定できない場合の相応しい代理意思決定者として「担当医師」を挙げた職員が最も多かった.これは医療型障害児入所施設における特徴的な回答かもしれない.15年以上の長期間入所している方が多く,医療・介護だけでなくさまざまなレクリエーションを含む行事を,医師を含む職員はともに行っている.職員は家族同様の密な付き合いとなるため,多職種職員のリーダーである担当医師の名前が挙がったのであろう.代理意思決定については倫理委員会で承認を得ることが望ましいと多くの職員が回答していた.とくに家族が意思決定できない場合にはより慎重な判断が必要となるため,医療・ケアチームで話し合った内容を倫理委員会で審査を受けることは,職員の精神的負担の軽減につながると考える.

船戸らは 13医療と療育の役割は,医療・ケアチームで本人の人権と尊厳を大切にして最善の利益を個別に支援することにあると述べている.日々のケアの中で重症児者が表出した反応や職員の気づきも診療録等と同様に記録に残して共有し,話し合いを重ねて作成した事前ケアプランは,重症児者一人ひとりの個性を尊重した終末期ケアにつながっていくと考えられる.

最後に,本研究の限界は単一施設調査であるため,今回の結果を医療型障害児入所施設の傾向として一般化することはできない.

結論

ACP導入には事前準備として研修を希望する職員が多かった.重症児者のACPで話し合った内容は本人より家族の価値観が多かった.家族が不在時の代理意思決定は,医療・ケアチームで協議し,内容を倫理委員会で承認を受けることに多くの職員が賛成した.

本内容は第46回日本重症心身障害学会学術集会(2021年12月,Web)で発表した.

謝辞

アンケートにご協力いただいた職員の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反

著者の申請すべき利益相反なし

著者貢献

竹本,譽田は研究の構想,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.服部,田中,新宅は原稿の起草,研究の構想,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2022 日本緩和医療学会
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