Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
がん疼痛マネジメントの看護実践尺度の開発と信頼性・妥当性の検討
髙橋 紀子 青山 真帆佐藤 一樹清水 陽一五十嵐 尚子宮下 光令
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電子付録

2023 年 18 巻 1 号 p. 19-29

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Abstract

エビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの看護実践を評価する尺度を開発し信頼性・妥当性および関連要因の検討を目的とした.がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに基づき仮尺度を作成し,地域がん診療連携拠点病院1施設の看護師189名に再テストを含む2回の調査を行った.探索的因子分析の結果,一因子50項目のがん疼痛マネジメントの看護実践尺度とその短縮版を開発した.尺度全体のCronbachのα係数は0.98(短縮版0.88)で内的一貫性を,再テストの級内相関係数は0.52(短縮版0.77)で信頼性を,緩和ケアの実践,知識,困難感,自信尺度とのそれぞれの相関で併存妥当性を確認した.がん疼痛マネジメントの看護実践の関連要因は,がん看護の経験年数,卒後教育の回数,卒後教育を十分に受けたと思うかだった.本尺度は,日々の臨床実践の評価やがん疼痛看護研修など教育的な取り組み後の実践評価などに活用できる.

Translated Abstract

The aims of this study were (1) to develop and validate the scale to measure evidence-based nursing practice in cancer pain management and (2) to identify associated factors. We developed potential items based on the 2014 version of Japanese Clinical Guidelines for Cancer Pain Management and administered anonymous questionnaire for 189 oncology nurses in a designated cancer center. We conducted a re-test to test reliability.167 nurses participated in the study. As a result of item analysis and exploratory factor analysis, we developed a nursing practice scale of cancer pain management and its shortened version. This scale consists of 1 domain 50 items The Cronbach’s α coefficient showing internal consistency was 0.98 (shortened version 0.88). The intra-class correlation coefficient of reliability was 0.52 (shortened version 0.77). Concurrent validity was confirmed by the correlation between the total score of the whole scale and the total score of the practice of palliative care, knowledge, difficulty, self-confidence scale. We concluded that this scale was valid and reliable. Factors related to the nursing practice of cancer pain management were years of experience in cancer nursing, opportunities of postgraduate education, and satisfaction with postgraduate education. This scale can be used for evaluation of daily clinical practice and practice evaluation after educational efforts such as cancer pain nursing training.

緒言

2016年のvan den Beuken-vanらのシステマティックレビューによるがん疼痛の有症率は1,約10年前とほぼ同様に2未だ多くの患者が経験する苦痛症状である.がん疼痛は,身体的・精神的・社会的に影響を及ぼし生活の質(Quality of Life: QOL)を大きく低下させるため,がん疼痛マネジメントは重要な課題である3

国内外ではがん疼痛治療に関するガイドラインが整備され46,エビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの実践は,患者の満足度やQOLを高めるとの報告がある7.医療者の中でも看護師は,多くの時間を患者とともにしており,がん疼痛マネジメントに最も適している職種といわれる8.しかし,エビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの看護実践を明らかにした研究報告はない.

これまで,わが国のがん疼痛マネジメントの評価は,緩和ケアの知識尺度,実践尺度,困難尺度,自信尺度に含まれる疼痛に関する項目を用いて行われてきた912.しかし,これらの尺度は緩和ケア全般を評価するもので,がん疼痛マネジメントの実践内容,水準を具体的に明らかにするには限界がある.また,看護師によるがん疼痛マネジメントの研究もあるが1317,看護実践を問う尺度はガイドラインに基づいているとはいえず,信頼性・妥当性の確認がなく,がん疼痛マネジメントの看護実践を評価できる尺度がない現状である.

一方,海外では,エビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの実践尺度としてThe Cancer Pain Practice Index(CPPI )18が開発されている.しかし,医療記録からがん疼痛マネジメントの実践を測るため記録がなければ評価できず簡便性に欠ける.

以上のことから,エビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの看護実践を明らかにするためには,信頼性・妥当性のある新たな尺度の開発が必要である.

本研究の目的は,がん疼痛マネジメントの看護実践を測定できる尺度を開発し,その信頼性・妥当性を検討することとがん疼痛マネジメントの看護実践に関連する要因を検討することである.なお,本尺度は,実臨床でのエビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの看護実践を評価できるよう網羅性を重視し開発し項目数が多いため,大規模調査等での活用に向け短縮版も作成した.

方法

調査対象者

調査対象者は,東北地方の地域がん診療連携拠点病院である総合病院1施設(緩和ケア病棟・病床はない)のがん患者が入院する七つの病棟(腫瘍内科,乳腺外科,婦人科,呼吸器内科,呼吸器外科,血液内科,消化器内科,消化器外科,泌尿器科,耳鼻咽喉・頭頸部外科の診療科)に勤務する看護師189名である.実臨床において看護師は,経験年数や職位を問わず日常的に看護実践している現状から除外基準は設けなかった.サンプルサイズについては,尺度開発にあたり,一般的に最低100名以上が推奨されており19,過去の看護師対象の先行研究から,有効回答率を1回目調査,再テストともに80%と仮定し,研究実施1施設189名とした.

研究デザイン,調査方法

本研究は,無記名の自記式質問紙を用いたアンケート調査による横断研究で,2016年10月18日~11月7日の期間に再テストを含む2回の調査を行った.調査票は研究者が調査対象施設の看護部に持参し各病棟の看護師長が配布し,回収は各病棟に設置した回収袋を用いて留め置き法で行った.再テストは,1回目の調査票回収から1週間後に対象者全員に実施した.2回の調査に協力が得られた看護師には謝品(一人100円程度)を配布した.

調査内容(アンケートの内容)

1. がん疼痛マネジメントの看護実践尺度予備項目

わが国のがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン20,がん疼痛の看護に関するテキスト2123をもとに緩和ケアを専門とする研究者と調査項目を検討した.とくに痛みの評価,副作用,患者指導についてはガイドラインの推奨内容に着目しがん疼痛マネジメントの看護実践に関する60項目のプールを作成した.その後,専門的緩和ケアに従事する医師1名,薬剤師1名,専門看護師3名,認定看護師3名,訪問看護師1名,看護師3名,緩和ケアを専門とする研究者2名の合計14名にプレテストを行い,表面妥当性および内容妥当性について議論し,最終的に5因子「がん疼痛の聴取・アセスメント」「がん疼痛の薬物療法・非薬物療法」「がん疼痛に関する患者・家族への教育・指導」「がん疼痛のカルテへの記録」「がん疼痛に対するチーム医療」を想定した全54項目の仮調査票を完成させた.回答方法は「1. 行っていない」から「5. 常に行っている」の5件法とした.

2. 緩和ケアの知識尺度

緩和ケアに対する知識が高いほうががん疼痛マネジメントの実践度も高いと想定し,緩和ケアの知識尺度を測定した.「理念」「疼痛・オピオイド」「呼吸困難」「せん妄」「消化器症状」の5ドメイン,20項目で構成され,「1. 正しい」「2. 間違っている」「3. わからない」の3件法で回答し,信頼性・妥当性が確認されている9

3. 緩和ケアの実践尺度と困難感尺度

緩和ケアに対する実践が高いほうががん疼痛マネジメントの実践度も高く,困難感が低いほどがん疼痛マネジメントの実践度も低いと考え,緩和ケアの実践尺度と困難感尺度を測定した.緩和ケアの実践尺度は,「疼痛」「呼吸困難」「せん妄」「看取りケア」「コミュニケーション」「患者・家族中心のケア」の6ドメイン,18項目で構成され,「1. 行っていない」から「5. 常に行っている」の5件法で回答する10.緩和ケアの困難感尺度は,「症状緩和」「専門家の支援」「医療者間のコミュニケーション」「患者・家族とのコミュニケーション」「地域連携」の5ドメイン,15項目で構成され,「1. 思わない」から「5. 非常によく思う」の5件法で回答する.どちらも自記式で信頼性・妥当性が確認されており,各ドメインの回答を合計しスコアが高いほど実践レベルが高い,または困難感が強いことを示す10

4. 緩和ケアの自信尺度

緩和ケアに対する自信が高いほうががん疼痛マネジメントの実践度も高いと想定,緩和ケアの自信尺度を測定した.「苦痛の緩和のための知識や技術は十分である」「疼痛以外の身体症状の緩和のための知識や技術は十分である」「がんに関連した身体症状の緩和手段についての必要なトレーニングを受けた」「がん患者の不安やうつ状態をおおむね正しく評価できる」「向精神薬や精神療法(カウンセリング)に関する知識や技術は十分である」の5項目で構成され,「1. 全くそう思わない」から「5. 非常にそう思う」の5件法で回答する自記式で,信頼性・妥当性が確認されている.合計スコアの高さは緩和ケアに対する自信がより高いことを示す12

5. 人口統計学的因子

調査対象者の年齢,性別,看護系の最終学歴,職位,資格や役割,臨床経験年数,がん看護の経験年数,現在の所属病棟での経験年数,がんの痛みケアまたは緩和ケアの院内・院外教育プログラムの過去の受講回数,がんの痛みケアまたは緩和ケアに関する卒前教育の有無と受けた教育の時間数,卒後教育を十分受けたと思うか,過去に経験したがん患者のケアの経験人数,過去に経験した終末期がん患者のケアの経験人数,過去に経験した医療用麻薬を使用しているがん患者のケアの経験人数,患者の痛みケアで相談できる人の存在について調査した.

分析方法

調査票全体の90%以上に回答があったもの,がん疼痛マネジメントの看護実践尺度予備項目で想定したすべてのドメインで50%以上の回答が得られたもの,誤記入がないものを有効回答とし分析対象とした.がん疼痛マネジメントの看護実践尺度予備項目の項目分析を行い,項目の分布,平均値,標準偏差,天井効果(平均+SD≥5),床効果(平均−SD≤0),欠損値を確認し,欠損値はドメイン内と全体の合計得点の平均点で補完した.

因子妥当性の検討では,最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析を用いた.因子数はカイザー基準および,スクリープロットから決定し,因子負荷量が0.30以上の項目を採用した.併存的妥当性の検討では,緩和ケアの知識尺度,実践尺度の疼痛のドメイン,自信尺度とは正の相関,緩和ケアの困難感尺度とは負の相関となる仮説を立てた.そのうえで,緩和ケアの知識尺度,緩和ケアの実践尺度,緩和ケアの困難感尺度,および緩和ケアの自信尺度の痛みケアに関連するドメイン,項目,および,合計得点とがん疼痛マネジメントの看護実践尺度の合計得点との間でPearsonの積率相関係数を算出した.尺度の内的一貫性はCronbachのα係数を算出し評価した.再テスト法により級内相関係数を算出し,再テストの信頼性を評価した.がん疼痛マネジメントの看護実践の関連要因を検討するため,単回帰分析と重回帰分析を行った.独立変数は対象者背景(表1)の各変数とし,カテゴリカル変数はダミー変数を用いて解析を行った.重回帰分析では,単回帰分析でp値0.05未満だった変数を重回帰分析の独立変数として投入し,変数減少法により変数選択を行った.がん疼痛マネジメントの看護実践尺度の短縮版は,探索的因子分析を行った過程で暫定的に得られた各変数群において個々の変数群に対する因子負荷量が高く,かつ臨床的と考えられる項目を抜粋し,併存的妥当性,内的一貫性,再テスト法による級内相関係数を算出するという手順で行った.統計分析は,JMP®Pro12(SAS Institute Inc, Cary, NC, USA)を用いて,有意水準を0.05未満とし両側検定を行った.

表1 対象者の背景(n=165)
表1 続き

倫理的配慮

本研究は,東北大学大学院医学系研究科の倫理委員会および調査対象施設の倫理委員会の承認を受けて実施した.

結果

応諾状況

本調査は,対象者189名に調査票を配布し167名(回収率88%)から回答を得た.調査票全体で10%以上の欠損と誤記入があった2名を除外し,有効回答は165名(有効回収率87%)だった.再テストでは,1回目に回答した対象者165名に調査票を配布し,141名(回収率84%)から回答を得た.看護師IDの記入もれのため連結できなかった78名,調査票全体で10%以上の欠損,誤記入があった2名の合計80名を除外し,有効回答は61名(有効回答率43%)だった.

対象者背景

対象者背景の各項目で最も多かったのが,看護師の年齢24~29歳(39%),看護師の経験年数4年目以下(39%),がん看護の経験年数4年目以下(44%)だった.これまでのがんの痛みケアまたはがんの痛みケアを含む緩和ケア・がん看護の院内教育プログラムの受講回数は2~3回(33%),院外教育プログラムは0回(75%)だった.これまでのがん患者のケアの経験人数は100人以上(55%),過去一年のがん患者のケアの経験人数は10~49人(35%),これまでの終末期がん患者のケアの経験人数は10~49人(36%),過去一年の終末期がん患者のケアの経験人数は10~49人(43%)だった(表1).

項目分析

がん疼痛マネジメントの看護実践尺度予備項目の7項目で天井効果が確認された.床効果は確認されなかった.各項目の欠損値は困難感尺度では3%以下,それ以外ではすべて1.2%以下だった.天井効果がみられた7項目は,項目の重要性,項目全体の網羅性を重視し,削除せず分析に含めた.

がん疼痛のマネジメントの看護実践尺度

1. 探索的因子分析

がん疼痛マネジメントの看護実践尺度予備項目54項目に対して,探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った.固有値1.0以上を基準とすると11因子,スクリープロットでは1因子もしくは8因子が妥当と考えられた.この時点で,因子負荷量が0.3未満,再テスト法で項目の級内相関係数が0.2未満,項目の回答度数が低い4項目を削除した.残された50項目に対して,最尤法,プロマックス回転における探索的因子分析を再度行い,固有値1.0以上を基準とする10因子,スクリープロットでは1因子もしくは4因子が妥当と考えられた.因子数を変化させ探索的因子分析を繰り返し,個々の因子に属した項目から構成概念の妥当性について検討し,項目のまとまりがよい因子数が見つからなかったこと,スクリープロットでは1因子の寄与率が非常に大きく他の因子数を選択する根拠を見出せなかったことから,最終的にスクリープロットより1因子とし(固有値19.18,寄与率38.3),50項目の尺度を完成させた.Cronbachのα係数は0.97だった(図1).

図1 スクリープロット

がん疼痛マネジメントの看護実践尺度の短縮版は,原版が因子分析の結果,1因子構造であったため,各項目の内容から研究者間で変数のクラスターを検討し,「アセスメント」「看護ケア」「記録」「医療用麻薬の効果・副作用」「患者・家族への説明」「がん疼痛の聴取」の六つに分類された.その後,臨床的に重要と考えられる項目を研究者(がん性疼痛看護認定看護師1名,がん看護専門看護師1名を含む)間で検討し,各分類から2項目ずつ計12項目を最終的に短縮版とした.項目の選定の妥当性の検討として,併存的妥当性,内的一貫性,再テスト法による級内相関係数を算出した.短縮版のCronbachのα係数0.88だった(表2).

表2 「がん疼痛マネジメントの看護実践尺度 原版」の探索的因子分析結果(n=165)
表2 続き

※完成尺度は付録表1,短縮版は付録表2参照.

2. 併存的妥当性

がん疼痛マネジメントの看護実践尺度の合計得点と緩和ケアの実践尺度の疼痛のドメイン,全体の合計得点との相関係数は,それぞれ0.61(p<0.001),0.83(p<0.001)だった.がん疼痛マネジメントの看護実践尺度の合計得点と,緩和ケアの知識尺度の疼痛のドメイン,全体の合計得点との相関係数は,それぞれ0.19(p=0.012),0.29(p<0.001)だった.がん疼痛マネジメントの看護実践尺度の合計得点と,緩和ケアの困難感尺度の症状緩和のドメイン,全体の合計得点との相関係数は,それぞれ−0.44(p<0.001),−0.44(p<0.001)だった.がん疼痛マネジメントの看護実践尺度の合計得点と,緩和ケアの自信尺度「疼痛の緩和のための知識や技術は十分である」の項目,緩和ケアの自信尺度全体の合計得点との相関係数は0.45(p<0.001),0.48(p<0.001)だった.がん疼痛マネジメントの看護実践尺度と短縮版の合計得点の相関係数は0.96(p<0.001)だった(表3).

表3 「がん疼痛マネジメントの看護実践尺度」得点と関連尺度得点との相関(併存妥当性)」(n=165)

3. 再テスト法による信頼性

がん疼痛マネジメントの看護実践尺度全体の級内相関係数は0.52,短縮版の級内相関係数は0.77だった.

がん疼痛マネジメントの看護実践尺度と対象者背景の関連要因

がん疼痛マネジメントの看護実践尺度50項目の合計得点と対象者背景による単回帰分析では,職位,臨床経験年数,がん看護の経験年数,現在の病棟での経験年数,院内外の教育プログラムの受講回数,卒後教育を十分に受けたと思うか,がん患者のケアの経験人数,終末期がん患者のケアの経験人数,医療用麻薬を使用している患者のケア経験の項目で有意差(p<0.05)がみられた.重回帰分析では,これまでの院内における教育プログラムの受講回数(β=0.22, p=0.007),卒後教育を十分に受けたと思うか(β=−0.15, p=0.044),過去一年のがん患者のケアの経験人数(β=0.30, p<0.001)の項目で有意差がみられた(Adj-R2=0.27)(表4).

表4 重回帰分析(変数減少法)(n=165)

考察

本研究は,自記式によるがん疼痛マネジメントの看護実践尺度とその短縮版を開発し,信頼性・妥当性を確認したわが国初めての研究である.本尺度の計量学的性質は全体的に概ねよい結果だったが信頼性がやや低かった.これは再テストの有効回答率の低さが影響した可能性がある.本尺度は,わが国のがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン20が推奨する痛みの評価,副作用,患者指導内容に着目し,緩和ケアを専門とする多職種で表面妥当性や内容妥当性を検討しており,エビデンスに基づく国内最先端の水準といえる.また,チーム医療を意識し記録や多職種連携に関する項目を設けた点において新しい.さらに,WHOが提唱する一次緩和ケアレベル24でがん疼痛マネジメントの看護の実践を評価できるよう項目の網羅性を重視している.アイテムプール作成時には5因子を想定したが解析の結果最終的に1因子となったことから,本研究で開発した尺度においてがん疼痛マネジメントの看護実践は一元性が高い概念と考えられる.

本研究では,緩和ケアの実践に対する合計得点が,疼痛のドメインの得点よりがん疼痛マネジメントの看護の実践と相関が高かった.がん疼痛マネジメントの看護実践尺度が50項目であるのに対し,緩和ケアの実践尺度の疼痛のドメインは3項目であり,尺度の項目数が少ないことで信頼性が低く,分布のばらつきが小さかった,もしくは一部の側面からの評価となったことが考えられた.緩和ケアの自信尺度では中等度の相関だった.医療者が自らの緩和ケアに自信を持つことは患者の症状緩和につながるとの報告があり12,本尺度の得点が高い看護師はがん疼痛緩和の看護実践をしている可能性がある.一方,緩和ケアの知識がある看護師はがん疼痛マネジメントの看護実践レベルが高いとはいえず,知識やエビデンスにかかわらず実践している可能性が考えられた.医師の指示に従うという日本の看護師の受動行動影響を指摘している先行研究があり11,今回の結果でも同様のことがいえるかもしれない.

看護実践には知識に加え,意志や意欲,思考力,価値観や倫理観なども必要である25,エビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの看護実践には知識や態度に加えて組織の方針(風土)や協働の影響があるとの報告がある7.ほかにも,看護実践を妨げる要因として,時間がない,過重労働の負担,人員不足,効率や経験重視などの報告もある2628.本研究で決定係数(R2)が0.27と低かった理由として,これらのように今回測定した以外にも関連する変数の存在が示唆され,今後さらなる研究が必要である.

がん疼痛マネジメントの看護実践と対象者背景との関連要因の重回帰分析の結果,過去一年のがん患者のケアの経験人数に有意な差がみられた.先行研究では,終末期がん患者のケアの経験人数が緩和ケアの実践に有意な差があったと報告している10,11.がん疼痛は,診断時で患者の約1/4にみられ29,病期による差はなく2,今回は終末期ではないがん患者のケアの経験人数に関連した可能性がある.しかし,これらの2変数は相関が高いため偶然の変動や,緩和ケア病棟,緩和ケア病床がない総合病院という調査施設の特徴が影響した可能性も考えられた.これまでの院内教育プログラムの受講回数,卒後教育を十分に受けたと思うかが,がん疼痛マネジメントの看護の実践レベルに関連することが明らかとなった.受講者の満足度を考慮した卒後教育プログラムの必要性が示唆された.

この研究にはいくつかの限界がある.一つ目,がん疼痛マネジメントの看護実践尺度は自記式であり自己評価が低い看護師は実践評価を低く報告する可能性がある.二つ目,調査対象者は緩和ケア病棟,緩和ケア病床のない総合病院1施設の看護師であり一般化するには十分とはいえない.三つ目,がん疼痛マネジメントの看護実践尺度は基本的な項目が多くより専門的な実践レベルを評価するには不向きである.四つ目,この研究は横断研究のため関連要因の因果推論が難しい点である.

本研究で開発した尺度は,日々の臨床実践やがん疼痛看護研修など教育的な取り組み後の実践評価などに活用できる.一方で,今回は単施設研究であったが,多施設による比較検討が広く行われることが今後の課題である.

結論

看護師のエビデンスに基づくがん疼痛マネジメントの看護実践を包括的に評価できる尺度を開発し,信頼性・妥当性を確認することができた.また,がん疼痛マネジメントの看護実践に関連する要因として,過去一年間のがん患者ケアの経験人数と院内での卒後教育の受講回数,卒後教育を十分に受けたと思うかとの関連が明らかとなった.本尺度の使用により,がん疼痛マネジメントの看護実践を評価し,よりよい実践を導くための検討が可能である.

謝辞

調査にご協力くださった対象施設の看護部,臨床研究部,倫理委員会担当の皆様,尺度開発にご協力くださった医療従事者,関係者の皆様へ感謝申し上げる.

研究資金

本研究は東北大学運営費交付金のもと実施した.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反はなし

著者貢献

髙橋,青山,宮下は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.佐藤,清水,五十嵐は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈に貢献した.すべての著者は,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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