Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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活動報告
終末期がん患者と家族のよりよい療養場所の意思決定支援における現状確認ツールIMADOKO活用の影響
大井 裕子 菊谷 武田中 公美加藤 陽子森山 久美
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2023 年 18 巻 2 号 p. 117-122

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Abstract

筆者らは,終末期がん患者の現状を確認するツールとしてIMADOKOを考案し在宅チームで使用している.今回,IMADOKOが,終末期がん患者と家族のよりよい療養場所の意思決定支援に及ぼす影響について明らかにするため看取りの実態を後方視的に調査した.対象患者はIMADOKO導入前の64名(男性/女性38/26名)と導入後の140名(男性/女性78/62名),平均年齢はいずれも74歳で主な原発巣は,膵臓,呼吸器,消化管であった.IMADOKO導入により在宅看取り率は有意に上昇した.IMADOKO導入後,IMADOKOは108名の患者とすべての家族に使用した.患者へのIMADOKO使用は看取り場所に関連を認めなかったが,患者と家族,患者家族対医療スタッフのコミュニケーションが有意に良好になった.IMADOKOは,よりよい療養場所選択の意思決定支援において有用である可能性がある.

Translated Abstract

We devised IMADOKO as a tool to confirm the current status of terminal cancer patients and are using it in the home care team. In this study, we retrospectively investigated the actual state of end-of-life care to clarify the impact of IMADOKO on decision-making support for terminal cancer patients and their families. The subjects were 64patients (male/female, 38/26) before IMADOKO introduction, and 140 patients (male/female, 78/62) after the introduction, with an average age of 74 years in both cases and the primary lesions were the pancreas, lung, and the gastrointestinal tract. The rate of death at home increased significantly after the introduction of IMADOKO, compared to before. In the IMADOKO introduced group, IMADOKO was used in 108 patients and all their families. The use of IMADOKO for the patient was not related to the location of death, but it significantly improved communication between the patient and family, and between patient/patient's family and medical staff. It was shown that IMADOKO may be useful for decision-making support in choosing a better place of recuperation.

緒言

これまでの調査で約6割の国民が終末期にはなるべく自宅で療養したいと希望しているにもかかわらず,6割以上の国民が最期まで自宅療養は困難だと考えており,その理由は,介護する家族に負担がかかる,症状が急変したときの対応に不安があるが多いとされている1.2019年の看取りの場所に関する報告ではがん(悪性新生物)による死亡の病院死亡率81.3%に対し在宅死亡率は12.3%で2,終末期がん患者の訪問診療中止の理由として患者の家族の不安などの精神的問題が最多であることが報告されている3.その背景には,死の3カ月前から急速に低下するがん患者の身体機能の早い変化4に患者や家族の理解が追いつかないことがある.しかし,この時期から死に至る過程に起ることはある程度予測されたことであること5や,家族の介護負担が増すのは限られた期間であること,死の兆候が在宅看取りに重要な情報であることは一般にはあまり知られていない.

そこで筆者は,日常生活の指標から現状を確認する現状確認ツールIMADOKO(以下,IMADOKO)を考案し,訪問診療をすすめられた患者,家族が希望の場所での療養,看取りが叶うよう本ツールを用いている.また,死への身体的兆候変化のプロセス(以下,死へのプロセス)を作成し,死の兆候を事前に知ることにより在宅看取りを希望する家族の不安を軽減する工夫をしている.今回,終末期がん患者と家族のよりよい療養場所の意思決定支援におけるIMADOKOと死へのプロセス活用の影響を検討する目的で看取りの実態について後方視的調査を行った.

方法

調査対象

2018年4月から2022年6月までに緩和ケアを勧められてホスピスまたは訪問診療の相談外来を経て緩和医療専門医が訪問診療を開始し,看取りまで診療した終末期がん患者204名(IMADOKO導入前64名,IMADOKO導入後140名)を対象とした.

調査項目

被験者のカルテを用いて基本情報(年齢,性別,がんの原発部位,同居家族,配偶者の有無)と診療開始から死亡までの診療期間,看取り(死亡)場所,急変の有無,訪問診療開始時のIMADOKOのステージ,患者へのIMADOKO使用の有無を調査した.

急変は,死亡原因が全身状態から説明可能だが1~2日で死亡に至る急激な変化,あるいは死亡原因が全身状態から説明できない突然の死亡であった例と定義した.

死亡直前の患者と家族,患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーションはSTAS-Jで筆者が評価し,患者へのIMADOKO使用群・非使用群とSTAS-J評価点の比較を行った.

なお,本研究は日本歯科大学(NDU-T2020-07),聖ヨハネ会桜町病院の倫理委員会の承認を得て行った.

現状確認ツールIMADOKOを用いた支援

IMADOKO( 図1)は,Lynn Jにより報告された死への軌道4のがんとFrailtyの軌道に経口摂取の変化を重ねて作製し,がんでは急速な身体機能の低下と経口摂取が困難な時期が来ることを示している.Palliative Prognostic Index(PPI)6の評価項目である全身状態の評価尺度Palliative performance scale(PPS)7の60–70%,40–50%,30%以下をIMADOKO①,②,③とすると,外出,入浴,トイレ歩行困難が各ステージの指標となる.

図1 現状確認ツールIMADOKO

本ツールは2020年4月に導入し,現状や今後の見通しを知りたくない場合を除き初診時に使用し,今後の療養の場や医療の希望について話し合った.初診時に使用しない場合,診療経過中に患者が希望したタイミングで使用し,現状や見通しを伝えるとともに,現状を踏まえた患者の希望を聞く際に繰り返し使用した.家族には病状説明の際に全例で使用し,患者や家族に説明した内容や患者,家族の希望,IMADOKOのステージは,医療用SNSをもちいて診療後すみやかに在宅チームで共有した.

死への身体的兆候変化のプロセス(図2

死が差し迫ってくるとき,身体的兆候の変化から残された時間を予測することがある程度可能である.とくに意識レベルの変化,呼吸パターンの変化,四肢冷感などは死が近いことを示す信頼できる指標であることが示唆されており8,下顎運動を伴う呼吸,四肢のチアノーゼ,および橈骨動脈の無脈性から死亡までは平均(中央値)7.6(2.5),5.1(1.0),2.6(1.0)時間であるという情報9は在宅看取りを支える医療従事者や家族にとっては貴重な情報になる.

本ツールは,IMADOKO③に入ったときと,日の単位に入った段階で,医師や看護師から家族にこの先に起こること,とくに,呼吸の変化は看取りが近いサインであること,最期に立ち会いたい人に連絡をするタイミングであることを説明する際に使用し,医師や看護師が訪問のたびに,ときには家族が,現状を把握するためにも活用した.

図2 死への身体的兆候変化のプロセス

解析方法

統計解析にはIBM SPSS Statistics ver. 23.0 for Windowsを用いた.看取りの場所に影響した因子の解析にはカイ2乗検定およびフィッシャー検定,スケール尺度ではKruskal–Wallis検定,STAS-Jによるコミュニケーションの評価の解析については,Wilcoxon符号付順位検定を行った.

結果

在宅緩和ケアを受けた患者の背景

背景因子と調査項目の結果を 表1に示す.

表1 現状確認ツールIMADOKO 導入前後の看取りの場所,および患者へのIMADOKO 使用状況と背景因子

IMADOKO導入前において,男性38名,女性26名,年齢は44~94歳(平均74歳)で,看取りの場所は,在宅30名,病院34名であった.がんの原発臓器の内訳は,肝臓・胆道系・膵臓11(17%),呼吸器13(20%),上部消化管13(20%),下部消化管6(9%)であった.

IMADOKO導入後において,男性78名,女性62名,年齢は30~99歳(平均74歳)で,看取り場所は,在宅99名,病院41名であった.がんの原発臓器の内訳は,肝臓・胆道系・膵臓31(22%),呼吸器27(19%),上部消化管22(16%),下部消化管21(15%)であった.

IMADOKO導入前の64名と導入後の140名の属性では,配偶者の有無において有意差が認められた(p<0.001).

背景因子と看取りの場所との関連

IMADOKO導入前群において,看取りの場所と関連した有意な背景因子はなかった.IMADOKO導入後群において,看取りの場所と関連を示したのは同居家族の有無であった.

IMADOKOの活用とその結果

IMADOKO導入後の140名の訪問診療開始から死亡までの期間は,1~475日で平均(中央値)65(38)日で,訪問診療開始時のステージがIMADOKO①,②,③では98(68)日,37(32)日,18(13)日であった.

IMADOKO導入前後の在宅看取りは,30例(47%)/99例(71%)であり,IMADOKO導入と看取りの場所には有意な関連がみられた(p<0.001).

IMADOKO導入後の患者へのIMADOKO使用と看取りの場所,コミュニケーションの評価

IMADOKOは108名の患者,140名の家族に使用し,患者へのIMADOKO使用と看取りの場所に関連はみられなかった(患者へのIMADOKO使用あり:在宅/病院79/29,使用なし:在宅/病院20/12).

STAS-Jによる死亡直前のコミュニケーションを評価した結果,患者と家族のコミュニケーションは,0:121名,1:15名,2:1名,3:3名,患者・家族対医療スタッフは0:135名,1:5名であった.

STAS-Jによるコミュニケーションの評価と患者へのIMADOKO使用群・非使用群の比較を行った結果,患者へのIMADOKO使用と患者と家族,患者・家族対医療スタッフの評価点において有意差が認められた(患者と家族:p=0.006),(患者・家族対医療スタッフ:p=0.002).

考察

先行研究では,患者の身体機能が低下10,副介護者の存在10,家族の介護力がある10,11,家族の精神的負担が軽い10,12,患者の希望の確認13,14,在宅ケアの利用と頻度10が在宅看取りに関連しており,在宅看取りを可能にするために家族のエンパワメントが必要であると報告されている.こうした家族のエンパワメントやよりよい療養場所の意思決定支援にIMADOKOや死へのプロセスがどう影響したかを知ることが今回の調査の目的である.

初診時には患者と家族の現状の認識が一致していないことが多く,十分な話し合いができていないことが多いが,IMADOKOを用いて患者と家族が一緒に現状を認識し,お互いの今後の希望や不安を共有できた結果,コミュニケーションが良好になったと考えられる.当院の特性から初診時にはホスピス看取り希望が多かったが,希望場所が自宅に変わることもしばしばあった.

希望の場所での看取りには,活動性が低下してきた時期に病状進行とともに生じる生活上の支障を含めた見通しを伝えることが関連する14ことが報告されている.がんの経過においては最期の1カ月で急速にPPSが低下する15ことが知られており,今回の調査で初診時IMADOKO②(PPS 50%以下)の患者の予後が平均(中央値)37(32)日であったことと合わせると,とくに家族の介護負担が増す入浴に介助が必要となる時期(IMADOKO②)以降に生じる生活の支障を含めた見通しを伝えることが重要であることがわかる.看護師やケアマネジャーからタイムリーに家族の介護負担を増やさないための工夫を提案でき,介護が可能な若い世代や同居していない親戚に短期間の協力を求めたことで在宅療養を継続することができ,高い在宅看取り率(71%)につながった可能性がある.

本邦の担がん患者の救急搬送は意識障害(30.3%)が最も多く16,死への自然な経過と認識されない意識障害が急変と捉えられている可能性がある.死へのプロセスを活用し,医師と看護師が死の直前の意識障害を正しく評価し,家族の不安を軽減できるような声かけができれば希望の場所での看取りにつながる可能性がある.IMADOKOは家族にとっても現状の変化を把握するのに役立ち,予後を長く見積もる傾向のある医師17にとっては予後予測の参考になる可能性があり,看護師やケアマネジャーにとっては医師と現状を共有しやすいというメリットがある.

患者へのIMADOKO使用は,患者と家族,患者家族と医療スタッフのコミュニケーションを良好にしたが,意識障害や認知機能低下により患者に使用しなかったケースでも家族に使用することで, 家族の現状把握や見通しの理解に役立ち,養場所の意思決定支援につながった.

IMADOKO導入前後における在宅看取り率の向上は,導入前後の患者背景において家族背景に有意な違いが認められたこと,訪問看護師との看取り経験を重ねて看護師の在宅看取りへの理解が深まったこと,医療用SNSの活用でコミュニケーションが良好になった影響,IMADOKO導入と新型コロナパンデミックのタイミングが合致したことなどが影響した可能性があり,この研究の限界である.

結論

IMADOKOと死へのプロセスは,在宅看取りを希望するがん患者と家族のよりよい療養場所の意思決定支援において有用である可能性が示された.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

大井は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.菊谷は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.田中は研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.加藤,森山は,研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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