Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
緩和ケアの専門家がいない環境で質の高い緩和ケアを提供するための方略:スコーピングレビュー
高尾 鮎美田村 沙織青木 美和山本 瀬奈木澤 義之荒尾 晴惠
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 20 巻 1 号 p. 9-21

詳細
Abstract

【目的】緩和ケアの専門家の地域偏在化が問題となっている日本では,専門家がいない環境で質の高い緩和ケアを提供できる体制づくりが求められている.本研究は,専門家がいない環境で質の高い緩和ケアを提供する方略を概観することを目的とした.【方法】Arksey and O’Malleyの方法論的枠組みでMEDLINE, CINAHL, Cochrane Libraryを用い,英論文のスコーピングレビューを行った.【結果】9文献が選定,四つの《方略》が明らかになった.《ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築》《ジェネラリストの実践を支援するための専門家によるオンライン共診》《切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援》《専門家から非専門家への知識や情報の教授》であった.【結論】これらを参考に日本の緩和ケアニーズに合う体制を作り,その効果を明らかにする必要がある.

Translated Abstract

Objective: To identify effective strategies to provide high-quality palliative care in settings where palliative care specialists are scarce, particularly in Japan. Methods: A scoping review of literature (in English) was conducted using Arksey and O’Malley’s methodological framework. Electronic databases (MEDLINE, CINAHL, and the Cochrane Library) were searched and supplemented with a manual search of relevant journal articles. Results: Nine studies met our inclusion criteria. Four key strategies have emerged: (1) developing a video consultation system to improve the timeliness of care; (2) providing online consultations by specialists to support general practitioners; (3) training nurses to manage the palliative care process; and (4) transferring knowledge and information from experts to non-specialists. Conclusion: Based on these strategies, creating a system tailored to the specific needs and readiness of palliative care in Japan is necessary. The effectiveness of these strategies should be evaluated in future research.

緒言

がん患者の緩和ケアは,プライマリーケアチームによって基本的緩和ケアが提供され,より複雑なニーズをもつがん患者には,その必要性に応じて緩和ケアの専門家による専門的緩和ケアが提供できるように,その体制が整備されてきた13.基本的緩和ケアと専門的緩和ケアの統合によって,がん患者のQOLの改善や心理的な症状の改善,不眠の改善,家族の満足感向上などの効果が得られることが知られている47

わが国の専門的緩和ケアは,主に緩和ケアの専門的トレーニングを受けた医療者や,ホスピス・緩和ケア病棟,緩和ケアチーム,在宅ホスピス等を通じて提供されるが,すべての地域で専門的緩和ケアが容易に受けられるわけではない.例えば,必要と推定される緩和ケアの専門医・認定医の人数(1600人)に対して,実際の人数は1200人(78%)と少なく,専門医数が10名以上の9都道府県がある一方で,人口80万人に対する専門医数が1名以下の15県も存在し,専門医の地域的な偏在は顕著である8.同様に,緩和ケア認定看護師やがん看護専門看護師,緩和薬物療法認定薬剤師等の数も都道府県格差を認めている911.さらに,日本ホスピス緩和ケア協会会員施設のデータでは,緩和ケア病棟のがん患者の死亡割合が20%を超える都道府県がある一方で,1~2%台の県も存在する11.在宅ホスピスは,診療報酬上の明確な基準がないが,在宅緩和ケア充実診療所が人口10万人に対して1施設以上の都道府県がある一方で0.25施設以下の県も存在する11.この様な専門家不足や地理的偏在の傾向は諸外国でも報告されており1215,基本的緩和ケアを担うジェネラリストは,専門家にタイムリーな相談ができることや,ケアの保証,自身がケアに疲弊した際の支援などを求めているにもかかわらず2,16,17,十分な支援は得られていない.

専門的緩和ケアの需要と供給のギャップを埋めるための国内の文献では,緩和ケアチーム・ホスピス等と在宅医療チームの連携や情報共有に焦点を当てた報告がある1820.ケアの継続性のための重要な知見が示されているが,入院中に緩和ケアチームの介入があるなど,専門家から直接ケアをうけやすい状況で報告されている.そこで,日本と諸外国の保険制度や教育システムは異なり諸外国で実施された方略をそのまま導入することは困難であるものの,日本で活用可能な方略を検討するうえでの有益な議論を広げると考え,海外の文献を検索した結果,類似するテーマで,地域の緩和ケア提供モデルに関するシステマティックレビューが行われていた21.この文献では専門家を中心に,地域の医療環境を横断的に統合し,調整された集学的チームアプローチが重要であることが述べられている.しかし,がん患者以外が対象の文献や,専門家が直接,対面で患者を診療しているものも含まれている21.がんの疾患特性や専門家による直接ケアが難しい地域があることを鑑みた方略を検討する必要がある.また,専門的人材育成に向けた教育や政策への提言もされているが15,22,23,高齢多死社会である日本では,専門家の人材育成だけではがん患者の緩和ケアニーズに適切に対応できない可能性が高い.

以上より,専門家がいない環境でがん患者への質の高い緩和ケアを提供するために,社会状況にあった実践的な体制作りをしていく必要があるが,現在までにその方略を体系的に明らかにした先行研究は見当たらない.そこで本研究では,緩和ケアの専門家がいない環境で,がん患者に質の高い緩和ケアを提供するための方略について英語論文を概観し,利用可能なエビデンスや研究の基盤になる概念について明らかにすることを目的とした.

方法

Arksey and O’Malleyの方法論的枠組みを用いてスコーピングレビューを行った24

1)文献検索

文献検索には,MEDLINE, CINAHL, Cochrane Libraryのデータベースを用いた.検索ワードは「primary care」「usual care」「general hospital」「community care」「palliative care」の索引用語を組み合わせ,2024年5月までを検索した.

2)用語の操作的定義

本研究では,緩和ケアの専門家を「緩和ケアの専門的トレーニングを受けた医療者またはホスピス・緩和ケア病棟および緩和ケアチームに所属している医療者」と定義した.

3)選定方法

量的研究と質的研究の両方を以下の選定・除外基準に沿って採用した.文献の選定は,2名の独立した著者(A.T., S.T.)が行い,不一致の場合には3人目以降の著者に意見を求めた.

  • 選定基準:以下のすべての項目を満たす研究を選定した.

    • ・研究方法に,がん患者に対面で直接,専門的緩和ケアを提供する人がいない環境であることが明確に記述されている研究,または,研究の背景などから専門家がいない環境で行われたことが明らかな研究
    • ・質の高い緩和ケアを提供するための介入や取り組みについて報告し,結果(実証データやインタビュー結果)を含んでいる研究
    • ・対象患者に占めるがん患者の割合が50%以上である研究

  • 除外基準:以下のいずれかの項目を一つ以上満たす場合は除外した.

    • ・ホスピス/緩和ケア病棟で実施されたか,もしくは緩和ケアの専門家によって対面で直接介入が行われている研究
    • ・緩和ケアの専門家がいない環境かどうか明確ではない研究
    • ・対象患者に占めるがん患者の割合が50%未満または割合不明である研究
    • ・質の高い緩和ケアを提供するための介入や取り組み後の結果(実証データやインタビュー結果)が含まれていない研究
    • ・緩和ケアに焦点が当たっていない研究
    • ・会議録,学会報告,ケーススタディ
    • ・18歳未満の者に対する緩和ケアについて報告した研究

4)データの抽出

データ抽出のためにデータ入力フォームを作成した.結果を要約する際には,まず個々の方略を示し,次に詳細な介入内容の説明を追加した.一つの研究に複数の方略に関するエビデンスが含まれる場合,より重点を置かれている方略の次に提示した.また,介入内容,アウトカム指標と結果は,本文または図表の記載から読み取った.

結果

1)文献の概要

最終的に選定された文献は八つの研究の9文献であった2533図1).国別には,アメリカ4件,アフリカサハラ以南,ドイツ,ノルウェー,カナダ,オランダからの研究が1件ずつであった.研究デザインはすべて介入研究で,feasibility study/pilot trialが3件,前向き観察研究が2件,ランダム化比較試験が1件,縦断的観察研究が1件,横断的調査研究が1件,参加観察およびインタビューによるデータ収集を行った研究が1件であった.同定された方略《 》は,《ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築》《ジェネラリストの実践を支援するための専門家によるオンライン共診》《切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援》《専門家から非専門家への知識や情報の教授》であった. 表1に文献の概要を示す.

図1 文献選定のフローチャート
表1 対象文献の要約

著者(年) デザイン 目的 対象 セッティング 介入 アウトカム指標/インタビュー項目 結果
1 Bückmann A et al25 (2023) feasibility study/pilot trial ドイツ 大学病院の緩和ケア部門へアクセスできない病院の医療者へTeleconsultationを行いその効果と可能性,患者への影響について明らかにすること (First section)
・余命の限られた進行性疾患の患者57名/がん患者46名・80.7%
・80回のTeleconsultationで95の相談
(Second Section)
・43回のTeleconsultationで43の相談
大学病院と五つの地域病院 方略:ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築,専門家から非専門家への知識や情報の教授
内容:( )内は本文中の表現
ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築(First Section)
患者の痛みや呼吸困難などの問題や,複数の内容を含む包括的な問題について症例ごとにビデオ相談できるシステムが構築された.一般的な緩和ケアの相談内容に加えて大学病院への転院についても話し合うことが可能だった
専門家から非専門家への知識や情報の教授(Second Section)
特定の患者に直接関係しないが,疼痛や倫理的課題,治療目標の定義等の症例検討会や教育が行われ,専門家から非専門家へ知識や情報が教授された
相談者:大学病院の緩和ケア部門に院内からアクセスすることが難しい地域病院の医師.ビデオ相談は上級医間で実施され,他の医療者は随時,参加可能だった
相談手段:地域病院の医師が,特定の患者に関する相談,または教育や情報共有を要請した場合に,音声,ビデオ,テキストによる会話,ファイル共有可能なビデオ相談を行った.専用ソフトウェアで大学病院の医療者は患者の医療データにアクセスできた
介入期間:3年間
(First Section)
主要アウトカム
・患者による大学病院での対面受診の回避
・病態の複雑さによる協力医療機関外への転院の回避
その他
・知識の獲得状況
・有用性
・医師の満足度
・会議中の技術的な問題の発生とその種類
・初回相談依頼の理由・相談後の治療の調整の有無
(Second Section)
アウトカムは設定していないが,医師の満足度やTeleconsultationを通して得た記述データは記録された
用いた方略によって,大学病院の専門知識を地域の病院で活用することを可能にし,医師の高い満足度を維持しながら共同ケアへと繋がった
・95例のうち20例(21.1%)のコンサルテーションで大学病院での対面診察が回避できたと推定された
・95例のうち12例(12.6%)のコンサルテーションで他院から大学病院への転院を回避できたと推定された
・95例のうち93例(97.9%)で双方の医師が有益な知識を得ることができた
・81人の医師のうち69人(85.2%)が現状に対処するのに役立った
2 Donnem T et al26 (2012) 前向き観察研究 ノルウェー ノルウェー北部の地域の病院と五つの遠隔地コミュニティのがん医療提供者を支援するために,3次病院におけるがん医療サービスのツールとしてのビデオカンファレンスの実現可能性と有益性を評価すること 症例:167ケース(がん患者101人) 大学病院,ノルウェー北部の地域病院,五つの地域コミュニティ 方略:ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築
内容:( )内は本文中の表現
緩和ケアサービスを持つ大学病院とプライマリーケアの医療者との定期的なビデオカンファレンス(VC)が実施され,最新の医学知識やエビデンスに基づく,地域社会で質の高い医療提供を支援した.地域の病院とは患者の化学療法に関すること,コミュニティとは症状マネジメントのことが多くの場合で話し合われた
相談者:がん患者のケアを担当するGPと看護師,そのほかの医療従事者
相談手段:すべての参加施設のスタジオがIPアドレスを取得し,複数の施設が同時に参加できた
介入期間:18カ月間
11項目
・治療目的・VCの待ち日数
・VCなしで情報/ヘルプを得るまでにかかる推定の日数
・VC代替案
・VC後の患者の療養場所
・VCがなければ推定される療養場所
・VCが治療の変更や代替に繋がったか
・VCが患者の治療にどの程度貢献したか
・VCが患者のケアを改善した程度
・患者のケアが適切であるという医療提供者の自信にVCが貢献した程度
・VCが患者が適切な治療を受けているとの確信へ貢献した程度
・技術的問題
・VCを待つ平均日数は2.0日で,代替診察を待つ日数(平均10.2日)よりも有意に短かった(P<0.001)
・VC後,患者は82%のケースで同じ場所にとどまった.大学病院への転院は,VCの使用により13%から6%に減少したと推定された
・VC後,何らかの治療の変更(処方変更含む)が87%であった
・VCは,96%の症例において,適切な患者ケアに「かなり」または「非常に」自信を与えることに貢献した
・85%の症例において,VCで患者ケアは「かなり」または「非常に」改善された
3 Haozous E et al27 (2012) 横断的調査研究 アメリカ アメリカ・インディアン/アラスカの地方の医療提供者を対象に,がん疼痛のマネジメント教育と症例相談をビデオ会議で実施することの実現可能性を検討し,(1)医療提供者の満足度,(2)参加後の医療提供者の疼痛マネジメントのコンピテンシーを明らかにすること 症例検討会に参加した医療者(9回):16施設から93人
教育セッションに参加した医療者:11施設から52人
医療者の職種:医師,助手,ナースプラクティショナー,看護師,薬剤師等
質問紙に回答したのは,そのうちの56人 比較群は参加しなかった同じ地域の施設の医療者32人
ワシントン大学およびワシントン州とアラスカ州の部族診療所や病院
最寄りの疼痛マネジメントの専門家から症例検討会の参加者の職場は74~1127マイル離れていた
教育セッション参加者の職場は62~922マイル離れていた
方略:ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築,専門家から非専門家への知識や情報の教授
内容:( )内は本文中の表現
ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築(case conference)
・疼痛マネジメントの専門家とプライマリーの医療者の間でリアルタイムの疼痛マネジメントに関わる症例検討会が行われた
・はじめの15分は専門家から疼痛マネジメントの症例に関連したプレゼンテーションを行い,その後の症例検討にうつり,症例の問題を議論し,専門家の意見や推奨が伝えられた
専門家から非専門家への知識や情報の教授(educational series)
・月1回,地域の医療者の希望に基づき,大学病院から地域の病院の参加者に向けての教育セッションが行われた.テーマとして,(a)成人および小児がんにおける疼痛と症状マネジメント,(b)がん性疼痛の薬物療法,(c)疼痛マネジメントにおけるオピオイド使用の基本,(d)神経障害性疼痛が取り上げられた
相談者/参加者:疼痛マネジメントの専門家から離れた地域の診療所の医療者
相談/参加の手段:参加者のコンサルテーションニーズや患者の要望に基づき,症例は選ばれた.症例検討で紹介する事例は,疼痛マネジメントの専門家へ電子的に提出する必要があり,患者の診断名,既往歴,現在生じている問題,専門家への具体的な質問の記載が求められた.安全なネットワークセキュリティで行われた
介入期間:明記されず
実施可能性
地域医療者の
満足度:Telehealth Satisfaction Survey
コンピテンシー: Perceived Competence Scale in treating pain
実施可能性
・症例検討会の平均参加者は10名,検討された症例数の平均は5例であった.27症例が検討されたカンファレンスでは症例の検討に1時間以上が費やされた.症例数の多い検討会では,医療者が自分の症例が十分に検討されたと感じるよう,専門家がフォローアップを行った
・教育セッションに参加した施設の平均は5施設,平均17名の参加者であった
満足度
教育セッションと症例検討に参加したどちらの医療者も音質,画質,遠隔医療による質問のしやすさ,遠隔医療の総合的な満足度,提示された情報の有用性,遠隔医療を利用したいと思うか,他の人に遠隔医療を勧めたいと思うかの七つの質問に高い満足度を示した
コンピテンシー
・Perceived Competence Scale in treating pain(4−27)は,症例検討会に参加した医療者(平均25.75)が,参加しなかった比較群の医療者(平均23)に比べ,有意に高かった(P<0.01)
・医療提供者は地理的に離れた専門家から,がん患者に対する適切な疼痛マネジメント戦略について学ぶことができた
4 van Gurp J et al28 (2016) 参加観察およびインタビューデータ収集による質的記述的研究 オランダ (1)teleconsultationは,プライマリ・ケア,緩和ケア専門医,患者の視点とサービスの統合をサポートするのか/どのようにサポートするか,(2)遠隔相談アプローチにおいて,患者と家族がどのような協働を経験するかを明らかにすること ・18人の自宅療養中の患者(16人ががん患者,2名がCOPD)
・17人の家族
・15人の地域の医療者
・12人の専門的緩和ケアチームの臨床家
プライマリケア医が診療責任を担うオランダの在宅医療の環境 方略:ジェネラリストの実践を支援するための専門家によるオンライン共診
内容:( )内は本文中の表現
・18名中の17名のケースでは専門家(specialist palliative care teams:SPCT)とジェネラリスト(primary care physician: PCP)はそれぞれが患者を診察した.その際に,専門家はタブレットを介して患者を週に1回診察し(teleconsultation),ジェネラリストは直接患者の自宅を訪問した.専門家が患者の問題やニードをアセスメントし,アドバイスをすると同時に,専門家の診察後にジェネラリストと,治療プランやそのことをジェネラリストが実行するかどうかを話し合った
・18名中の1名については患者のところにジェネラリストが出向き,その場でタブレットを介して専門家が診察(teleconsultation)を行った
介入期間:26カ月間
参加観察:患者の自宅または病院のSPCTの側で週1回の(teleconsultation)の様子を以下の点で観察した.通信技術,物理的な設定,参加者,行動,相互作用のパターン,解釈のパターン,言葉のやり取り
半構成化インタビュー:患者,家族,PCP, SPCTが対象となりインタビューガイドに沿って実施された.例)どのように最近の(teleconsultation)が行われたか,誰が関与したか,対面の会話と何が違うかなど
構造化されていないインタビュー:(teleconsultation)の前,最中,後に患者の自宅や病院に立ち会うことで,参加者の遠隔診察の経験について,構造化されていないフォローアップインタビューの機会が得られた(質問項目は記載されていない)
129フィールドノート,55半構成化インタビューデータ,40非構成化インタビューデータから以下の二つのテーマが明らかになった
(1)専門家による緩和ケアと緩和的在宅ケアの連携の再構築の結果としての責任の定義,(2)専門家間のラポールの構築
・ジェネラリストと専門家がタイムリーに正確な情報を共有できることに価値があった
・後方でのジェネラリストと専門家のコミュニケーションのあり方が大切であった
・ただし,3者が一同に介した面談の場合には,地域の医療者・専門家にとってプレッシャーとなりうることも示された
5 Pesut B et al29 (2017) 前向き観察研究 カナダ 進行した慢性疾患患者を対象に,看護師主導の地方早期緩和サービスの試験導入を行い,その評価を要約すること 25名の生命を脅かす慢性疾患を持つ患者(がん患者n=13, 52%) 人口約1万人の専門的緩和ケアサービスやホスピスの病床がない二つの地域 方略:切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援
内容:地域緩和ケアを推進するナビゲーターが隔週で患者を訪問した.研究開始から9カ月は毎週訪問,その後は2週間ごとに訪問した.ナビゲーターは症状マネジメント,患者教育,心理社会的・スピリチュアルな支援,ACP,社会資源の調整,患者擁護の役割を果たした.患者には,ナビゲーターの訪問と訪問の合間でも,24時間使用可能なオンコールが提供された.患者の主治医には定期的に患者の状況を記載したファックスが送られた.プライマリーケアの医療者と円滑なコミュニケーションができるよう,患者は(医療者間で)情報共有することに同意を求められた.
実践者:カウンセリングの学位を持ち,在宅での緩和ケアの臨床経験が豊富で,キャリアのほとんどで地域に住み,そこで働いてきた看護師
実践者が受けたトレーニングと実践への支援:ナビゲーターは,ナースプラクティショナーと緩和ケアの知識をもつ一般開業医の支援を受けており,患者に関するミーティングが月に1回,開かれた(トレーニング内容については記載なし)
介入期間:2年間
訪問の特徴
例:訪問に要した時間,訪問の手段(電話か対面か),同席者の有無等
患者の評価
・McGill QOL Questionnaire (MQOL)
・healthcare utilization since the previous visit
家族の評価
Caregiver Support Needs Survey (CSNS)
受容性と満足度に関するデータ
研究終了時に生存していた対象者,家族,その他の関係者から,半構造化面接を用いて収集した
・2年間で631回の訪問があり,キャンセルはわずか0.05%だった
・予定された直接面会での平均面会時間は,長くても約1時間で安定していた
・主な介入内容は症状マネジメントおよび進行疾患とともに生きることに伴う感情に対する支援だった
・予定外の訪問は20%あり,その38%が対象者による要請に基づいた
MQOL: ほとんどの参加者において安定したパターンを反映していた.
・希望する死亡場所を伝えた対象者は,その場所で亡くなることができ,対象者の救急外来の利用は最小限であった
・CSNSによる家族のアンメットニーズは,情報支援に関するものであった
・面接では,対象者の満足度は高かった
・この種のサービスが必要であると感じた理由として,社会的孤立,情報へのアクセスの悪さ,精神的サポートの必要性,家族間の対立,希望する場所で死にたいという希望,都市部と農村部の医師関係の調整の難しさがあげられた
6 Schenker Y et al30 (2015) feasibility study/pilot trial アメリカ CONNECT(Care Management by Oncology Nurses)モデルの実現可能性,受容性,有効性を評価すること 進行がん患者(血液がん患者を除く)23人
介護者19人
腫瘍内科医5人
単一の地域のがん治療クリニック(緩和ケア専門外来は施設内になく,専門的な緩和ケアクリニックと4.5マイル離れている) 方略:切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援
内容:患者の定期的ながん治療クリニックの受診前後にCONNCET看護師による月1回の面談を実施した.CONNECT看護師が果たす役割は,(1)患者の症状ニーズへの対応,(2)ACPの促進,(3)患者と家族に対する情緒的サポート,(4)腫瘍内科医とのコミュニケーションと適切なケアの調整であった.エドモントン症状評価スケール(ESAS)とつらさと支障の寒暖計を,毎回評価し,その結果に基づいて面談を行い,個別のケア計画を作成した.CONNECT看護師は,毎回の面会後,患者の症状,意向,目標について腫瘍内科医と話し合い,腫瘍内科医が患者の意向を理解できるように支援した.毎回の診察から1週間以内に患者および/または家族にフォローアップの電話を行い,追加のケア調整が必要か確認した.CONNECT看護師の介入にはマニュアルが存在した
実践者:がん治療クリニックで働く正看護師(CONNECT看護師)
実践者が受けたトレーニングと実践への支援:CONNECT看護師は,緩和ケア医とがん看護専門看護師が指導する2日間のトレーニングに参加し,上記四つの役割に焦点を当てた,双方向のセッションと模擬患者とのロールプレイが行われた.さらに,緩和ケア医はCONNECT看護師と隔週でスーパービジョン・セッションを行い,録音されたCONNECTの事例を検討した
介入期間:3カ月間
実施可能性
(1)この研究への登録率,(2)CONNECT介入がプロトコルに従って実施されたか,(3)3カ月後アウトカム評価率
受容性および有効性
試験から脱落した対象者の割合.患者,家族,および腫瘍内科医に実施された3カ月アンケートで介入に対する満足度,CONNECTがどの程度役立ったか,CONNECT看護師との協働の快適さ(腫瘍内科医のみ),および介入を推奨する可能性(患者および介護者のみ)
患者,家族の医療利用のアウトカム(ベースライン時・3カ月時)
患者アウトカム:FACIT-Pal, ESAS, HADS
家族のアウトカム:HADS, 介護者の負担ZBI-short
実施可能性
・面談は,対面(92%)または電話(8%)で行われた.92%で腫瘍科の診察予定日に行われた.平均面談時間は29分であった.3カ月後,死亡した4名の患者以外,すべてアウトカム評価を完遂した
受容性と有効性
・腫瘍内科医,患者,家族で登録後に辞退した者はいなかった
・患者および家族は介入に満足し(94%)効果的と認識していた
・患者および家族の97%が他の人に勧めたいと回答した
腫瘍内科医(5人中5人)は,CONNECTが患者の症状マネジメント,事前ケア計画への患者の関与,精神的支援の提供,ケアの調整に役立つと認識し,看護師との連携に満足し,ケアの質改善を評価した
・CONNECTは,これまでの緩和ケアの専門医主導のケア提供とは異なり,看護師の専門職としての成長にも繋がりうることが示された
7 Reinke LF et al31 (2018) feasibility study/pilot trial アメリカ 新たに肺がんと診断された患者への看護師主導の電話による緩和ケア介入の実施可能性と対象者の受容性を評価し,本試験で実施する変更点を明らかにすること 36人の新たに肺がんと診断された患者
(介入群17人,比較群19人)
*患者はホスピスや緩和ケアに登録されていないことが条件
一つの退役軍人医療センター 方略:切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援
内容:緩和ケアのトレーニングを受けた看護師からの電話介入を8回行った.4週間は週1回,その後8週間は隔週とした.すべての電話で,疼痛,呼吸困難,倦怠感,咳嗽,不安,抑うつ,胃腸障害,気分を含む一般的な症状について,評価した.退役軍人局が承認したエビデンスに基づいた非薬物療法の症状マネジメントプロトコルが実施された.介入群の各参加者について,研究チームは肺がんの病期,治療,ケアの目標,症状評価に基づいて,個人に合わせたケア計画を作成した.この計画は研究期間を通じて更新・改訂された.
実践者:がん看護の経験がない正看護師 実践者が受けたトレーニングと実践への支援:ELNEC(End of Life Nursing Education Consortium),ワシントン大学が後援する1日の緩和ケア倫理コース,緩和ケアと肺がんに関する厳選された論文と教科書の学習,緩和ケア医との毎週の症例検討,腫瘍学・緩和ケア・呼吸器の医師・ナースプラクティショナー・看護師のシャドーイングを行った.さらにAsk-Tell-AskやNurseを介して患者の感情にどの様に対応し受け止めるかについて学んだ.初期研修として80時間,その後,月6時間のトレーニングを受けた
介入期間:3カ月間
実施可能性:対象者の登録と継続,看護師が規定された回数の電話を行ったか,看護師の基本的緩和ケアトレーニングの時間,対象者との電話の準備・実施・記録にかかる時間,看護師が臨床医に行った推奨の回数,推奨に対する臨床医の受け入れ
受容可能性:電話の回数と長さ,電話で症状を伝える経験,緩和できない症状や問題についてタイムリーなフォローアップを受けたか,介入に含めるべき改善案やトピックに関するフィードバックについて参加者に尋ねた
有効性試験の変更点
実施可能性
・8回のうち平均6.7回の電話を完了した(84%)
・通話の準備は平均8分で,各通話は平均18分であった
・医療記録の文書化に10分を要した.看護師は医師に20件の推奨を行い,そのうち15件が受け入れられた(75%)
受容可能性
・介入を完了した対象者(n=17)は,プログラムに対する高い満足度=9.5(0=満足していない-10=非常に満足)を示した
・対象者全員が,電話で看護師に症状を説明するのは簡単であったと報告した
・すべての対象者が看護師はとても助けになり,ケアの利用,医師とのコミュニケーションを促進したと報告した
有効性試験の変更点は以下の通りである
・ステージ1のがん患者を除外
・介入は参加者の治療終了まで延長されることになった
・看護師はVitaltalk ©コミュニケーションコースに参加した
・ケア目標の話し合いを促進するためにConversation Starter Kit ©を使用することを追加した
・参加者のニーズと優先順位に基づいて,毎週話し合うトピックを参加者が選択できることになった
8 Reinke LF et al32 (2022) ランダム化比較試験 アメリカ 幅広い病期の肺がん患者に焦点を当てた,看護師主導の電話による一次緩和ケア介入の効果を評価すること 8週間以内に肺がんと診断された患者または原発肺がんが5年以内に再発した患者122人(介入群57人,比較群65人)
*患者はホスピスや緩和ケアに登録されていないことが条件
三つの地域の退役軍人医療センター 方略:切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援
内容:全8回,トレーニングを受けた看護師による電話介入を行った.最初の4週間は週1回,その後8週間は隔週とし,患者が何らかの治療を続けている場合には継続的に介入した.初回の訪問時に患者の症状,肺がん治療に関する知識,社会的ニーズに関する包括的アセスメントを行い,その後も介入ごとに再評価した.患者の課題が明らかになった場合,看護師から推奨内容を肺がんの治療医に電子カルテで通知した.
実践者:2名の正看護師
実践者が受けたトレーニングと実践の支援:ELNEC(End of Life Nursing Education Consortium Course for Veterans), 8時間のVitalTalk communication course, 肺がんの症状に関する教育を受けた.さらに,2週間の緩和ケアや呼吸器,胸腔外科を含む治療医へのシャドーイングを行った.疑問がある際に緩和ケア医に相談することができた
介入期間:3カ月間
QOL: FACT-L(LCS/TOI),満足度:FAMCARE-P13 ・ベースラインから3カ月後のフォローアップまでのQOLの改善はなかった【FACT-L TOI 1.03(95%信頼区間:−3.98~6.04)】
・患者のケアに対する満足度も有意に改善しなかった【FAMCARE-P13:0.66(95%信頼区間:−2.01~3.33)】
・新たに肺がんと診断された患者において,看護師主導の一次緩和ケア介入は,QOL, 症状,ケアの満足度を有意に改善しなかった
・実施された病院の場所や,がんの病期ごとの分析においても差は示さなかった
9 Yennurajalingam S et al 33 (2019) 縦断的量的記述的研究 アフリカサハラ以南 質の高い緩和ケアの提供に関するProject ECHO-PACA(Project Extension for Community Healthcare Outcomes-Palliative Care in Africa)の開発と参加者の意識・知識の予備調査について報告すること ・14のクリニックと教育病院から最初に参加した医療者のうち質問紙に答えた33人 アフリカサハラ以南の地区 方略:専門家から非専門家への知識や情報の教授
内容:医療過疎地域でプライマリー緩和ケアを提供する医療従事者に対して,月に1回,緩和ケアの原則,最善の実践例,緩和ケア概念の応用に関する最新情報をZoomを介して提供することを目的に行われた
・ウェビナーを視聴することと異なり,最も難しい症例について意見を交換し,議論を行うため,参加者は専門家レベルの実践能力を獲得することが目的とされた
・MDアンダーソンがんセンターの緩和ケアカリキュラムに基づきサハラ以南のアフリカのニーズに沿ったカリキュラムを作成し,介入期間中にも参加者のフィードバックにより改良を重ねた
・地域医療者の要望によりオピオイドの漸増に関する症例に基づくディスカッション,頭頸部がんの創傷ケア,終末期の栄養管理,地域医師とのコミュニケーションなどのトピックが追加された
・1回のセッションの平均時間は90分だった
参加者:ガーナ,ケニア,ナイジェリア,南アフリカ,ザンビアの14のクリニックと教育病院の医療従事者(n=40)で,医師15, 看護師12, 栄養士1, 薬剤師2, 心理士2, ソーシャルワーカー3, 管理者2, 無回答3だった
介入期間:16カ月間
参加者の痛みの評価とマネジメント,差し迫った死の徴候のアセスメント,終末期に関連する困難なコミュニケーション問題のアセスメントと対処に関するセルフエフィカシー,態度,知識の変化 ・プロジェクトECHO-PACAに参加し,以下の項目を提供する知識が向上した
疼痛緩和のためのオピオイド使用(P=0.042),非オピオイド鎮痛薬の適切な使用(P=0.012),終末期ケアコミュニケーションの問題特定と対処(P=0.014)に改善を認めた
緩和ケアの経験5年未満の参加者は,疼痛緩和の最適化のためのオピオイドの使用(P=0.01)で有意に知識が向上した
・看護師に関しては,非オピオイド鎮痛薬の適切な使用(P=0.05),死の徴候と症状の特定(P=0.06)であり,有意な向上は認めなかった

ACP: advanced care planning, CSNS: Caregiver Support Needs Survey, ESAS: Edmonton symptom assessment scale, FACIT-Pal: functional assessment of chronic illness therapy-palliative care scale, FACT-L: functional assessment of cancer therapy-lung scale, HADS: hospital anxiety and depression scale, LCS: lung cancer subscale, MQOL: McGill QOL Questionnaire, TOI: total outcome index, ZBI: Zarit Caregiver Burden

2)ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築

ドイツからの研究報告では,大学病院と地域の病院やコミュニティの医師およびその他の医療者が参加できるビデオ相談システムが構築された25.地域のジェネラリストの求めなどに応じて患者の症例をタイムリーに検討でき,時に大学病院への紹介を含む相談が行われた.参加者の満足度の高さに加えて,患者の大学病院の予定外受診や転院を回避できた可能性が報告された.ノルウェーで行われた研究では,緩和ケアサービスをもつ大学病院と地域の病院やコミュニティとの間で,定期的なビデオ相談の場が設けられた26.ビデオ相談によって対面の診察よりも早く対応が可能だったことや,大学病院への転院が13%から6%に減少したと推定された.アメリカの研究報告では,大学病院と地域の病院やクリニックの間で,痛みのマネジメントに焦点を置いたビデオ相談システムが構築された27.専門家はジェネラリストの提示した症例に関連したプレゼンテーションを行った後,ディスカッションを通して症例を掘り下げ,推奨される治療・ケアや意見を伝えた.参加後のジェネラリストは,痛みのマネジメントに関するコンピテンシーが,参加しなかった場合よりも有意に高かったことが示された.

3)ジェネラリストの実践を支援するための専門家によるオンライン共診

オランダからの研究報告では,タブレットやWeb端末を介して緩和ケアの専門家が遠隔から在宅療養中の患者を診察し,患者の問題やニードをアセスメントすると同時に,診察後にジェネラリストである地域医療者と治療・ケアのプランを話しあう介入が行われた28.患者に対して,主治医の診察だけでなく,専門家が遠隔からICTを活用して直接の診察を行うという共診が行われていた.共診により,ジェネラリストと専門家の間で正確な情報を共有できること,また後方でのジェネラリストと専門家のコミュニケーションによって,患者のケアプランが洗練されることや医療者間の新たな関係性が築かれることが明らかになった.ただし,この研究の中で患者・ジェネラリスト・専門家が一堂に会した場で専門家による診察を行った1症例では,ジェネラリストと専門家が互いにプレッシャーを感じやすく,効果的なジェネラリストへの支援となりにくかったことが報告されていた.

4)切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援

地域および病院で行われた三つの研究(四つの論文)で,専門家ではないが,切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援が行われていた.まず,カナダからの研究報告では,地域緩和ケアをナビゲートする役割を担う看護師を配置し,ナビゲーターとして隔週で患者を訪問し,症状マネジメント,指導,心理社会的・スピリチュアルな支援,アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:以下ACPと略),地域社会の支援の動員,電話支援などの介入を行うとともに,それらに基づくケアプランを主治医と共有した29.患者や家族の視点から介入が評価され,研究終了時の患者・家族の満足度が高かった.病院の看護師を中心とした介入に関する研究は2件あり,アメリカからの研究報告では,緩和ケアの集中的なトレーニングを2日間受けた看護師が,外来の患者と月1回の面談を実施した30.看護師は,症状ニーズへの対応,ACPの促進,患者と家族に対する情緒的サポート,腫瘍内科医とのコミュニケーションと適切なケアの調整をプロトコルに沿って行った.患者・家族の94%が介入に満足し,腫瘍内科医の100%が,連携に対する満足やケアの質の向上を報告した.同じくアメリカの研究では,症状マネジメントのトレーニングのほかに,コミュニケーション研修,専門家のシャドーイングなど,80時間のトレーニングを受けた看護師により,肺がん患者に計8回の電話介入がなされ,症状のアセスメントや治療目標についての確認が行われた31,32.この研究は2段階で行われており,実施可能性研究では受け入れ良好であったが31,その後のRCTでは3カ月間の介入後,患者のQOLや家族の満足度などのアウトカムは有意に改善しなかったことが報告された32

5)専門家から非専門家への知識や情報の教授

アフリカサハラ以南のProject ECHO-PACAについて報告した研究で,非専門家が専門家レベルの緩和ケアを実践できるように,メンタリングを介して知識や技術を教授していた33.プログラムの開発にあたっては,MDアンダーソンがんセンターの緩和ケアカリキュラムを元に,アメリカと現地の専門家によって,現地のニーズを踏まえた独自のカリキュラムが作成された.介入16カ月後の評価で,参加した医療者のオピオイド使用やコミュニケーションに関する自信の改善がみられた.また,ドイツとアメリカからの研究報告では,前述したビデオ相談システムと同様に,Web環境を用いて症例の相談以外に,知識や情報の教授を目的としたオンラインミーティングが行われることがあった25,27

考察

緩和ケアの専門家が世界的に不足しているなかで,系統的文献レビューにより,専門家がいない環境で質の高い緩和ケアを提供するための四つの方略が明らかになった.

1)ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築

本研究の結果,専門家とジェネラリスト間のビデオ相談システムの構築は,大学病院の予定外受診や転院を回避している可能性が示唆され,専門家がいない環境で,質の高い緩和ケアにアクセスするための物理的な距離やタイムラグの問題を解決する重要な方略であることが明らかになった.さらに,この方略はジェネラリストが専門家のタイムリーな支援を受けられることを望んでいるという先行研究の結果にもこたえるものであり2,16,ビデオ相談システムを介して,専門家が,ジェネラリストの疑問により迅速に対応したり,実践の保証・承認をすることで,ジェネラリストが自信を持って,日々のケアを提供することにつながる可能性が示された.ただし本レビューに含まれたビデオ相談システムの構築に関する研究は,医療者の視点のみで評価されており,患者によるアウトカム評価は設定されていなかったため,実際に患者や家族にとってどのような結果をもたらすのか,明らかにしていく必要がある.今後は,これらを参考にし,日本の各地域のニーズに最も適したビデオ相談システムの構築を行うとともに,比較介入試験を計画し,その効果を明らかにする研究の実施が求められる.またオンラインコンサルテーションの実施にあたっては,ICTの拡充を想定した情報管理ガイドラインの整備等が必要になると考えられる.

2)ジェネラリストの実践を支援するための専門家によるオンライン共診

ジェネラリストの提供する緩和ケアの実践を,専門家も患者を診察することで保証するアウトリーチ型の支援は,これまでにも行われてきた.オーストラリアの様な広大な土地をもつ国では,2週間に一度,緩和ケア医が飛行機で,専門家が不在の地域を訪れ,現地の緩和ケアを支援するという取り組みが2000年代に報告されている34.専門家が実際に患者の元に足を運ぶことの意義は大きく,日本におけるOPTIM(Outreach Palliative care Trial of Integrated regional Model)研究やカナダにおける地方の特性を尊重した地域緩和ケアプログラム等で,アウトリーチ型の支援によって,患者の正確な情報を共有できること,さらに専門家との関係性が構築されたことが大きな成果であったことが報告されている35,36.一方,本研究で採用した論文では,ICTを活用し,実際に専門家がベッドサイドにはいかずに,患者を診察する新しいアウトリーチの形がとられ,その場合にもジェネラリストと専門家の関係性が構築されていることが明らかになった28.本論文では,専門家はジェネラリストの実践を引き継ぐのではなく,ジェネラリストの実践を支援する伴走者の役割を担い,互いの関係性に配慮していることが強調されている.時間短縮や効率化だけに目を向けることなく,ジェネラリストと専門家が,緩和ケア提供におけるそれぞれの役割や立場を尊重できていることを前提として,ICTを活用した新しいアウトリーチ型のジェネラリスト支援の有効性が示され,今後の発展が期待できる.

3)切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援

専門家がいない環境において,がん患者に多職種による継続的で連携のとれた緩和ケアの提供を難しくしている要因は,多くの場合,複数の問題が複雑に絡まった構造的なものである.看護師は,患者の生活に最も近い存在で,情緒的・心理社会的サポート,目標の共有およびケアの全体的な調整等の役割を担うことができる.とくに併存疾患を持つ患者等,患者のニーズが多様化していることから,より多職種で介入することが求められ,さまざまな役割を調整できる看護師による介入が着目されている.緩和ケアにおける看護師の介入研究では,ナースプラクティショナーが独立して治療戦略を立てることができる状況で有効性を示してきた37,38.一方,本レビューでは,経験豊富なジェネラリストの看護師に,事前の集中的な教育や介入中の支援をすることによって,患者との関係を構築し,チーム医療の中心的役割を果たすような介入が実施された.非専門家と呼ばれる中に存在するさまざまなレベルの人々のなかで39,緩和ケア提供の役割を果たす資質がある看護師に対し,トレーニングによって知識と技術,実践への自信の獲得に繋げ,質の高い緩和ケアを実現できる可能性が示された.しかし,RCTでは患者のアウトカムには介入による改善を認めず,その理由として看護師のトレーニング後のコンピテンシーを保証しておらず,トレーニング内容が十分か検証できていないことや,多職種緩和ケアチームとのルーチンの話し合いは設定しなかったことが述べられている32.看護師の根底にある実践への自信のなさは,患者の苦痛の表出に対する無意識の回避行動につながりかねないといわれている40.患者に適切なケアを提供する能力や自信は,実践を意味づける経験の中で習得していくため,多職種連携をつなぐ資質のある看護師がトレーニングを受けた後,継続的にどのような支援を求めているかについて,更なる検証が必要である.また,緩和ケアを専門とする認定・専門看護師が,専門家がいない地域や施設のジェネラリストの事例を共に振り返る機会を増やし,専門的な知識を実践に活用する方法を具体的に示すことや実践を意味づけることによって,ジェネラリストの実践知を高めるよう支援していくことが望ましいと考える.

研究の限界と今後の課題

本研究は保険医療制度や緩和ケアの専門家の教育体制が異なる諸外国での方略を明らかにしたものであり,結果の解釈には注意が必要である.また,がん患者が半数以上の研究を対象としたため,非がん疾患を含めた緩和ケアを必要とする患者に対して専門家がいない環境で質の高い緩和ケアを提供するための方略は明らかにできていない.最後に,緩和ケアの専門家の職種は限定せずに広く文献を概観したため,明らかになった方略を実践する際には,その職種の専門性を加味する必要がある.

結論

本研究では,緩和ケアの専門家がいない環境において質の高い緩和ケアを提供するための取り組みについて報告した研究を要約し,方略やアウトカム指標,その結果について要約した.方略としては,ケアの適時性を高めるためのビデオ相談システムの構築,ジェネラリストの実践を支援するための専門家によるオンライン共診,切れ目のない緩和ケア提供プロセスをマネジメントできる看護師の育成とその実践に対する支援,専門家から非専門家への知識や情報の教授の四つが明らかになり,これらの方略を用いて専門家がジェネラリストを支援していた.今後,日本の社会体制や医療者のニーズに応じて,今回明らかになった介入を最適化して社会実装を行い,その効果を明らかにする必要がある.

研究資金

本研究は厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業23EA1020により行った.

利益相反

木澤義之:講演料等(第一三共株式会社,中外製薬株式会社)

その他:該当なし

著者貢献

高尾,田村は研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草および内容の批判的な推敲;青木,山本は研究データの分析,解釈,原稿の内容の批判的な推敲;木澤は研究の構想およびデザイン,原稿の内容の批判的な推敲;荒尾は研究の構想およびデザイン,研究データの分析,解釈,原稿の内容の批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2025 日本緩和医療学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top