在宅緩和ケアにおいて下肢壊死による激烈な疼痛を呈した2症例に対し,超音波ガイド下膝窩部坐骨神経ブロックを施行し,即時的かつ顕著な鎮痛効果が得られた.従来,緩和ケア領域においては末梢神経ブロックの応用例は限られていたが,本症例によって在宅という制約下でも安全に施行可能であり,強オピオイド鎮痛薬による疼痛緩和が間に合わない状況において,初期の疼痛緩和を可能にし,薬物療法の立ち上がりの補助に寄与しうることが示された.
Two patients receiving home palliative care, suffering from severe pain due to lower limb necrosis, were treated with ultrasound-guided popliteal sciatic nerve block, which resulted in immediate and remarkable analgesic effects. Although the use of peripheral nerve blocks in palliative care has traditionally been limited, these cases demonstrate that the procedure can be safely performed even in the home setting. This technique may provide early pain relief in situations where strong opioid analgesics are insufficient, serving as a valuable adjunct during the initiation of pharmacological pain management.
在宅緩和ケアの現場において,下肢の末梢循環障害による壊死や感染により,強い疼痛を伴う症例が時にみられる.下肢動脈閉塞症や糖尿病性壊疽を背景とする症例では切断術が選択されることが多いが,本人・家族の意向により外科的介入を行わないこともある.その場合の疼痛管理は極めて困難であり,強オピオイド鎮痛薬単剤では十分な鎮痛効果が得られず,むしろ副作用によりQOLの低下を招くこともある.疼痛の原因を正確に把握し,神経ブロック等のアプローチを薬物療法に補助的に組み合わせることが,疼痛軽減の一助となる1).
近年,神経ブロックに関し,超音波装置の進歩による安全性の向上2),および緩和ケアにおける有用性1,3,4)が報告されている.中でも膝窩部坐骨神経ブロック(popliteal sciatic nerve block: PSNB)は,比較的安全に施行できる末梢神経ブロックであり5),在宅環境においても実施できる.
今回,末梢循環障害に伴う下肢壊死による激しい疼痛に対して超音波ガイド下PSNBを施行し,その即時的な鎮痛効果が強オピオイド鎮痛薬の効果発現までの移行期における疼痛緩和に寄与した2症例を報告する.
基礎疾患として慢性心不全,慢性腎不全,高血圧,脂質異常症のある93歳女性.2017年に70 mmの腹部大動脈瘤が発見されたが,手術適応がなく血圧コントロールを中心に経過観察されていた.2023年1月,夜間に自宅で転倒し,救急搬送され入院した.右気胸と右坐骨骨折が見つかるも,どちらも保存的加療となり,以後施設入居となった.退院前から食欲低下があり,施設入居後も継続していた.入居時体重45.1 kg, Eastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG-PS)3に該当,日中はほぼ車椅子上での生活であった.食事準備等には介助を要したが,自身で摂取可能であり,意識レベルも明瞭であった.内服薬は,浮腫および心不全徴候に対してフロセミド40 mgならびにスピロノラクトン50 mg,胃粘膜保護を目的にランソプラゾール15 mg,血栓予防目的でワルファリン0.5 mgをそれぞれ朝1回内服していた.経口栄養として経腸成分栄養剤(11)液(イノラス®,562.5 ml)を毎食後に服用していた.入居4日目,坐位中に突然,左第4趾の末梢チアノーゼと同部位の疼痛が出現し,以降臥床状態となった.下肢血管超音波検査と造影CTで腹部大動脈瘤に由来する末梢動脈塞栓症と診断,血管外科にて下肢切断術が検討されたが手術適応がなく,疼痛および感染コントロール,緩和目的に当院が介入した.
介入当初より患部の悪臭と疼痛が激しく,血液検査上,好中球優位の白血球数11100/μL, C反応性タンパク質18.8 mg/dLと高値であった.一部壊死が認められたため(図1),超音波ガイド(エコー: iViz airリニア;富士フイルム,神奈川,付録1および付録図1参照)下で坐骨神経周囲に0.25%ロピバカイン15 ml投与(使用針:22 G x 60 mm)したうえで下肢洗浄を行い(図2),感染に対してメロペネム1 gを生理食塩液100 mlに溶解し,1日2回点滴静注した.PSNB施行により,痛みはvisual analogue scale(VAS)80 mmから0 mmに改善した.強度の難治性疼痛のためフェンタニルクエン酸塩経皮吸収型製剤(フェンタニル貼付剤)を6.3 µg/hrで開始したが,日中はVAS 30 mmが残存したため,初回から3日目および6日目に合計3回同様のPSNBと洗浄を施行した.その間フェンタニル貼付剤を増量し,最終的に37.5 µg/hrで安静時疼痛がほぼ消失し,患者より日常的な不快感がないと聞かれたことから,良好な疼痛コントロールが得られたと判断した.約1カ月後敗血症性ショックで死亡したが,最後まで疼痛の訴えはなかった.


基礎疾患として高血圧と慢性心不全のある94歳女性.腹部膨満および腸雑音低下を認め,麻痺性腸閉塞の診断で近医に入院.改善し経口摂取可能となったが,リハビリ加療中に突然左下腿疼痛と冷感が出現し,同部位に著明なチアノーゼも認めた.急性動脈閉塞症が疑われたが,年齢や全身状態,家族の治療方針から積極的な加療は行われなかった.輸液や抗凝固療法による保存療法を行うも悪化傾向となり,疼痛緩和目的に当院介入となった.初診時,体重42.3 kg, ECOG−PS4に該当,全日臥床状態で日常生活動作(ADL)の全般に介助を要した.左下肢は壊疽のため黒変し,悪臭および浸出液と出血を認めた( 図3).意識レベルが低下しJapan coma scale(JCS)II-10,疼痛は平常時でVAS 30 mm程度,体動時はVAS 80 mm以上であった.アセトアミノフェン750 mg/日を点滴投与,食事や内服は難しい状況だった.強オピオイド鎮痛薬の点滴静注や皮下投与も検討したが,強い疼痛に加え全身状態の悪化および軽度のせん妄が認められ,抜針等の安全管理上のリスクが高いと判断した.壊死部位の疼痛は持続的かつ激烈,安静保持すら困難な状態であり,非がん性疼痛でオピオイド未使用ではあったが,緩和的対応としてフェンタニル貼付剤(6.3 µg/hr)を導入し,必要時にはモルヒネ塩酸塩水和物坐剤10 mgをレスキューとして併用した.即効性が求められたため,疼痛緩和の手段として超音波ガイド下PSNB(ロピバカイン0.25%,20 ml)を実施した.施行後15分以内にVASは80 mmから0 mmへ著明に低下し,以降12時間にわたり鎮痛効果が持続した.この間に下腿を十分に洗浄し,クリンダマイシンゲルで除菌,浸出部には精製白糖ポピドンヨード軟膏を使用して浸出液を防止し,吸収パッド(+活性炭シート等)で包交を行った.初回から3日目および5日目に同様のPSNBを施行し,その間にフェンタニル貼付剤を25.0 µg/hrまで増量した.以降疼痛の訴えはなく,苦悶様表情も改善したことから疼痛コントロールは良好と判断した.PSNBにより疼痛の即時的な緩和が得られたことで持続的鎮静の導入を回避でき,結果として意識を保ったまま穏やかに過ごす時間が確保され,10日後,自宅にて家族に看取られ永眠した.

穿刺部位を矢印で示す.
今回のような急性発症の難治性疼痛に対しては,オピオイド未使用の患者においても,ラピッドタイトレーションを行うことで短期間に疼痛コントロールを得ることが可能であるとの報告がある6).しかし,当院の位置する地域は人口10万人規模であり,ペインクリニック外来あるいは緩和ケアを専門とする医師を有する病院は非常に稀であり,入院しても,オピオイドの適切な導入・管理による速やかな疼痛緩和が困難である可能性が高い.そのため,在宅において神経ブロックを併用し即時的な疼痛緩和を図ったうえで,オピオイド導入および増量を段階的に行う選択は,地域特性を踏まえた現実的かつ有効な対応であったと考察する.
今回の2症例では,在宅で施行した超音波ガイド下PSNBによる即時的鎮痛が,強オピオイド鎮痛薬の効果発現までの疼痛管理に寄与した結果,患者の安寧な時間の確保ができた.穿刺中および施行後においても,神経損傷や血腫,局所麻酔薬中毒などの有害事象は認められず,VASも即座に改善を認めた点から,安全性と有効性が両立できたと考える.
PSNBは坐骨神経の分枝(脛骨神経・総腓骨神経)を同時にカバーできるため,下腿・足部の疼痛に有効である.ロピバカインを用いたPSNB後に一過性の下垂足が生じた症例が報告されており7),ロピバカイン0.375%とメピバカイン1.0%の等量混合液15 mlという比較的高濃度の局所麻酔薬が神経機能に影響を及ぼすことが示唆されているものの,現時点では濃度や容量の明確な閾値に関して一定の結論が得られていない.したがって,各症例の病態やリスク因子を十分に考慮したうえで,局所麻酔薬の濃度および容量を慎重に選択する必要がある.本報告における2症例はいずれもADLがベッド上に限定されており,歩行や立位は不可能な状態であった.ブロック施行後に一過性の運動神経遮断が生じていた可能性は否定できないが,尖足位の出現や下垂足の有無については評価が困難であり,臨床的な影響は認められなかった.
通常PSNBは,大腿神経から分岐する伏在神経の支配領域である下腿前内側には効果が及ばないため,下腿全体の疼痛除去を目的とする場合には,大腿神経ブロックの併用が推奨される.症例2においても,当初はPSNBに続いて大腿神経ブロックを追加する予定であった.しかし,PSNB施行後VASが著明に改善し,追加のブロックを行わずに疼痛コントロールが得られた.これは,膝下に広範な壊死が進行していたことから,伏在神経支配領域においてすでに知覚が消失していた可能性が高く,感覚神経機能が著しく低下した末期壊死領域では,伏在神経への遮断を省略しても臨床的な支障を来さない症例が存在することを示唆している.
超音波ガイド下PSNBは,神経関連を含めた合併症の発生率が低く,安全性が高いとされている5,8).現時点で,在宅における神経ブロックの手技習得や実施に関する報告は乏しく,標準的な教育プログラムや到達基準も確立されていない.しかしながら筆者の見解として,PSNBは他の末梢神経ブロックと比較して習得が容易である.膝窩部では坐骨神経および膝窩動静脈が明瞭に描出され易く,解剖学的バリエーションも比較的少ないため,超音波ガイド下での神経・血管の識別が容易であることがその理由である.さらに,近年の携帯型超音波装置の普及および性能向上により,ブロック手技を行うハードルは着実に低下しつつある.在宅医療に携わる内科医や総合診療医においても,施行手技を見学したうえで,鶏肉等を用い超音波ガイド下での穿刺の訓練を積むことで,本手技の習得は十分に可能と考える9).これは今後,在宅緩和ケアの現場における疼痛マネジメントの選択肢を大きく広げるものと期待される.
末梢循環障害に伴う下肢壊死による難治性疼痛に対して,在宅という環境で超音波ガイド下PSNBを施行し,即時的かつ安全に疼痛緩和を達成した2症例を示した.本手技は,強オピオイド鎮痛薬の効果が安定するまでの移行期における補完的手段として有用であり,患者の安寧な時間の確保に寄与しうる.
本論文の要旨は,第30回日本緩和医療学会学術大会(2025年,福岡)で発表した.
梁木理史,梁木富美子:自由診療(村尾産婦人科クリニック,村尾在宅クリニック,村尾在宅クリニック第二)
その他:該当なし
梁木理史は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.小出,森,武富,梁木富美子は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.