主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム
回次: 8
開催地: 大阪府
開催日: 1990/01/20
p. 98-108
はじめに
各種先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia;CDH)のうち新生児外科領域で特に注目されているのは,Bochdalek型CDH(以下BDHと略す)である。その理由として,BDH患児には患側肺はもとより健側肺にも高度の低形成が存在することがあり,そのような場合には,現在の高度な新生児医療技術で対処しても患児の救命率が改善されない点が指摘されよう。
BDH児に認められるこの肺低形成の発生病理に関しては,胎齢10週目頃,それまでは生理的ヘルニア状態にあった中腸が腹腔内に還納する際に腹腔内圧が上昇し,もしその時点で胎芽性横隔膜形成の最終過程である胸膜腹膜管(pleuroperitoneal canal;PPC)の閉鎖が遅れていれば,その閉鎖不全部を通じて胸腔に移動した腹部臓器が発育途上の肺を連続的に圧排する結果生じる続発的な現象であると考えられている。しかし,この肺低形成続発説の是非も含めて,BDHの発生原因は完全に解明されてはいない。
われわれは,BDH発生の機序の究明と,BDHに随伴する肺低形成の真の病因を追求する目的で,薬物を用いてCDH誘発実験モデルを開発し,すでに発表した1~6)。本稿では,著者らが開発した各種CDHの誘発法について紹介するとともに,本モデルを用いた自験データに基づいてBDHと肺低形成との成因的相互関係について述べる。