女性心身医学
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更年期障害が疑われたうつ病の3症例
小川 真里子堀口 文安岡 昭子吉井 由里子松浦 菜穂子牧田 和也野澤 志朗
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2001 年 6 巻 2 号 p. 268-276

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抄録

更年期のうつ病は,更年期障害との鑑別が難しく,またそれと合併することもあるため診断が遅れ,長期間放置されることが多い.ここに述べる3症例はいずれもうつ病にも関わらず,うつ病としての適切な診断や治療がなされず,産婦人科更年期外来での治療を希望して来院したものであるが,特徴ある症状の他に,心理社会的背景を認め,診断上意義がある所見と思われたので報告する.症例1は54歳,閉経後1年.主訴は不眠および不安感.精神科で抗うつ薬の投与を受けていた.しかし症状の改善がみられず,当科を受診した.生育歴に幼児体験として父親の暴力や同居していた叔母の精神分裂病などがあり,心理テストでは神経症傾向と情緒不安定な性格を示していた.そのため日常的な出来事にも過剰に反応し不安を感じていたが,これらが複雑に関与しうつ病の発症に何等かの役割を演じていたものと考えられた.症例2は49歳,閉経周辺期.主訴は不安,抑うつおよび疲労感であった.既往歴に胃潰瘍と不安神経症があり,心療内科で抗不安薬を投与されていたが軽快しなかった.心理社会的背景として娘が学校で顔面に怪我を受けたのを契機としてストレス状態となり,その後喘息様発作に見舞われ,また夫が16才年下で妻への依存があり,育児への不安にも対応できず,また妻は自己の老化への強い恐れも抱いていた.症例3は46歳,閉経後1年.主訴はめまい,いらいらであった.生育歴として17歳時に両親が離婚し,その後母は卵巣癌で死亡,その頃不安神経症に罹患し対面恐怖のため外出困難となっていた.更年期女性におけるうつ病の早期発見には,うつに特徴的な症状の他,生育歴,既往歴,家族歴,家族関係などを含む心理社会的背景にも注目し,その診断に積極的にアプローチすることが必要と思われた.

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© 2001 一般社団法人 日本女性心身医学会
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