抄録
葉緑体光定位運動は光によって制御される反応の一つであり、光の強さに依存して葉緑体は細胞内を移動する。この現象の光受容体は明らかになっているが光受容後の信号伝達系については全くわかっていない。そこで信号として伝達される物質の性質や伝達システムを推測する目的で、体制が単純で細胞レベルでの観察が容易なホウライシダ配偶体を用いて実験を行った。
ホウライシダの原糸体・前葉体細胞の一部に様々な光強度の赤色光あるいは青色光の微光束を照射して葉緑体集合反応を誘導し、葉緑体の光照射部位からの距離に対して葉緑体が光照射部位へと動き出すまでの時間との関係を調べ、信号が細胞内を伝わる速さを測定した。その結果、信号が伝わる速さは波長や光強度にかかわらず一定であり、前葉体細胞では約1.0μm/min、原糸体では基部方向と先端方向とでは異なりそれぞれ約2.3μm/min、0.8μm/minであった。また葉緑体の移動速度を1分間ごとに測定した結果、光照射部位から遠くに離れている葉緑体ほど速く動き得ることがわかった。