抄録
これまでに、DNAマイクロアレイを用いて、ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803の様々な環境ストレス誘導性遺伝子が多数同定されている。その中には多くの機能未同定遺伝子が含まれ、環境ストレス応答の総合的な理解のためには、それらの遺伝子の機能解析が必要である。それら機能未同定遺伝子のうち、光合成生物のゲノムにのみ保存され、特に植物では葉緑体に局在すると予想される遺伝子に着目した。本研究では、様々な環境ストレスで特に顕著に誘導されるslr1674と、そのパラログであるslr1638の変異株を作製し、その影響を調べた。
両遺伝子の発現を経時的に調べたところ、slr1674のmRNAは塩および酸化ストレスにより一過的に蓄積し、ストレス処理後約10分でもっとも高く、その後低下した。一方、slr1638のmRNAはそれほど顕著に誘導が見られず、構成的に発現することが示された。いずれの欠損変異株も、対数増殖期における生育速度は野生株と遜色なかったが、生育の初期段階では野生株より顕著な生育の遅れが見られた。このことから、両変異株は培養液の希釈に伴う光ストレスへの馴化に影響があると考え、光合成活性の光阻害からの回復速度を測定したところ、いずれの変異株も野生株に比べて顕著な遅れが観察された。以上の結果から、これらのタンパク質は、光合成機能の回復の過程に関わることが示唆された。