抄録
一般に光合成活性を持つ緑色葉の葉緑体は、ストロマチラコイドとそれに隣接するグラナチラコイドから成る内膜構造(SGT)を持つと考えられている。しかし、展開中の若葉で観察される典型的なSGTは、葉の成熟に伴いストロマチラコイドを著しく欠いた構造(FGT)に変化することを観察し、すでに報告した。今回は、このようなチラコイド構造の変化が葉の伸展速度と密接な関係を持つ可逆的変化であることを報告する。シロイヌナズナを用いて、葉肉細胞中の葉緑体チラコイドの構造と葉の生育速度について調べた。その結果、生殖成長期に新たに展開する若い葉は、その葉緑体チラコイドの殆どがFGT型であり、SGT型の栄養成長期の若い展開葉に比べ伸展速度は明らかに遅かった。しかし抽だい花を摘花することにより、葉の伸展速度が回復するとともに葉緑体チラコイドは、栄養成長期と同じSGT型に変化した。一方、SGT、FGT型の葉緑体は一つの細胞内あるいは一枚の葉に混在する場合が多々観察された。以上を踏まえ、生育過程や部位の異なる葉をランダムに採取してFGT型の葉緑体が占める割合と葉の進展速度との相関性を調べた結果、この二者の間には、強い負の相関が得られた。また、SGT、FGT葉ではスターチ合成系にも違いが確認された。この結果は、SGTからFGT型チラコイドへの変化と光合成産物の代謝、転流とが密接に関係する可能性を示唆するものと考えた。