抄録
私達は、野生型種子が発芽できない高温(32℃~34℃)で発芽するシロイヌナズナの突然変異、trg1を単離・解析し、α-キシロシダーゼ遺伝子(XYL1)の機能喪失突然変異であることを見出した。TRG1/XYL1の過剰発現は28℃における発芽率を大きく低下させたことから、TRG1/XYL1は発芽を抑制する働きを持つと考えられる。α-キシロシダーゼは、細胞壁においてキシログルカンオリゴ糖の非還元末端からキシロース残基を除去することにより、その分解に関わることが示唆されている。trg1/xyl1では花の各器官が短くなり、発達した莢は野生型より短く、太くなった。また、果壁では細胞の並びと形に乱れが生じるなど、器官・細胞レベルで形態的な異常が認められた。そこで、種子、莢、葉からオリゴ糖を調製し、HPLCおよびMALDI/TOFMSで分析したところ、野生型には蓄積しないキシログルカンオリゴ糖分子種がtrg1/xyl1に蓄積していた。また、trg1/xyl1の花茎の粘性と弾性は、いずれも野生型より低いことが明らかとなった。これらの結果は、trg1/xyl1に蓄積したキシログルカンオリゴ糖は細胞壁を過剰にゆるめることにより、高温条件での発芽をもたらす可能性を示唆している。α-キシロシダーゼは、キシログルカンオリゴ糖の分解を介して、細胞壁の「ゆるみ」を正常に保つ働きを持つと考えられる。