抄録
AtNRT2.1は、シロイヌナズナの低窒素条件下での硝酸イオン吸収において主要な役割を果たす高親和性硝酸イオン輸送体である。AtNRT2.1遺伝子の発現は、硝酸イオンによる誘導とアンモニア等の窒素同化産物による抑制、糖に応答した活性化を受けていることが知られている。近年、硝酸イオン応答に関与する因子として硝酸イオンセンサーであるCHL1、転写調節因子であるNLP7が同定された。しかし、これらの因子がどのようにAtNRT2.1の発現を制御しているか明らかにされておらず、また窒素同化産物や糖による制御に関わる因子については未同定である。本研究ではAtNRT2.1の発現制御機構を解明するためにAtNRT2.1の上流配列におけるシス因子の同定を試みた。AtNRT2.1の翻訳開始コドンから-2066bpまでの上流配列をGUS遺伝子と連結させた融合遺伝子を導入した形質転換植物のGUS活性は、硝酸イオンを窒素源として与えた植物体に比べて硝酸イオンとアンモニアを与えた植物体において有意に低くアンモニアによる発現抑制が確認された。そこでAtNRT2.1の上流配列を上流から削った結果、-966bpから-495bpまでの領域がアンモニアによる発現抑制に関与していることが示唆された。この領域は、以前にGirinらが報告した領域(-245~-95bp)よりはるかに上流に位置している。