抄録
分泌型ペプチドホルモンには,特有の翻訳後修飾やプロセシングなどによる構造の複雑化を伴うものが多いが,翻訳後修飾の種類や位置,およびプロセシングによって規定されるペプチド鎖長は,生理活性や受容体結合親和性に決定的な影響を与えている.これまで知られている分泌型ペプチドホルモンの翻訳後修飾には,チロシン硫酸化,プロリン水酸化およびアラビノシル化がある.チロシン硫酸化は,細胞増殖に関与するPSKおよびPSY1ペプチドに見られる翻訳後修飾であるが,最近この修飾に関与する酵素(tyrosylprotein sulfotransferase(TPST))が,ゴルジ体に局在する62 kDの膜タンパク質であることが明らかとなった.AtTPST 遺伝子破壊株では,根端メリステム活性の顕著な低下を伴った全身的な矮小化,維管束の形成不全,細胞老化の促進などが観察された.一方,プロリンのアラビノシル化は,3個のアラビノースがヒドロキシプロリンに付加する植物特有の翻訳後修飾であり,茎頂メリステム維持に関与するCLV3などのペプチドに見出されている.CLV3グリコペプチドは,30 nMでclv3-2株における茎頂メリステム肥大化の表現型を回復させるが,糖鎖を欠いた合成ペプチドの活性はかなり弱い.ペプチドホルモンの生理機能に必須なこれらの翻訳後修飾について,研究の現状と今後の展望を議論したい.