抄録
根粒菌が分泌するNod ファクター(以下NF)は共生の開始シグナルであり、根粒菌共生時に観察される現象の多くをNF処理で誘導することができる。NFはN-アセチルグルコサミンの3-5量体(キチン)を基本骨格にしており、非還元末端側に脂肪酸残基が結合した構造を持つ。一方でキチンは菌類の細胞壁成分であり、植物に防御応答を誘導するエリシターとして研究されている。最近になって単離されたNF受容体およびキチン受容体は、互いに高い相同性を持つLysM型受容体キナーゼであることが報告されている。したがってリガンド-受容体共に類似した構造を持ちながら、これらのシステムは対照的な生理応答を引き起こす。我々は根粒菌共生における植物の防御機構の役割を調べるために、マメ科のモデル植物であるミヤコグサの根におけるNF応答とキチン応答を解析した。
マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現の解析から、NF応答初期の遺伝子の大部分がキチンやflg22処理でも誘導される”エリシター応答遺伝子”であることが明らかとなった。nfr1変異体では、NFによるこのような遺伝子応答は観察されない。一方でこれまで共生遺伝子として知られていたNINなどが、キチン処理によりNFR1非依存的に誘導されることを見いだした。本発表ではNFR1とキチン受容体を使ったスワッピング実験の結果などと併せて、NFR1の分子進化について考察したい。