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鉱物の蒸発にともなう元素・同位体分別は、原始太陽系や星周環境の物理化学条件やその履歴の解析、隕石などの惑星物質の化学進化の理解に有効である。惑星や隕石を構成する主要物質のひとつであるフォルステライトの蒸発速度には結晶方位の違いによる異方性があることがわかっている。本研究では、蒸発に伴うMg同位体分別係数の異方性を調べることを目的とする。
合成単結晶フォルステライトを(100)、(010)、(001)面に垂直に切り出し、1504-1786℃で1-420時間、蒸発させた後、蒸発残渣の各結晶面のMg同位体組成を二次イオン質量分析器によって測定した。蒸発表面のMg同位体組成は、25Mg、26Mgに富み、質量に依存する同位体分別を示した。全ての実験温度において、試料表面の同位体分別の程度は(001)で最大、(010)で最小であり、(001)面に垂直方向に最も速く、(010)面に垂直方向に最も遅いフォルステライトの蒸発や拡散の異方性と同様である。
蒸発残渣表面の同位体組成の時間進化と、蒸発速度・同位体分別係数・拡散係数をパラメータとした一次元同位体拡散律速分別モデルを組み合わせ、1692℃での同位体分別係数を各結晶面について求めた。得られた26Mgと24Mg の間の同位体分別は、(100)、(010)、(001)面について、それぞれ1.028、1.023、1.017で、(010)面が最も1に近い。同位体分別係数の異方性の原因として、各結晶面での表面吸着原子と表面原子との結合エネルギーの同位体効果や、表面吸着原子と結晶表面の同位体組成の差などが候補として考えられる。
本実験の結果は、原始太陽系や星周で蒸発・凝縮する結晶の経験した温度履歴などを調べる際に、これまでの研究では扱われてこなかった異方性を考慮する必要があることを強く示すものである。