日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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虚弱高齢者4
人工膝関節置換術における術前・術後の動的な荷重比率と歩行速度の一考察
西川 正一郎田辺 佳樹堤 勇基藤井 隆文中島 幹雄
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p. 111

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抄録

【はじめに、目的】

人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty: 以下TKA)適応患者の多くは、日常生活において疼痛や筋力低下によるADL低下やQOLの支障を招いている。特に高齢者においては、膝以外にも身体的フレイルを伴っているケースが多々見られ、術後の介護サービス導入など社会的資源が必要なケースが多い。TKAを行うことで、どのような身体機能の改善がフレイルから脱却する一因子となっているかを、足踏み動作を用いた下肢加重検査結果を元に後方視研究を用いて関係性を調査した。

【方法】

対象は当院にてTKAを施行した患者のうち、術前、退院時(平均在院日数35日)、退院後3か月に疼痛の範囲内で評価の実施可能であった29例を対象とした。内訳は右TKA施行18例、左TKA11例(女性25名:平均年齢73.5±7.5歳、男性4名:平均年齢72.2±6.1歳)であり、両側同時手術例は除外して片側を過去に実施した方は施行側を評価対象とした。評価項目はCS-30、10m歩行時間、下肢加重検査計(ANIMA製バランスコーダBW-6000)における足踏(20回)のCOP(center of pressure)データから抽出された体重を100%とした左右の荷重バランス値を用いた。解析に用いた対象データは、術前・退院時・退院3か月後の各時期の評価データを用いた統計解析にはEZRを用いた。検定方法は、正規性の見られた各時期の術側と健側の荷重バランス値はPaired t検定を、正規性の見られなかった各時期のCS-30、10m歩行速度にはFriedman検定を用いた。いずれの検定結果も有意確率は5%未満とした。

【結果】

全例29例の各時期の荷重バランス値は、術前には術側47.7±4.1%、健側51.1±3.6%(p=.02)。退院時は術側48.3±4.1%、健側は51.2±3.1%(p=.04)であった。退院後3か月の荷重バランス値は術側49.7±2.3%、健側50.4±2.7%で有意差は認めなかった。各時期のCS-30に有意差は見られず、10m歩行速度は術前・退院時に対して退院3か月後は優位に改善している結果であった(p=.01)。

【結論】

荷重バランス値は、術前および退院時における術側において、健側に比して荷重比率は少なく、術後3か月で均等に近くなった。術後1か月程度の退院時には術創部や侵襲組織由来の疼痛やアライメント変化による筋長変化と運動再学習によりバランスが不均等であると推察され、荷重バランスが均等に近くなるには術後約3か月を要するものと考えられる。さらに、歩行速度も退院3か月には優位に改善しており、荷重バランスが均等になることによる歩行速度の改善であると推察された。これらの結果より、高齢者の日常生活に関わる荷重バランスや歩行速度は、TKAにより改善することが示唆された。重要な荷重関節である膝関節の外科的手術は、疼痛や歩行速度の改善をもたらし、フレイル評価の一要因を改善する効果がある。

【倫理的配慮、説明と同意】

患者を特定する個人情報に十分配慮して、堅牢なパスワードを付けたデータ保管の元で取り扱った。

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