主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】生物学的製剤における生体内投与後の構造変化(バイオトランスフォーメーション)が注目されている。エタネルセプト(ETN)は可溶性腫瘍壊死因子(TNF)受容体とヒト免疫グロブリンG1のFc部分からなる融合タンパク質製剤であり、N末端にジペプチジルペプチダーゼ-4 (DPP-4)に切断され得るアミノ酸配列を有する。本研究ではETNのN末端バイオトランスフォーメーションとDPP-4の寄与を調べ、構造変化に伴う機能特性への影響を評価した。
【方法】液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS/MS)を用いた分析法を確立し、ETN投与を受けた関節リウマチ患者またはマウスの血清中のETNのN末端構造を分析した。ヒト組替えDPP-4を用い、in vitroでのN末端切断を検討した。TNF-αおよびβとの結合親和性は酵素結合免疫吸着法により評価した。
【結果・考察】製剤中では約90%のETNが全長のN末端構造を有した一方、患者およびマウスの血清中ではN末端2アミノ酸切断型が最も多く存在した。ヒト組替えDPP-4はin vitroでETNのN末端を切断した。DPP-4阻害剤シタグリプチンは、in vivoとin vitroの両方でN末端切断を阻害した。一方、N末端切断はETNのTNF-αおよびβへの結合能に影響をあたえなかった。ETNバイオシミラーのN末端構造も、in vivoおよびin vitroで先行品と同様の特性を示した。
【結論】ETNのN末端はDPP-4によるバイオトランスフォーメーションを受けることが明らかとなった。このN末端欠損は ETNの機能特性には影響しないことが示唆された。生物学的製剤の真の体内動態を理解するために、質量分析系を活用した構造理解に基づく定量分析が重要となる。