主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
がん領域において使用される抗体医薬品は、がん細胞や免疫細胞に発現する標的抗原に結合することで、抗腫瘍効果を示す。がん薬物療法において、抗体医薬品は高い有効性及び安全性を示すが、効果不十分な患者や有害作用により治療継続が困難になる患者が一定数存在する。抗体医薬品の血中濃度が臨床効果と相関する場合、その投与量を最適化することで抗腫瘍効果の減弱や有害作用の発現を回避することができる。このような薬物治療モニタリング(TDM)による個別化投与設計は、がん領域では一部の低分子医薬品に限られており、診療報酬として特定薬剤治療管理料1が算定可能となっている。今日、抗体医薬品のTDMは実施されていないものの、その臨床導入ががん患者における薬物治療管理の質向上に貢献するとともに、患者個々における投与量の適正化を介した薬剤費の削減に寄与することが期待される。
抗体医薬品のTDMにおいて、その血中濃度を予測するために、薬物動態の個人差を解明することは重要である。抗体医薬品の主な消失経路としては、標的抗原を介した特異的消失と肝臓や脾臓における非特異的消失が存在する。特異的消失では、標的抗原と結合した抗体医薬品が細胞内に取り込まれて、リソソームによる分解を受ける。一方で、抗体医薬品には、これらの消失を回避するリサイクリング機構が備わっており、細胞内において胎児性Fc受容体(FcRn)に結合することで分解を免れ、再度血中に放出される。がんの病態や薬物治療では、これらの消失経路やリサイクリング機構への寄与が変化することで、抗体医薬品の薬物動態に個人差が生じると考えられている。例えば、がんの進行に伴う抗原量の増加は抗体医薬品の特異的消失を亢進させ、FcRnに結合する免疫グロブリンG濃度の上昇はそのリサイクリングへの依存度を低下させる。
これまでに我々は、がん領域において使用される抗体医薬品の血中濃度測定法を開発している。その中でも、EGFRを標的とするセツキシマブやPD-1を標的とするニボルマブでは、実際に抗体医薬品の血中濃度と臨床効果との関係解析や薬物動態の個人差要因の探索を実施している。本シンポジウムでは、がん領域における抗体医薬品を対象としたTDMの臨床的意義を解説するとともに、その実用化に向けた取り組みについて紹介する。