主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
嚢胞性線維症(cystic fibrosis:CF)は、CF transmembrane conductance regulator(CFTR)を原因分子とする常染色体潜性(劣性)遺伝性疾患であり、小児慢性特定疾病と難病に指定されている。CFはヨーロッパ人種の最も頻度が高い遺伝病であるが、東アジアでは稀であり、日本における頻度は出生約59万人に1人である。CFTRは全身の上皮膜細胞の主要なアニオンチャネルである。CFTR遺伝子の両アレルに重度のバリアントがあり、チャネル機能が失われると、気道、腸管、膵管、輸精管などの上皮膜を介するイオンと水の輸送が障害されるため、管腔内の粘液/分泌液が過度に粘稠となり、管腔が閉塞したり感染し易くなる。典型的なCFでは、生直後に胎便性イレウスを起こし、その後、膵外分泌不全による消化吸収不良を来たし、気道感染を繰り返す。肺病変は出生時には見られず、出生後早期に細気管支に粘稠度の高い粘液が貯留し、易感染状態が形成される。細気管支炎や気管支炎を繰り返すと、徐々に肺機能が低下し、膿性痰の喀出、咳嗽、呼吸困難を来す。呼吸器症状が臨床上明らかになる時期は患者によって様々である。死因の約95%は呼吸不全であるため、早期に診断して早期に治療を始める必要がある。 肺病変の標準的な治療は、ドルナーゼα(プルモザイム)や高張食塩水(6~7%)の吸入と肺理学療法の組み合わせによって粘稠な喀痰の排出を促すこと、緑膿菌感染が検出された場合にはトブラマイシンの吸入療法(トービイ)を行うことである。ドルナーゼαは遺伝子組換えヒトDNA分解酵素製剤であり、CFにおける粘稠な喀痰の要因の1つである好中球由来のDNAを分解する。ドルナーゼαは欧米では1990年頃から利用され始め生存期間の延長をもたらしたが、日本では2012年から使えるようになった。 2012年の時点では日本のCF患者の生存期間の中央値は約19年であったが、2012年頃にプルモザイム、トービイとリパクレオン(高力価パンクレリパーゼ腸溶剤)が使えるようになり、2021年末には約25年に延びている。