社会学評論
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法的論理の自律性と二重性
不法行為責任の意味をめぐる争い
常松 淳
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2007 年 58 巻 2 号 p. 152-169

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抄録

日本の法の世界では,「要件=効果」モデルを核心とする「法的思考」に収まる形で“ナマの”紛争を再構成することが自らの活動を法的なものにすると考えられている.民事訴訟において裁判官は,この枠組みに即して権利(不法行為責任の場合なら損害賠償請求権)の有無を判断することになるわけである.このような法的枠組みと,紛争当事者からの非‐法的な期待や意味付けとが齟齬を来すとき,社会からの自律を標榜する法は一体いかなる仕方でこれに対処しているのか? 本論文は,不法行為責任をめぐる近年の特徴的な事例――制裁的な慰謝料・懲罰的損害賠償を求めた裁判や,死亡した被害者の命日払いでの定期金(分割払い)方式による賠償請求――の分析を通じて,この問いに答えようとするものである.これらのケースは,法専門家によって広く共有された諸前提――不法行為制度が果たすべき目的に関する設定や,定期金方式を認めることの意義など――と相容れない要素を含んだ請求がなされた点で共通するが,前者は全面的に退けられ後者は(一部の訴訟に限っては)認められた.法の条件プログラム化がもたらす「(裁判官の)決定の結果に対する注意と責任からの解放」(N. Luhmann)という規範的想定と,法専門家に共有された制度目的論が,諸判決で示された法的判断の背後において特徴的な仕方で利用されている.

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© 2007 日本社会学会
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