社会学評論
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カネミ油症事件における「補償制度」の特異性と欠陥
法的承認の欠如をめぐって
宇田 和子
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2012 年 63 巻 1 号 p. 53-69

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抄録

本稿の課題は, 食品公害問題であるカネミ油症の被害がどのような意味で救済されていないのか, また不十分な補償がなぜ現在まで継続してきたのかを解明することにある.
まず, カネミ油症の被害に対する補償の現状を検討すると, 類似する被害をもつ他の事例に比べて非常に手薄なものであった. 現在の日本には, 食品公害の被害に対応するための法制度が存在しないが, 被害の認定と補償は根拠法なき「制度」にもとづいて行われてきた. その内容は, 法的にも実質的にも被害者の権利を尊重しているとは言い難い.
次に, <医学的承認>と<法的承認>という2つの承認形式に着目してカネミ油症の「認定制度」を分析した. その結果, カネミ油症の被害者の認定は, 患者であることを認める<医学的承認>の形式でのみ行われており, 被害者がその権利を行使できるようなかたちで正当な権利要求を有する者であることを認める<法的承認>が欠如していることがわかった. このような<法的承認>を欠いた「認定制度」と「補償制度」が既成事実化している背景には, 補償協定の不在, 制度上の空白, 新たな対処法の不成立という3つの要因がある.
以上の検討を通じて, カネミ油症の被害が救済されない根本には, 被害の認定が<法的承認>を欠いていることがあり, この欠如が被害者の権利要求を封じ, 結果として補償を不十分なものにとどめ続けているという構造が明らかになった.

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© 2012 日本社会学会
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