社会学評論
Online ISSN : 1884-2755
Print ISSN : 0021-5414
ISSN-L : 0021-5414
投稿論文
環境問題において不確実性をいかに議論するべきか
福島第一原子力発電所事故後の放射線被曝問題を事例として
立石 裕二
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 66 巻 3 号 p. 412-428

詳細
抄録

今日, 環境問題の政策決定において不確実性に言及することは不可避になっている. 福島第一原子力発電所事故後の放射線被曝問題においても, 政府批判をする側だけでなく政府側に立つ論者も, 科学研究に不確実性があることは認めている. しかし, 彼らの論じ方は「一般論」的であり, 個別・具体的な不確実性に向き合っておらず, そのことが異なる立場間の意味のある議論を阻んでいるのではないか. こうした問題関心から出発して, 政府が設置した2つのワーキンググループ (WG) の議事録を分析した. その結果, 不確実性の論じ方に量・質の両面で大きな違いが見られた. 放射線・原子力の専門家からなる低線量被ばくWGでは, 原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR) や国際放射線防護委員会 (ICRP) といった「国際的合意」の解釈が多くを占め, その限界に対する批判的吟味を欠いていた. それに対して, 放射線以外のリスク研究者が加わった食品安全委員会WGは, 個別の論文やその不確実性へと自覚的に立ち入った議論をしていた. 自らが依拠する研究成果も含めて, 不確実性について系統的に検討する「負の自己言及」は, 政策決定に至るプロセスを外部に開いてみせるとともに, 各メンバーの立場・価値観の違いを可視化することにもつながっていた. また, 負の自己言及を伴う議論は, 非専門家が参加した場では成立しにくい可能性があることが示唆された.

著者関連情報
© 2015 日本社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top