2023 年 74 巻 1 号 p. 105-121
本稿は,日本人児童と移民的背景のある児童との間の学力格差に関して,移民世代および児童の親の出生地(日本か否か)の組み合わせに着目し分析する.
移民世代は,同化理論における重要な概念であり,移民世代を重ねることで,主流社会への統合が進むとされる.日本においても,学力に関して,移民世代を経ることによって学力格差が縮小しているかについて分析する.また,TIMSS や PISA を用いた研究の分析上の定義では,移民的背景のある児童を「両親のうち最低限いずれか一方が外国出生の児童」とすることもあるが,両親ともに外国出生の場合といずれかのみが外国出生の場合(父のみ外国出生と母のみ外国出生),その学力に差異が生じていないのかは,分析が限定的である.本稿は,親の出生地の組み合わせにも着目し,その影響を分析する.
分析の結果,第1に,小学生において,移民第一世代の児童が最も学力的に低位であり,移民第二世代と日本人児童との間の格差はほとんどなかった.第2に,両親の出生地の組み合わせについて,両親ともに外国出生の場合には,日本人との間に統計的に有意な差が確認された.第3に,こうした学力格差は,移民第一世代か否かを考慮することで多くが説明できることから,移民世代間の学力格差の一部が,両親ともに外国出生の児童の学力格差の一部を媒介していることが明らかとなった.