抄録
本稿はユートピア的意識とその担い手集団との関係を分析する為の、理論的な概念装置を設定する準備作業である。
これまでユートピア的意識は、逃避的夢想や現実否定、現状変革という観点からのみ扱われて来たが、本稿では担い手集団自身にとって当のユートピアがいかなる意味を持っているかに注目し、まずマンハイムのユートピア論からユートピア的意識を構成する三つの要素を取り出す。それは、新たなる歴史の構想と使命感創出、並びに集団形成機能である。次に集団同一性概念を二つに分けて、その主体的・創造的側面を集団自我同一性と呼んで、これを支える三要素を構成し、この各要素を先にマンハイムから取り出したユートピア的意識の三構成要素と対応させ、ユートピア形成が集団自我同一性形成として扱い得るものであることを示す。そして更に、同一性理論の持つ成長論的傾向を取り入れることによって、集団の社会的立場を集団生成基盤と社会的位相に区別し、各々が集団自我同一性形成にどう関与するかを検討する。