社会学評論
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「他者」の論理構造
-物象化論と役割論の対話をめざして-
田中 滋
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1984 年 35 巻 3 号 p. 349-365,381

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抄録

従来の役割論は、象徴的相互作用論のそれであれ、また構造・機能主義の役割論であれ、役割にたいする「自己」の関係を中心に分析を展開し、「他者」は自己と役割との媒介者としてのみ位置づけられてきた。しかし、役割論が本来個人と社会とを接合するという課題を担う以上、媒介者という副次的意義をもつだけの「他者」ではなく、それ独自の理論的意義を与えられた「他者」が要請されている。マルクスの物象化論およびこの物象化論の原基的論理を構成する価値形態論は、こうした要請に応えるのに好適な論理構造をもっている。本稿は、この論理構造を役割論に援用する手掛りとして、G・H・ミードの「意味」の議論を取り挙げる。意味と経済的カテゴリーとしての「価値」とは、いずれも社会的関係の相互作用的側面と深く係わるという共通性をもち、マルクスの価値形態論とミードの「意味」論との間にアナロジーを働かせることができる。本稿は、このアナロジーに基づき、「他者」と意味・役割との関係が「自己」とそれらとの関係にたいして「独自性」をもつことを明らかにすることによっての、役割論を再構成しようとするものである。またこの試みは、直接にマルクスのマクロ・レベルの分析とではなく彼のミクロ・レベルの分析とミードの理論とを接合しようとするものであるがゆえに、すなわち同一レベルでの接合を企図するがゆえに、より整合的にマルクスの理論とミードの理論さらには社会学とを接合させる可能性を生み出すものとみなすことができよう。

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