近代社会学の予測に反して民族の復活、活性化が世界各地で起こったが、その理由、背景を説明するために、民族の概念・理論の洗い直しをめぐり激しい論争が展開されてきた。しかしながら、同論争は必ずしも建設的な成果をあげている訳ではない。分析次元の違いを認識することなく相互批判を繰返す結果、議論が?み合わない形で進んできた。本稿では、民族をめぐる論争の三つの異なる分析次元を判別し、各次元で対立する視点を論理整合的に組み合わせることにより論争の流れを批判的に整理する。具体的には、<原初主義-境界主義>、<表出主義-手段主義>、<永続主義-近代主義>の三つの対立視点の対にまとめ、また諸視点間の適合性を明らかにすることにより、多元的な諸理論を整理する枠組を提示する。その過程で「民族の復活」をめぐる議論に内在する弱点を幾つか発見することになるが、そのひとつは、民族の絆の耐久性を説明する上で時・空のいずれか一方の次元に固執するために説明を不十分に終わらせている点にある。本稿では、この根本的と思われる論点に限定した上で、両説明方法の補完性、結び付きを示す視角を「伝統の創造」の過程に求め、論点の補充を行う。