社会学評論
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経済的地位の自己評価と準拠集団
δ区間モデルによる定式化
浜田 宏
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2001 年 52 巻 2 号 p. 283-299

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抄録

全国的な統計調査によれば, 収入の満足感や経済的地位の満足感は, 必ずしも客観的な状態を忠実に反映しているわけではないことが知られている.客観的な所得分布は対数正規分布によって近似でき, その歪度が常に正であることが過去の統計データから分かっているが, 人々の収入に対する満足度は, その客観的分布に比すれば相対的に高い.本稿では, 客観的な状況としては低所得層に大部分の人が集中しているにもかかわらず, なぜ収入や経済的地位に満足を感じている人が相対的に多いのかという問題の解明を試みる.そのために, 「準拠集団」や「相対的剥奪/充足」といった社会学に馴染みの概念を取り入れた数理モデルを定式化する.
モデルは各階層下の個人が経済的地位の近隣から準拠集団を選択し, 準拠集団の所得期待値と自身の収入を比較して満足/不満足を決定することを仮定する.モデルを分析した結果, 主なインプリケーションとして次が得られた. (1) 準拠集団を所得階層上のより広い範囲から選択した場合には, 可能な満足度は上昇する. (2) 低所得者層では視野が広い者ほど, 相対的剥奪を感じる. (3) 高所得者層では視野が広い者ほど, 相対的充足を感じる. (4) 最も裕福な者の満足感は, 必ずしも最も高いわけではない. (5) 所得分布の対数平均が上昇すると, 全体として満足感は下がる.

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