社会学評論
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NGO「民衆エンパワーメント」戦略の新しい視角
バングラデシュの村人組織にみる自律性生成の契機
坂本 真司
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2001 年 52 巻 2 号 p. 316-332

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抄録

本稿は, 開発NGOのエンパワーメント戦略のもとで運動を実践しようとする「自律性」が, 民衆に生成する契機を考察する.開発NGOは現在, 貧困克服のための自助的な運動の機会を民衆に提供して, 「民衆エンパワーメント」を進めている.これに関連してデビッド・コーテンは, エリートが彼らの財を奪っている事実やその仕組みを民衆に教えることもNGOの任務とする.そうすることで, 貧困の根本原因がエリートへの依存であると民衆に知らしめ, 彼らの自律的な運動受容を導くことができるからである.だが, エリートの収奪に関する情報から, 本当に民衆の自律性は生まれるのか.あるバングラデシュNGOの村人組織では, 情報を提供した当のNGOがエリートに代わる新たな保護者とみなされ, 運動が拒否されることもあった.ゆえに, 情報提供が組織メンバーの自律性を導いているとは必ずしもいえない.では, 現在多くのメンバーがもつ自律性は, どのような契機から生起すると理解されるか.筆者がジェームス・スコットを援用して事例の分析と検討を進めた結果, NGOスタッフとエリートをジョークで皮肉りあう中で, メンバーはNGOを保護者と認識しなくなり, 自らを貧困の解決者と自覚することを発見した.エリートの行動を, それに関する「知識」を頼りにNGOとジョークで「表現」することから, 民衆は運動を志向する自律性を獲得するのである.

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