社会学評論
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復原法を通じた道徳的秩序の再構築
デュルケムの法理論を用いて
巻口 勇一郎
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2003 年 54 巻 1 号 p. 16-32

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抄録

本稿では, É.デュルケムが想定する前近代及び近現代社会における法, 道徳の構造や関係性を明確化し, 従来十分に検討されてこなかった彼の法理論の精緻化をはかる.この際, 彼の理論を道徳, 宗教, 法の規範間関係論として再構成するJ.カルボニエの理論に論及する.デュルケムによれば, 前近代法は具体的な規制と厳しい制裁をもつ抑止的法であった.一方, 近代法は規制を抽象化し, 抑止的な制裁を緩和・廃止するが, この変化によって無規制的社会, あるいは討議・合意による社会が生ずるのではなく, 人々の経済活動や討議・合意の自由を外部から規制する道徳が活気づけられる.近代法は, 活気づけられた道徳を通じて規制するために敢えて自らの管轄を縮小・制限し, 後退するのである.ただ, 人格崇拝を命ずる近代社会の道徳が人々の間に浸透しつつも理念の高みにとどまると, 社会関係の均衡は破れる.しかし, だからこそ尚更, 阻害された社会関係を元の正常な状態に修復する復原法の発達が促される.このような道徳の空疎化と法の発達という相互関係は, 社会や法を病に導く力こそ, 同時に社会や法を健康にする力であるという原理を示している.デュルケムにあっては, 法は道徳の機能低下を察知し, これを補うべく発達するというように, 他と緊密に連携する存在であり, もはや自律運動を続ける閉鎖的な体系とはみなされない.

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