2003 年 54 巻 3 号 p. 232-249
機会の均等を重視する分配的正議論は, 本人のコントロールが及ばない環境要因によって生じた格差は調整の必要があると主張している.その中でローマーの機会平等の原則と呼ばれるアイデアは, 同じ環境要因プロフィールを持つ人々の集合によって社会を同値類分割したとき, 同値類間でパーセンタイルが同じ者同士は自己責任の程度が比較可能であるというものである.このアイデアに基づき, 本稿では機会格差を調整した場合にどの程度不平等度が減少するのかを測定する方法を提唱する.具体的には, 機会格差が存在しなければ同値類間でパーセンタイルが同じ者同士は同量の社会的資源を配分されていたと仮定し, 各対応パーセンタイル間の平均から社会的資源の配分ベクトルを仮想的に再構成する.そして機会格差調整後のジニ係数と, もとの状態のジニ係数を比較することで, どれだけ不平等度が減少したのかを検証する.部分集団間のサンプル数が一致しない場合はリサンプリングによって部分集団のサンプル数を調整し, 操作を反復して平均のジニ係数を比較する.
分析法の適用例としてSSM1985, 1995データにもとづき, 性別機会格差が個人収入に及ぼす影響を分析する.結果として農業と大企業ブルーカラー以外の職業分類で1985年から1995年にかけて性別機会格差が増大していることが分かった.