社会学評論
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解釈自由と新結合
「ミドル・クラス」の語り口
尾上 正人
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キーワード: 唯名論, 信憑性, 企業者
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2003 年 54 巻 3 号 p. 265-279

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抄録

18世紀後半に英語圏に登場した「ミドル・クラス」という語は, その後の約2世紀半の間に, 代表的とされたものだけでも商工業経営者 (「ブルジョアジー」), ノンマニュアル従業員 (「ホワイトカラー」), 専門職といった具合に, 他の階級・階層指示用語にはない多様な語られ方をしてきた.
こうした長年の概念史を踏まえた上で本稿は, 一方では, 当時の人々の命名によってこそミドル・クラスが生まれるとする, いわゆる唯名論的主張に一定の真理があると認める.しかし他方では, そうした当時の認識も, 実在の側から課せられる信憑性による制約を受けており, その範囲内でのみ「ミドル・クラス」解釈の自由があると考える.
各時代において人々に「ミドル・クラス」という認識をさせるような実在の側の機構の1つとして, かつてジョゼフ・シュムペーターが理論化した新結合がある.不況期に新結合を遂行する企業者は, 出自は多様であっても, 景気好転後の社会移動や文化的リーダーシップにより, しかしまた非一貫的地位により, 事後的に当時の人々から「ミドル・クラス」を代表する者たちと認識される.2つのコンドラティエフの景気循環によって画される1世紀余の間に, 1つの代表的「ミドル・クラス」認識が支配的になる.新結合は近代社会において, いわゆる階級の2極分解とは逆に, ミドル・クラスの析出圧力をなしている.

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