社会学評論
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家族と少子化
稲葉 昭英
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2005 年 56 巻 1 号 p. 38-54

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抄録

未婚化・晩婚化だけでなく, 夫婦出生率の低下も少子化の一因であることが近年の研究から明らかにされている.本研究は, この夫婦の出生率の低下に家族的要因がどのように関与しているのかを検討する.まず, これまで指摘されてきた社会経済要因説, 価値意識要因説, ジェンダー要因説の3つの仮説の論理的な関係を検討し, 子ども数の選好の変化が論理的に重要であることを示す.ついで, 先行研究および出生動向基本調査の結果を検討したが, ジェンダー要因説を支持する結果はほとんど得られなかった.むしろ, 夫婦の出生率の低下は, 子どもの福祉を追求するために子ども数を制限するという選好の変化から生じている可能性が示唆された.最後に行ったNFRJ98 データを用いた乳幼児をかかえた女性の家族役割負担感などについての分析からも, ジェンダー要因説は支持されなかった.育児期には性別役割分業が顕在化するが, そうした課題が夫婦ではなく親族を中心としたネットワーク内で分担されるために, ジェンダー要因説が成立しないことが示唆された. 夫婦出生率の低下は, 家族の新たな変化の帰結というよりは, 性別役割分業にもとづいて子どもの福祉追求を行うという, これまでの家族のあり方に根ざした動向と考えられる.

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