2005 年 56 巻 3 号 p. 641-649
社会主義革命後, 30年近く「禁しられた学問」であった中国の社会学にとって, 日本の社会学テキストはきわめて魅力的であった.筆者自身が学生当時に読んだ富永健一や鳥越皓之のテキストは, 前者は一般理論的視点から人類社会に共通するパターンを読み解こうとし, 後者は文化論的視点から日本社会に固有な特徴を見出そうとするなど, それぞれ異なる方法論をとっているものの, それぞれテキストとしての完成度は高い.
日本の社会学は, 非西洋後発社会としての社会学の特徴をもっており, 欧米の社会学との対話と日本社会へのローカル化という力が強く働いている.これがテキストのあり方にも大きく反映されているのだが, 残念ながら, 中国を含むアジアとの対話はさほど多くない.日本発の概念がアジアの諸現象を説明できるようになることが, 強く望まれている.