社会学評論
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環境問題における科学委託
イタイイタイ病, 熊本水俣病, 四日市喘息を事例として
立石 裕二
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2006 年 56 巻 4 号 p. 931-949

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抄録

科学委託とは, 行政が科学者に研究を委託し, その結論をもとに政策を実施する仕組みである.これまでの環境社会学は, 科学者を被害者と加害者の対立構造の中で捉えがちで, 科学者がそこから自律して動く可能性が十分に捉えられていなかった.本論文は, イタイイタイ病, 熊本水俣病, 四日市喘息を事例に, 科学と社会が自律しながらも相互作用するという観点に立って科学委託を分析することで, 科学委託を批判的に検討するための枠組みを提供することを目的とする.
科学委託は, 研究内容が研究者に委ねられる自主型, 行政が特定調査を研究者に委託する限定型, 既存知見のとりまとめを委託する審議型の3形態に分けられる.科学委託の持つ意味は, 科学的知見が蓄積される前後で異なる.当該問題で知見が蓄積される前の自主型委託では, 学術的業績を挙げられる見込みが高く, 学術動機から研究者が積極的に取り組みがちである.業績を挙げた研究者は, 被害者側に立って積極的に研究・発言するようになる.これに対し, 蓄積後の委託や, 蓄積前でも研究内容の限られる限定型・審議型の委託では, 業績を挙げられる見込みが低く, 研究者は消極的に振る舞いがちであり, 意見が途中で変化しにくいため, 最初の人選が重要となる.
こうして進められた科学委託は, 行政の姿勢や研究者のとりまとめ志向, 世論などに影響されつつとりまとめられ, 世論と相互作用しながら政策実施につながる.

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