社会学評論
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介助者のリアリティへ
障害者の自己決定/介入する他者
前田 拓也
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2006 年 57 巻 3 号 p. 456-475

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抄録

1970年代以降, 「新しい社会運動」の一部として実践されてきた日本の障害者運動と, その成果を積極的に織り込んでいこうとする「障害学」の中て目指されてきたことは, 「障害/健常」の差異の相対化であり, また, 健常者に対し, 特権的な立場の相対化を迫ることであった.本稿で焦点を当てるのは, そうした潮流の最も重要な成果の1つである障害者の「自立生活」と, その中で最も身近な健常者として介助者を措定した上で用いられる「介助者=手足」というテーゼである.
「自立生活」を志向する障害者が, 「感情の交流」を介助の本質とする健常者のフレームに距離を取り, 介助者の存在を匿名性のうちに留めておこうとしたこのテーゼの意義はいまだ有効である.しかし同時に, 介助者を手段として使うことで「できないこと」を「できる」ようにするという介助の技法のうちには, 「障害者の自己決定」に対する介助者という他者の介入が構造的にはらまれているのてある.
本稿では, 筆者自身の介助現場への参与観察から得た知見をもとに, 介助者の存在を透明化することの不可能性を論じることを通じて, 「健常者/障害者」関係と「介助者/利用者」関係という, しばしは同一視されがちな2項軸の相違を指摘する.また, その指摘によって, ともすると「介助」を巡る議論に埋もれがちてあった「介助者のリアリティ」を前景化して論じる意義を示すことを目的とする.

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