The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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2017 Society Award-Winning Articles
The evaluation of diaphragm by ultrasonography in patients with chronic obstructive pulmonary disease and the investigation of optimal intensity of inspiratory muscle training
Kazuki Okura
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 6-10

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要旨

COPDでは,機械的および病態生理学的に横隔膜機能が低下する.近年,非侵襲的な超音波画像解析による横隔膜評価が広く用いられているが,COPDを対象にした検討は少ない.そこで,私たちの研究グループは,超音波画像解析によって横隔膜筋厚(Tdi)と筋厚変化率(ΔTdi%)を測定し,①COPD患者と健常者の比較,②COPDにおける睡眠時動脈血酸素飽和度との関連,さらに健常者を対象に③複数の負荷の吸気筋トレーニング(IMT)中におけるΔTdi%の違いについて検討した.その結果,①健常者と比較してCOPD患者の努力吸気時のTdiとΔTdi%は有意に低値であること,②COPD患者でΔTdi%と睡眠時の動脈血酸素飽和度と有意に関連すること,③最大吸気口腔内圧(PImax)の60%以上でIMTを行った場合にΔTdi%は低値を示すことが明らかになった.今後は,これらの結果を縦断的な検討に繋げる必要がある.

緒言

従来から,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)患者では,静的および動的肺過膨張が原因となって主要な吸気筋である横隔膜が機械的に不利な環境に置かれている1.さらに,近年では,病態生理学的な面からの検討も多くされ,全身性炎症や酸化ストレスなどが原因と考えられる横隔膜筋線維の発生張力低下が存在することも報告された2,3.また,Skinned muscle fiberから測定された横隔膜筋線維の発生張力低下は,バルーンカテーテルを用いて測定される経横隔膜圧差(Trans-diaphragmatic pressure: Pdi)の低下と近似することも報告されている4.さらに,Pdiは非侵襲的に超音波画像から測定される横隔膜筋厚(Thickness of diaphragm: Tdi)と関連することも報告されているが5,COPDにおいてTdiを測定した報告は少ない.

COPDの横隔膜機能低下は労作時の病態に影響することは知られているが,睡眠中の動脈血酸素飽和度と関連することも報告されている.Rapid Eye Movement(REM)睡眠中には骨格筋が低緊張となることから換気は横隔膜に委ねられ,健常者でも換気量は減少する6,7.従って,横隔膜機能と睡眠中の酸素化状態は密接な関係が考えられるが,横隔膜機能の低下したCOPDにおいて横隔膜機能と睡眠時の酸素化状態の関係を検討した報告は少ない.また,非侵襲的に測定可能なTdiを用いて検討した報告は見当たらない.

横隔膜を含めた吸気筋機能を向上させる方法としては,吸気筋トレーニング(Inspiratory Muscle Training: IMT)が用いられる.吸気筋力を測定する方法としては,最大吸気口腔内圧(Maximum Inspiratory Mouth Pressure: PImax)が広く用いられ,IMTによってPImaxが向上することはCOPDでも明らかである8.しかし,IMT中の呼吸筋活動について検討した報告は少なく,特にIMTの負荷の違いによる横隔膜の収縮動態の変化について検討した報告は僅かである.

これらの背景から,横隔膜というテーマを中心に据えて,①超音波画像解析を用いたCOPDの横隔膜機能評価,②COPD患者における横隔膜機能と睡眠時の病態の関係,③IMTの負荷の違いによる横隔膜筋厚の変化という3つの検討を行なった.以下にその内容を報告する.

1. 健常者とCOPDにおける横隔膜筋厚の比較

健常者においてTdiを測定した報告は散見されるが,COPD患者でTdiを測定し,健常者との比較を行った検討は少ない.そこで,超音波画像解析を用いて健常者とCOPD患者のTdiを測定し,その差を検討した9,10

対象は,男性で呼吸機能障害のない健常若年者(15名,年齢:22±1歳,BMI: 21.7±2.0 kg/m2)および高齢者(15名,年齢:72±5歳,BMI: 22.4±1.2 kg/m2)とCOPD患者(30名,年齢:72±8歳,BMI: 22.5±2.7 kg/m2,FEV1: 55.7±17.5% of predicted value)であった.Tdiは,超音波画像診断装置Noblus(日立アロカメディカル社製)およびリニアプローブを用いて測定した.測定肢位は仰臥位とし,プローブを右側中腋窩線から前腋窩線間の第8または9肋間(Zone of Apposition)の体表に置き,BモードにてTdiを描出した(Figure 19,10,11,12.測定項目は,努力呼気時のTdi(Tdi at residual volume: Tdi RV)および努力吸気時のTdi(Tdi at total lung capacity: Tdi TLC)とした.さらに,Tdi TLCとTdi RVの変化量を求め,Tdi RVを基準とした筋厚変化率(change ratio of Tdi: ΔTdi%)を算出した9,10,11,12.統計解析は,TdiおよびΔTdi%の差を比較するために一元配置分散分析を行い,各群間の差を明確にするためにTukey-kramer法を用いた多重比較検定を行った.

Figure 1

Ultrasound imagines of diaphragm(文献12より引用)

(A)Thickness of the diaphragm at the end of maximal expiration or residual volume(Tdi RV

(B)Thickness of the diaphragm at the end of inspiration or total lung capacity(Tdi TLC

その結果,健常若年者と高齢者ではいずれの項目でも有意な差がみられず,COPD患者でのみTdi TLCP<0.001)およびΔTdi%(P<0.001)が有意に低下しているという結果が得られた(Figure 2).

Figure 2

Comparison of diaphragm thickness(文献9より作成)

(A)Thickness of the diaphragm at the end of maximal expiration or residual volume(Tdi RV

(B)Thickness of the diaphragm at the end of inspiration or total lung capacity(Tdi TLC

(C)Change ratio of diaphragm thickness(ΔTdi%)

Tukey-kramer test,*P<0.05,**P<0.01

先行研究では,健常者と比較してCOPDでPdiが低下していることや健常者においてTdiには加齢変化が少ないことが報告されており,本研究はこれらを支持する結果であった13,14.従って,超音波画像解析によって非侵襲的に測定可能なTdiおよびTdiから算出されるΔTdi%はCOPDの病態に伴う変化を表せる可能性が示唆された.

2. COPDにおける睡眠時経皮的動脈血酸素飽和度と横隔膜筋厚変化率の関係

COPDの睡眠時の病態として動脈血酸素飽和度(arterial oxygen saturation: SaO2)が低下することがあげられる.睡眠時にSaO2が低下する主要な原因として分時換気量低下による肺胞低換気があり,特にREM睡眠時に多く起こる.REM睡眠時には呼吸補助筋を含めた骨格筋の筋緊張が低下し,換気は主に横隔膜によって担われている6,7.しかし,睡眠中の臥位姿勢は横隔膜運動にとって不利な環境である上に15,COPDでは物理的および病態生理学的に横隔膜機能が低下しているために呼吸補助筋への依存度が高い16.従って,睡眠時SaO2と横隔膜機能は密接な関係が考えられる.しかし,これらの関係を検討した報告は少なく,横隔膜機能の評価には侵襲的なPdiを用いていた17.そこで,超音波画像解析で非侵襲的に測定可能なΔTdi%と睡眠時SaO2との関係を検討した12

対象は,男性の安定期COPD患者28名(年齢:73±7歳,BMI: 22.3±2.7 kg/m2,FEV1: 54.2±17.0% of predicted value,PaO2: 77.3±8.6 mmHg)であった.ΔTdi%は,前述のように超音波画像診断装置を用いてTdi TLCとTdi RVにおける筋厚変化率として算出した9,10,11,12.睡眠時SaO2は,パルスオキシメーターを用いて睡眠時に連続パルスオキシメトリーを実施し,睡眠時の経皮的動脈血酸素飽和度(percutaneous arterial oxygen saturation: SpO2)平均値(mean of nocturnal SpO2: NSpO2 mean)として測定した12.統計解析は,これらの測定値の関係性を検証するためにPearsonの積率相関係数を用いた.また,NSpO2 mean に対するΔTdi%の影響力を検証するため,先行研究17,18,19にて関係性が報告されているPaO2とPImaxの予測値に対する割合(%PImax)および年齢等の基本情報を独立変数として含めた重回帰分析を行った.

その結果,ΔTdi%とNSpO2 mean には有意な正の相関関係(r=0.702, P<0.001)がみられた(Figure 3).また,重回帰分析の結果,NSpO2 meanの予測因子としてΔTdi%(β=0.508,P<0.001)とPaO2β=0.488,P<0.001)が抽出された.回帰式の重相関係数(R)は0.833,調整済み決定係数(adjusted R2)は0.669,推定値からの標準誤差(standard error of estimate)は1.002であった(Table 1).

Figure 3

The scatter plot and correlation coefficient between ΔTdi% and NSpO2 mean文献12より引用)

ΔTdi%, the change ratio of diaphragm thickness;NSpO2 mean, the mean value of nocturnal arterial percutaneous oxygen saturation.

Table 1 Assessment of independent contributors to NSpO2 mean文献12より引用)
BSEβP-value
Intercept81.3461.258
ΔTdi%0.0510.0120.508<0.001
PaO20.0990.0250.488<0.001

R=0.833, adjusted R2=0.669, standard error of estimate(SEE)=1.002

B, partial regression coefficient; SE, standard error; β, standardized partial regression coefficient; NSpO2 mean, the mean value of nocturnal arterial percutaneous oxygen saturation; PaO2, arterial oxygen pressure; ΔTdi%, the change ratio of diaphragm thickness.

先行研究16では,日中安静時のPaO2やPImax,PdiとNSpO2の関係性が報告されているが,影響が強いのはPaO2であるという結論であった.本研究12でも,重回帰分析において日中安静時のPaO2が予測因子として抽出され,先行研究16を支持する結果であった.しかし,本研究12では,ΔTdi%も予測因子として抽出され,標準化偏回帰係数もPaO2と同程度であった.その理由として,先行研究17の対象と比較して本研究の対象は日中安静時のPaO2が高いという特徴があげられた.健常者においても睡眠中は換気量が減少してPaO2が低下するが,SaO2に大きな影響は与えない.しかし,酸素解離曲線の関係から,安静時のPaO2が低いほど少しのPaO2の低下でSaO2は低下する.従って,先行研究17のように日中安静時のPaO2が比較的低い対象ではPaO2がNSpO2の最も重要な予測因子となり得る.しかし,本研究12のように日中安静時のPaO2が比較的高い対象では,PaO2に限らず換気量に影響することが考えられる横隔膜機能が予測因子として抽出されたと考える.

従って,COPDでは,横隔膜単独に焦点を当てて評価を実施することも必要であり,横隔膜機能の改善を目的としたトレーニングを実施することが運動耐容能に止らず,睡眠中の病態にも効果を及ぼす可能性が示唆された.

3. IMTの負荷の違いによる横隔膜筋厚変化率の違い

横隔膜のトレーニングする方法の一つとして,IMTが考えられる.ガイドラインにおいてIMTは,吸気筋弱化(PImax<60 cmH2O)がみられる対象に対しては実施が検討されるがルーチンの実施を推奨されるものではないと記される20,21.しかし,先行研究22では,吸気筋弱化のない対象においてもその効果を認め,IMTの効果には未だ不明確な部分も多い.また,従来のIMTは,スプリング抵抗を用いた機器で15分間の低負荷(主に30%PImax)トレーニングを2セットというプロトコルで実施されていた23.しかし,近年では中から高負荷トレーニングや30呼吸というように回数を指定した短時間トレーニングのプロトコルを用いた検討も多く見られるようになった.健常者を対象とした先行研究24においても,30呼吸の高負荷トレーニングと従来法の効果に差がないことが報告されている.さらに,私たちの研究グループは,30呼吸の短時間トレーニングにおける効果的な負荷を20%,40%,60%PImaxの3群で検討し報告している25.その結果,すべての群で有意なPImaxの向上が得られたものの,その変化量(20% vs. 40% vs. 60%PImax;23.5 cmH2O vs. 30.3 cmH2O vs. 41.9 cmH2O)は60%PImaxの高負荷トレーニング群で有意に高値であった25.従って,呼吸回数を指定したトレーニングでPImaxの増加を期待する場合はより高負荷条件が有用であることが示唆された.しかし,負荷圧が増加するにつれて吸気補助筋の活動が大きくなっていることも考えられ,横隔膜機能の改善に焦点を当てた場合には高負荷トレーニングの有効性に疑問を残した.そこで,複数の負荷圧におけるIMT中の横隔膜筋厚の違いを超音波画像解析にて検証した26

対象は,男性の健常若年者20名(年齢:22±1歳,BMI: 21.9±2.7 kg/m2)であった.対象のPImaxを測定し,PImaxに対する0%,20%,40%,60%,80%の負荷においてIMTを実施させた.その際のTdiを前述した方法と同様に測定し,それぞれ無負荷時に測定したTdi RVとの変化量を求め,Tdi RVを基準とした筋厚変化率(ΔTdi%)として算出した12

その結果,ΔTdi%は,60%PImaxの負荷圧では20%PImaxと40%PImaxの負荷圧と比較して,80%PImaxの負荷圧は他のすべての負荷圧と比較してそれぞれ有意に低値を示した.また,40%PImaxの負荷圧では無負荷時と比較して有意に高値を示した(Figure 4).

Figure 4

Comparison of ΔTdi% at each inspiratory pressure load(文献26から作成)

Multiple paired t tests adjusted by the Bonferroni corrections,*P<0.05,**P<0.01

ΔTdi%, the change ratio of diaphragm thickness;NSpO2 mean, the mean value of nocturnal arterial percutaneous oxygen saturation.

Jungら27は,PImaxの0%,40%,60%,80%の各負荷圧でIMT中の横隔膜活動を表面筋電図にて測定し,60%および80%PImaxでは0%PImaxと比較して有意に低値を示したと報告している.本研究26においても60%PImax以上ではΔTdi%が低値を示す結果となり,先行研究を支持する結果となった.従って,横隔膜をターゲットとしてIMTを行う際には,従来から多く用いられている40%PImax付近の負荷圧で行うことが適当である可能性が考えられた.60%PImax以上では吸気補助筋優位のトレーニングになることが考えられ,負荷圧による筋活動の違いを把握した上でIMTを処方する必要があると考える.

今後の展望

以上のように,私は超音波画像解析を活用して横隔膜の評価を行い,健常者とCOPDのTdiの差やCOPDにおけるNSpO2とΔTdi%の関係,健常者におけるIMTの負荷の違いによるΔTdi%の違いなどを明らかにしてきた.これらを踏まえて,次にIMTの負荷の違いによるΔTdi%の違いをCOPD患者で検証することが必要である.横隔膜機能低下が報告されているCOPDでは,健常者と違う傾向を示す可能性が考えられる.さらに,ΔTdi%とPImaxの関係によって最適に設定された負荷で行うIMTがCOPDの運動耐容能や睡眠時の病態に与える効果を検証することで,横隔膜機能をターゲットとしたIMTの有用性を探っていくことが必要だと考える.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

この度は,平成29年度日本呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞という栄誉ある賞をいただくことができ,大変光栄に思っております.受賞にあたり,日頃より大変多くのご指導をいただいております秋田大学の塩谷隆信教授,市立秋田総合病院リハビリテーション科の高橋仁美先生をはじめとするスタッフの皆様に改めて深く感謝を申し上げます.また,被験をご協力いただいた皆様を含め,多くの方々に支えられたことで様々な研究を行うことができ,このような栄誉ある賞の受賞に至ることができたと思っております.

奨励賞に込められた意味のように,現時点が終着点ではありません.ここまで積み重ねてきた研究が埋もれず,さらに発展できるように追求していきたいと思っております.今後も,本学会および呼吸リハビリテーションの更なる発展に少しでも寄与できるように精進して参ります.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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