The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Evening Seminar
Significance of measurement of fractional exhaled nitric oxide (FeNO) in bronchial asthma
Hisatoshi Sugiura
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2019 Volume 28 Issue 1 Pages 66-71

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要旨

気管支喘息は気道の慢性炎症を本態とする疾患である.喘息患者の気道では,通常,慢性の好酸球性炎症が生じており,好酸球性炎症の有無や程度を知ることが喘息の診断や管理の上で極めて重要である.近年,呼気一酸化窒素濃度(fractional exhaled nitric oxide: FeNO)の測定が保険収載され,すでに日常臨床の場でも汎用されている.本項では,FeNOの測定原理や測定の実際,正常値,測定の際に留意すべき点,喘息患者におけるFeNO高値の機序などについて概説する.また,喘息とFeNOに関するエビデンスについて国内外の報告を紹介する.さらに重症喘息におけるFeNO測定の意義についても解説する.最後に慢性閉塞性肺疾患(COPD)と喘息の合併病態であるACO(asthma COPD overlap)におけるFeNO測定の有用性についても併せて紹介する.

緒言

気管支喘息(以下,喘息)は慢性の好酸球性気道炎症を本態とする疾患である.このため喘息の診断や管理をする上で,慢性の好酸球性炎症を評価する手法として喀痰好酸球検査が用いられてきた.一方で喀痰好酸球検査は,すべての患者から喀痰が採取できるわけではなく,採取後の処理にも煩雑さがある,という欠点があった.一酸化窒素(nitric oxide: NO)は生体内で産生され,血管拡張作用などの多彩な生理作用を有するガス状分子であるが,1993年以降,健常者に比して,喘息患者の呼気中に多量のNOが存在することが証明され,現在に至るまで呼気NO濃度(fractional exhaled NO: FeNO)と喘息に関する多数の報告がなされている.我が国でも2013年に携帯型のNO測定器が保険収載されて以降,日常臨床でも汎用されている.本項では,気管支喘息におけるFeNO測定の意義について,測定原理や正常値,喘息患者におけるFeNO高値の機序,喘息との関連について概説する.さらに重症喘息におけるFeNO測定の意義や慢性閉塞性肺疾患(COPD)と喘息の合併病態であるACO(asthma COPD overlap)におけるFeNO測定の有用性についても紹介する.

喘息とFeNO

1. FeNO測定の原理

FeNOの測定機器としては,以前より研究機器として使用されてきた据え置き型と安価で簡易な携帯型がある.このうち携帯型は2013年より保険収載されており,現在3,000台以上の携帯型FeNO測定器が日常臨床で用いられている.据え置き型は,被験者から呼出されたNOを減圧下でオゾンと反応させて,その際に発する微弱な光をセンサーで検出する化学発光法を測定原理とする.この化学発光法は,最も正確で瞬時に測定が可能な反面,測定周辺装置などを含めて高価であること,オゾン発生のための酸素ボンベの設置が必要なこと,反応セルの保守や発生するオゾンの排気に注意する必要があるなどの難点もある.携帯型測定器の測定原理は,呼気中のNOが,定電圧印加下の作用電極中でNO3を発生する際に電流を生じることを利用し,生じた電流をNO濃度として検出することを原理とする.

2. 呼気NOの産生機序

呼気で検出されるNOは気道上皮細胞や炎症細胞により産生されたNOに由来すると考えられており,健常者でも呼気中で検出される.NOは一酸化窒素合成酵素(NO synthase: NOS)によって産生される(図1). NOはアミノ酸の一種であるL-アルギニンを基質として,L-シトルリンに転換されるときに同時に産生される.この反応を触媒するのがNOSであり,構成型NOS(constitutive type of NOS: cNOS)と誘導型NOS(inducible type of NOS: iNOS)に分類される.iNOSはcNOSに比較して長時間,大量にNOを産生する.喘息患者の気道で過剰産生されるNOは,炎症性サイトカインによる刺激を受けて発現が増強されるiNOS由来と考えられている1

図1

一酸化窒素(nitric oxide: NO)産生酵素の模式図.NO合成酵素(NO synthase: NOS)は,アルギニンを基質として酸素一分子からNO一分子を産生する.

3. FeNO測定法

FeNO測定法として1回呼吸法(オンライン法)とサンプルバック収集法(オフライン法)がある.FeNOの測定は,オンライン法による測定が一般的である.FeNOは呼気流速や呼出時の肺気量位など様々な要因による影響を受けるため測定条件を一定にする必要がある.2005年に米国胸部疾患学会(ATS)とヨーロッパ呼吸器学会(ERS)により標準測定法が提唱されている2.即ち,1. FeNOは呼出流速に依存して変化するため,測定の際には 50 mL/秒の呼気流速を保つ.2. 呼出時は全肺気量位から呼出する.3. 鼻腔では高濃度のNOと下気道由来のNOから分離する必要があるため,呼出時に口腔内圧を 5~15 cmH2Oに維持しながら呼出させ,軟口蓋を閉鎖することが必要である.4. FeNOは呼出初期に鼻腔や死腔由来のNOが混入したピークを形成し,その後一定のプラトー相を形成する.このプラトー相のNO値は,呼出の際に適当な抵抗がかけられ呼出速度が一定であれば安定した値を示し,これを下気道由来のFeNO値として表す.このためFeNO測定には,呼気速度と口腔内圧を維持して測定を行うことが肝要である.

4. FeNO測定の有用性

①喘息補助診断におけるFeNO測定の意義

iNOSはinterleukin(IL)-13,-4などの2型炎症性サイトカイン刺激により誘導されるため3,4,喘息の炎症関連物質の一つと考えられている.FeNO測定が喘息の補助診断に有用であることは多くの研究で検証されているが,実際の臨床応用に向けては具体的な基準値の設定が必要である.本邦における多施設FeNOの正常値算出試験の結果,日本人の成人健常者におけるFeNOの平均値は 15.4 ppb,正常上限値は 36.8 ppbと算出された(図25.一方で,FeNOの測定値は,測定条件以外にもステロイド薬の使用やアトピー,鼻炎,喫煙などの因子によって影響を受けることが知られている6.我々が行った喘息補助診断のカットオフ値算出試験では,ステロイド未治療かつ呼吸器症状がある喘息患者のFeNOは健常者に比べ有意に高値であり,22 ppbのFeNOが最も感度(91%)と特異度(84%)に優れたカットオフ値であった6.さらに宿主因子の中では,現在の喫煙と鼻炎がFeNOの測定値に有意な影響を与える因子として抽出された.これらの要素を加味したカットオフ値を示す(図3).喘息の診断は,症状および気道可逆性や気道過敏性を用いてなされるべきであるが,図3に示す結果は,全ての群においてAUCが0.85以上に保たれており,FeNO測定は喘息補助診断の新しいツールとして有用性が高いと思われる.

図2

日本人(成人)の呼気NO濃度の正常値と正常上限値.男女差はなく,全体で 36.8 ppbが成人健常者の正常上限値であった.文献5より引用.

図3

鼻炎合併と現在の喫煙を加味した呼気NOカットオフ値.鼻炎および現在の喫煙の有る無しでカットオフ値は変化する.いずれの場合でも高いAUC(area under the curve)値を示す.文献6より引用.

②FeNO測定を用いた喘息の気道炎症モニタリングについて

未治療の喘息患者において,FeNOは閉塞性障害や気道過敏性の程度と有意な相関を示すことが報告されており7,重症度や病態の把握にも有用と考えられる.FeNOは喀痰中の好酸球数と有意に相関し,FeNOのステロイド薬による低下の程度が,閉塞性換気障害や気道過敏性改善の程度と相関することから,FeNOにより示される炎症反応が喘息の気道炎症の状態を反映することが示唆される7,8.これらの結果からFeNO測定が喘息の管理に有用である可能性が示唆される.2005年にSmithらは,FeNOを指標に喘息治療を行った場合,従来のガイドラインに基づいた管理に比べて,同程度の喘息コントロールを得るために必要とする吸入ステロイドの使用量を有意に抑制できることを報告している9.この報告では,有意差は得られなかったものの,喘息の管理(増悪の抑制)にFeNOを指標にした管理が,ガイドラインに基づいた管理に比較して有用である傾向が認められた9.この後の報告では,FeNOを指標とした管理を行っても,喘息の増悪や呼吸機能の改善は同程度であったとの報告10,11もあり,現段階では結論が得られていない.

5. FeNO測定値の解釈

2011年にATSから日常臨床におけるFeNOの解釈に関するガイドラインが示され,FeNO測定が喘息の補助診断とモニタリングにおいて有用な検査法であることが明記された12.このガイドラインで臨床応用する際に最も強調されたのは,FeNOが気道の好酸球性炎症を反映する指標であり,ステロイド反応性の予測に有用であるという点である.FeNOが低値(成人では 25 ppb未満)であれば,好酸球性気道炎症の存在は否定的であり,ステロイド薬が有効である可能性は低いことが示された12.診断やモニタリングにおいては鼻炎,非好酸球性喘息および他疾患を考慮すること,治療により無症状となっている喘息ではステロイドを減量できる可能性を示唆する所見であるとした12.逆に,FeNOが高値(成人では 50 ppb以上),または以前の測定値と比べFeNOが40%以上増加すれば,制御されていない好酸球性気道炎症の存在が示唆されるとした12.また,恒常的なアレルゲンの曝露,吸入ステロイド薬の効果が不十分となり得る因子(アドヒアランス,吸入手技の不良,用量不足など)を検討すべき所見であるとした12.さらに,個々の症例におけるFeNOの基準値を把握し,経時的なモニタリングを行うことにより,喘息コントロールが悪化した際の気道炎症の関与や吸入ステロイド薬のアドヒアランスが評価できることが提唱された(図412.近年,喘息患者の呼吸機能の経年低下とFeNOの関係を明らかにした報告がなされている.軽症から中等症の症状の安定した喘息患者を対象とした報告によると,FeNO高値の患者群では低値の患者群と比べて一秒量の経年低下が有意に大きかったとされている13.また中等症から重症の喘息患者を対象とした研究でも同様に,FeNO値と一秒量の経年低下が有意に負の相関を示したと報告されている14.FeNO値と喘息患者の予後については今後も検討する必要があるが,FeNO値が高値である患者では好酸球性炎症が制御されていない可能性があるので注意深く観察する必要があると考える.

図4

喘息診断後の呼気NO濃度測定値の解釈.呼気NO濃度と喘息症状を組み合わせて解釈する.文献12より改変して引用.

重症喘息とFeNO

重症喘息患者を用いたコホート研究(Severe Asthma Research Program: SARP)において,喀痰上清中の種々の炎症性サイトカインやケモカインが網羅的に検討されたが,非重症喘息患者群と重症喘息患者群の間に有意な差が認められなかった15.SARP研究では,FeNO値も検討されたが,喀痰上清における検討同様,有意な差が認められなかった16.一方で,同研究において喘息の重症度とFeNO値で層別解析したところ,重症喘息かつFeNO高値群では,重症喘息かつFeNO低値群と比較して,一秒量の可逆性,気道過敏性の程度,救急室の受診率が有意に大きかった16.これらの結果は,重症喘息患者においてもFeNO値が高値である患者ではより注意深く臨床経過を観察する必要があることを示唆する.また,アトピー性の重症喘息患者では,高用量の吸入ステロイドと気管支拡張薬と併用して抗IgE抗体(オマリズマブ)を使用することもあるが,その効果予測としてFeNO値が有用であることが報告されている17.同報告では,19.5 ppbをFeNOのカットオフ値とした時にFeNO高値群にオマリズマブを投与した群では低値群に比較して,有意に喘息の増悪率を抑制した.分子標的薬は高価であるので効果を予測するバイオマーカーとしてもFeNO値は有用であると思われる.

ACOとFeNO

COPDと喘息の合併病態であるACOは,喘息およびCOPD単独と比較して増悪が頻回であり,quality of life(QOL)の悪化,呼吸機能の経年低下の増大,高い死亡率ならびに医療経済の負担が指摘されており,その合併頻度も高いことが近年の研究で明らかになってきた.これらの疾患背景を踏まえて,2014年のGlobal Initiative For Asthma(GINA)とGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)の合同委員会において喘息とCOPDを合併する病態をAsthma COPD Overlap Syndrome(ACOS)と呼称し,臨床的な症候に基づく診断法や治療指針が提唱された18.またACOSは後に,「症候群」では無いことが指摘されるようになり,現在ではSyndromeを削除し,ACOと呼称されている.以前から,COPDの中には吸入ステロイドが有効である群が存在することが示されていたが,この疾患概念を用いると理解が容易になる.海外諸国の疫学データをみるとその合併率は17-19%程度であるが,本邦におけるACOの有病率は明らかではなかった.さらに上述したGINAとGOLDの共同委員会による診断法では,肺拡散能検査や胸部CT,FeNOやIgEなどの客観的指標を用いていないことから,当科では他施設と共同し,これらの客観的指標を用いた疫学調査を施行した19.呼吸器専門医がCOPDと診断し加療中のCOPD患者331名に対してFeNO検査ならびにIgE(非特異的,特異的)検査を施行したところ,FeNOのみ正常上限の 35 ppbより高値の患者の割合が9.6%,IgEのみが正常上限の 173 IU/mlより高値の患者の割合が27.8%,FeNOおよびIgEの両方が高値の患者の割合が7.8%,存在することが明らかになった.FeNOのカットオフ値として正常上限の 37 ppbの特異度が99%であることから,COPD患者のうちFeNO高値の17.4%の患者は喘息を合併している可能性が示唆される.現在,これらの知見を踏まえて「喘息とCOPDオーバーラップ診断と治療の手引き」が刊行されているので興味のある方は参考にされたい20

最後に

気管支喘息におけるFeNO測定の意義について概説した.FeNO検査は非侵襲的であり,高い再現性を有し,結果がリアルタイムで判明するという極めて高い有用性を有する検査である.保険収載を契機に喘息の日常診療にも浸透し汎用されている.さらに日本呼吸器学会肺生理専門委員会の編集で「呼気NO測定ハンドブック」の上梓も決定している.本書には,呼気NO測定の概略,原理,測定の実際,測定結果の解釈が最新の知見を交えて詳しく記されている.基礎研究はもとより日常診療の手引きとして活用されることを望む.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

講演料(アストラゼネカ),研究費・助成金(ノバルティスファーマ)

文献
 
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