日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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ランチョンセミナセミナー
COPD患者の息切れを考える
南方 良章
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2020 年 28 巻 3 号 p. 371-376

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要旨

息切れを中心とする症状の改善は,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する重要な管理目標のひとつである.息切れは,主に気流閉塞に伴う動的肺過膨張により生じるため,特に労作時に自覚しやすい.評価指標としては,間接的評価法と直接的評価法があるが,目的によって使い分けが必要となる.日本人COPD患者において,息切れは最も頻度の高い症状であり,治療によっても残存しやすい症状である.息切れは,呼吸機能,QOL,身体活動性,増悪と相関し,息切れの強い患者では総医療費は高額となる.長時間作用性β2刺激薬(LABA)は,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)より息切れ改善効果が高い可能性があり,LAMA/LABA配合剤は単剤あるいはLABA+吸入コルチコステロイド薬よりも息切れをさらに改善する.本稿では,様々な観点からCOPDの息切れに対する整理を行う.

はじめに

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)の重症度は,日本呼吸器学会のCOPD診断と治療のためのガイドライン第5版では,一秒量の低下程度のみならず運動耐容能や身体活動性の障害程度,さらに息切れの強度や増悪の頻度と重症度を加算し総合的に判断すると記されている.また,管理目標として,現状の改善の2項目と将来リスクの低減の2項目の計4項目が挙げられ,前者の1つが①症状および生活の質(quality of life: QOL)の改善,もうひとつが②運動耐容能と身体活動性の向上および維持と記されている1.すなわち,症状の中心である息切れは,COPD管理の上で大きな目標のひとつである.確かにCOPD患者では,重症になるにつれ労作時に息切れを自覚するようになるが,主観的な要素が多く曖昧さも含まれること,国民性や生活習慣により息切れの感じ方に差が生じること,活動を制限することで息切れは感じ難くなることなど,様々な因子の影響を受けるため漠然とした指標という印象が残る.本稿では,COPD患者の息切れについて,報告例をもとに整理を試みる.

COPDにおける息切れの発現機序

COPDでは,中枢気道,末梢気道,肺胞領域,肺血管に病変はみられるが,息切れをもたらす気流閉塞は,主に末梢気道と肺胞領域の病変により生じる.末梢気道(内径 2 mm以下の気管支)では,粘液分泌物の貯留,杯細胞の増生,炎症細胞の浸潤,気道壁の線維化,平滑筋肥厚による気道の変形と狭窄および細気管支の破壊による気道の消失が生じ,器質的に気道内腔狭窄が生じる.また,細気管支壁に付着している肺胞の破壊により,気道内腔を広げる力が減弱し末梢気道が虚脱して気流閉塞の原因になる1.これらの変化が重なり,気流閉塞がもたらされることになる.吸気時には胸腔内圧は陰圧であるが,呼気時には胸腔内圧は陽圧となり圧力で末梢気道を外側から圧するため,肺胞破壊による気道内腔保持機能低下の影響は呼気時により顕著となる.実際,胸部CTを用いて気管支内腔の開存状態を吸気時と呼気時で比較し,吸気時には開存している気管支が,呼気時には閉鎖している状態を画像的に確認されている2

この呼出障害の状態が長期間続くことにより,肺の機能的残気量が増加し最大吸気量が低下した状態,すなわち肺過膨張が生じる.呼出障害の状態で労作をおこなうと,1回換気量の増加分を十分呼出できない間に次の吸気を開始してしまうため,徐々にさらなる機能的残気量の増加と最大吸気量の減少がみられ(動的肺過膨張),結果として息切れを感じ始める.さらに労作を継続すると,最大吸気量不足のため十分な1回換気量を確保できなくなり,息切れが増強しそれ以上の労作が困難となる(図1).しばらく休息をとり1回換気量の減少と呼出時間の確保ができると,最大吸気量が増加し再度労作が可能となる.

図1

COPDの動的肺過膨張と息切れ

COPDでは,安静時において残気量の増加による肺過膨張がみられ最大吸気量は減少している.労作時には,1回換気量の増加分を十分に呼出できない状態で次の吸気が開始されるため,最大吸気量が徐々に増加し(動的肺過膨張),やがては必要な吸気量を確保できなくなり,息切れが最大となると同時に労作の継続が困難な状態に陥る.

息切れの客観的評価法

現在,息切れ評価のための指標はいくつか存在するが,ここでは間接的評価法と直接的評価法の代表的な指標を解説する.

1. 間接的評価法

1) 修正Medical Research Coucil(mMRC)息切れスケール

0から4までの5段階のスケールで,数値が大きいほど息切れが強いことを示している.このスケールは,日常生活の労作の中で,息切れのためにどの程度の労作が障害されているかを評価している.

2) Baseline Dyspnea Index(BDI)

呼吸困難による機能障害,呼吸困難が生じる仕事量,労力の程度の3項目についてそれぞれ0~4段階で評価し,3項目の合計すなわち0~12の13段階のスケールの指標で,数値が小さいほど息切れが強いことを示している.このスケールは,日常の活動状態の中での息切れの程度を評価している.

3) Transition Dyspnea Index(TDI)

2時点でBDIを評価し,息切れの変化を評価する指標である.BDIの3項目に対し,ベースラインからの差を-3~+3の7段階で評価し,その合計点を用いる.したがって,-9~+9の19段階での評価となり,数値が小さいほど息切れが強くなったことを示している.

2. 直接的評価法

1) 修正Borgスケール

0(感じない),0.5(非常に弱い),1(やや弱い)から10(非常に強い)までの12段階のスケールで,数値が大きいほど息切れが強いことを示している.このスケールは,何らかの労作を行なわせた時にどの程度の息切れを感じるかを評価している.一定の労作でどの程度の息切れを自覚するかの評価,労作前と労作中の息切れの差の評価などに用いられる.

2) Visual Analog Scale(VAS)

0から10までの11段階のスケールで,直線上に0から10までの数値を均等な距離で記載し,0(息切れは全くない)と10(最大限の息切れ)にのみ程度を記載した図を被験者に提示する.被験者は,現時点での息切れがどの程度の位置にあるかを図の上で指し示す.このスケールも,数値が大きいほど息切れが強いことを示しており,何らかの労作を行わせた時の息切れの程度を評価する場合に用いられる.

日本人COPD患者の特徴

日本人COPD患者では,欧米の患者に比べ高齢者の比率が高く,2014年の報告では65歳以上の割合が87.4%を占めている3.また,2015年のCOPD死亡者の平均年齢は82.8歳で,同年の日本人の平均寿命が,男性80.75歳,女性86.99歳である4ことを考慮すると,ほぼ平均寿命で亡くなっているといっても過言ではない状況にある.次に,COPDの重症度別比率を比較すると,欧米では軽症例が20~30%程度であるのに対し,日本では約60%を占め,軽症の患者割合が際立って高い5.実際日本人の一般集団における様々な疫学調査の結果においても,軽症患者は42%~80%と高い比率を示している6,7,8,9.また,増悪の比率を比べると,日本人集団では海外の報告に比べ明らかに低い値を示している5,10

このように,高齢で軽症が多く増悪の少ない特徴を有する日本人COPD患者の息切れに関する報告では,COPD assessment test(CAT)の中で,未治療時に最も点数の高い(悪い)項目は息切れであり,薬物治療開始後においても息切れの項目は最も高い点数を維持し,症状として残存しやすいのも息切れである11.また,薬物治療中のCOPDの95%の患者に何らかの症状は残存しており,症状の中でも息切れの残存を訴える患者が最も多く85%を占めている(図212.すなわち,日本人COPD患者にとっても息切れは最も大きな自覚症状であり,治療によっても残存しやすい症状でもあるといえる.

図2

薬物治療中の残存自覚症状

気管支拡張薬の処方を受けている患者の95%において何らかの症状が残存しており,中でも息切れは85%と最も多く認められる症状である.文献12)より引用.

息切れと他因子との関連

息切れとQuality of life(QOL)の関係の報告では,MOS 36 Item Short-Form Health Survey(SF-36)ならびにShort Form 6 Dimension(SF-6D)を用いてmMRC 0-1の患者とmMRC ≥2の患者を比較すると,mMRC ≥2では有意にスコアが低値(QOLが不良)であることが確認されている13.また,mMRC,BDIとSaint George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)の相関関係をみた検討では,いずれも極めて良好な相関関係が確認されており14,COPDの重症度別の比較をみてもいずれの重症度においてもmMRCはSGRQと良い相関関係が得られている15.CATとの関係では,mMRCはCATスコアと有意な相関関係が確認されている16.呼吸機能との関係では,一秒量(FEV1),最大吸気量(IC)はBDI14,17,mMRC14と有意な相関関係があり,呼吸機能の低下した患者では息切れが強いことが示されている.COPD増悪との関係では,BDIの1ポイント減少(悪化)は,増悪による入院のリスクを1.18倍高め,有意な危険因子であり18,mMRCではグレードが上昇するにつれ年間増悪回数は増加する19.身体活動性との関係では,mMRCのグレードが上昇するにつれあらゆる強度において身体活動性の低下が確認され(図3),特に非活動患者の割合の感度・特異度が最も高い呼吸困難程度はmMRC ≥2の状態であることが示されている20.また,COPD患者が歩行しない理由を調査した研究では,息切れと歩行時の腰痛や足痛がいずれのCOPD病期においても大きな原因である結果が示されている21.ただし,身体活動性の低下は息切れよりも早期から出現することが報告されており22,身体活動性の低下に注意を払うことが息切れの出現の予測にもつながる可能性が考えられる.医療費の関係では,mMRC ≥2の患者ではmMRC 0-1の患者に比べ,総医療費が2.27倍に上昇するとの報告もあり23,息切れの改善に向けた介入の重要性が示唆されている.

図3

息切れと身体活動性

いずれの活動強度においても,mMRCスコアと身体活動時間は相関関係を認める.p値は対mMRC 1.METs: metabolic equivalents(身体活動強度の単位),mMRC:修正Medical Research Council.文献20)より引用.

気管支拡張薬による息切れの改善効果

1. 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)

呼吸機能に対する効果としては,LABAであるインダカテロールとLAMAであるグリコピロニウムあるいはチオトロピウムとの比較において,トラフ1秒量に対する効果はLAMA, LABA間で有意な差は認めていない24.しかし,息切れに対する効果は,インダカテロールはチオトロピウムに比べ,52週間の検討および12週間の検討のいずれにおいても,TDI総スコアが有意に良好であった(図425,26.一方,増悪に対する効果は,チオトロピウムはインダカテロールに比べ,増悪回数が少ない傾向にあった25.すなわち,呼吸機能に対してはLAMAとLABA両者の効果に差はないが,息切れにはLABA,増悪抑制にはLAMAの方が有用性は高い可能性が示唆される.

図4

息切れに対するLAMAとLABAの効果の比較

LAMAであるTIOに比べLABAであるINDでは,投与開始12週後のTDI総スコアを有意に改善する.LABA:長時間作用性β2刺激薬,LAMA:長時間作用性抗コリン薬,TIO:チオトロピウム,IND:インダカテロール.文献26)より引用.

2. LAMAとLAMA/LABA配合剤

LAMA/LABA配合剤であるチオトロピウム/オロダテロール配合剤は,チオトロピウムに比べ,1秒量,最大吸気量,努力肺活量などを有意に改善し27増悪の発現頻度を有意に減少させる28.息切れに対しては,チオトロピウム/オロダテロール配合剤はチオトロピウムに比べTDIを有意に改善させ29,また,LAMA/LABA配合剤であるインダカテロ-ル/グリコピロニウム配合剤はチオトロピウムに比べTDIを有意に改善させる30.さらに,インダカテロ-ル/グリコピロニウム配合剤群とLAMAあるいはLABAの単剤群あるいはLABAと吸入ステロイド(ICS)併用群との比較で,配合剤では単剤あるいはLABA/ICSに比べTDIの有意な改善を示す(図531

図5

息切れに対するLAMA/LABA配合剤の効果

IND/GLY配合剤は,LABAとICSの併用やLABAまたはLAMA単剤に比べ,TDI総スコアを有意に改善する.LABA:長時間作用性β2刺激薬,LAMA:長時間作用性抗コリン薬,ICS:吸入コルチコステロイド薬,IND:インダカテロール,GLY:グリコピロニウム.文献31)より引用.

一方,運動耐容能や身体活動性に対しては,チオトロピウム/オロダテロール配合剤はチオトロピウム単剤に比べ,重症以上の患者では6分間歩行距離の有意な改善がみられ,経皮的酸素飽和度低下による中断例を除けば,重要度に関係なく6分間歩行距離の改善を示す27.また,加速度計で評価した2.0 metabolic equivalents(METs:活動強度の単位)以上の活動時間は,加速度計装着時間が8時間未満のデータを除外し,有効データが2日分以上確保できる患者のみで比較すると,配合剤で有意に活動時間の延長が認められる27.すなわち,配合剤は単剤に比べ,呼吸機能,増悪回数を改善すると同時に息切れの改善効果を認め,運動耐容能や身体活動性も改善しうる可能性が示唆されている.

おわりに

COPD患者の息切れについて,これまでの報告をもとに整理を試みた.高齢,軽症で,増悪が少ない傾向の日本人COPD患者において,息切れは最も頻度の高い症状であり,その評価には様々な指標が用いられている.息切れは,QOL,呼吸機能,増悪,身体活動性,医療費などとも密接に関係しており,息切れ改善には,単剤の気管支拡張薬の場合はLABAが有用で,LAMA/LABA配合剤ではさらなる改善効果が期待できる.COPDの管理目標のひとつである息切れを中心とした症状の改善に対し,今後さらなる臨床研究が蓄積され,より有効な管理方法が確立していくことを期待する.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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