The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
[title in Japanese]
[in Japanese][in Japanese][in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 29 Issue 3 Pages 498-499

Details

本学会編集委員会において,これまで多くの発表や論文でトレーニングなどを表す用語として「~訓練」という言葉が使用されてきた.しかし「~訓練」という言葉の場合,患者に対する強制的または家父長的な指導という印象を与え,軍事訓練のような負のイメージも持たれることもあり,違和感があるという意見が出てきた.一方,「~練習」という言葉をすべての場面で用いることについても,用語や場面によっては違和感がある.

さらに,これらの用語の使い方や感じ方は職種や所属する学会,職能団体の方針などによっても異なると思われる.また医療者が患者へ指導するときと患者自身が行う場合には,同じ内容でもニュアンスが異なる場合もある.多職種で構成される当学会としては,「~訓練」と「~練習」という用語の統一は難しいと考えるが,今後の学会活動において,研究発表,論文作成,査読などの際に目安とするために,編集委員会および用語小委員会において議論を行った.本稿では委員会における議論や用語に対する委員の意見が,学会員の今後の活動の一つの参考になるようにまとめてみたい.

広辞苑によると,「訓練」とは,①実際にある事を行って習熟させること,②一定の目標に到達させるための実践的教育活動.訓育,徳育と同義にも用い,また技術的・身体的な場合にも用いる,とされている.また「練習」とは,学問・技芸などの上達を目的に,繰り返して習うこと.習練.としている.これらの定義からは,トレーニングという表現を行う場合に一律に「~訓練」とすることには,医療者は患者よりも上の指導的立場にあるという一方的な印象を与える可能性がある.

当学会より刊行されている「呼吸リハビリテーションマニュアル-運動療法-第2版」では,「胸郭拡張練習」「胸郭可動域練習」「呼吸練習」等,「~練習」用語も使用されているが,主に「トレーニング」という用語が用いられている.

そこで今回,当学会ホームページで公開されている論文投稿フォーマット使用見本で紹介されているサンプル論文中に用いられている「~訓練」という用語使用について,編集委員会構成委員にアンケート調査を行った.

アンケート回答者は総数18名で,職種ごとに医師9名,理学療法士6名,看護師1名,作業療法士1名,臨床工学技士1名であった.サンプル論文掲載の各用語に対するアンケートの回答と回答数を表1にまとめた.

編集委員会委員の意見を列挙すると

・「訓練」という用語を使用しない,という根拠が不明である.

・「訓練」という言葉の誤認がベースにあると考えられる.

・医療者に指導を受けて行うことであれば「訓練」.患者が自主的に行うことは「練習」ではどうか.

・筋力や持久力など鍛える内容は「トレーニング」,動作や手段など習得すべき内容は「練習」を用いるのはどうか.

・「訓練」は技術などを身につけさせること,「練習」は技術などを身につけることであり,つまり「訓練」はさせること,「練習」はすることであると言える.

・医療行為としては,指導が加わることから「訓練」の方が適切と考える.

・「訓練」は他者にやらされて習得すること,「練習」は自ら行い上達することというニュアンスがあるように考える.服薬に関してもコンプライアンスからアドヒアランスに変化したように,受動的から能動的な言葉へ変化する流れもあると思う.

・語感や語義は時代や感性によって流動的である.また先行する言葉が「ADL」やカタカナなどの外来語の場合には,「~トレーニング」の方がしっくりくることもある.

・「訓練」か「練習」か,と問題にするようなことでもないと思われるが,一方で時代の流れや多職種の事情にも配慮する必要があると考える.

・各学会のローカルルールに配慮しながら許容していくことが望ましい.現行の各種国家試験においても「訓練」という用語は使用されている.

これらのアンケート結果を踏まえ,編集委員会で議論を行った.

編集委員会としては,各職能団体の方針,各職種の習慣,感性および論文や発表中でのニュアンスや使用場面において様々なケースが考えられるため,用語の統一は困難または適切ではないと判断した.論文投稿時や学会発表時などにこれらの用語を使用する際には,上記編集委員会での議論を参考にして,著者の判断で使い分けてもらうこととしたい.また査読を行う際は,著者の職種に対する考慮,上記を参考に査読者の判断において必要に応じて修正を求めることとしたい.

本学会の最も重要な特性は,多職種の医療従事者が呼吸ケア・リハビリテーションに関する学術的な議論を行うということである.さらに,医療従事者と患者との臨床的なかかわりを深く議論していくという学会でもある.そのためそれぞれの立場や状況に応じた用語の使用が許容されるべきであり,今後も上記のような方針で査読,編集を行っていくこととする.一方,時代の変遷に合わせて方針転換を行うことも引き続き検討していくべき課題であると考える.

表1 サンプル論文掲載の用語アンケート 集計結果(編集委員29名:回答18名)
番号サンプル論文掲載の用語選択肢1回答数選択肢2回答数選択肢3回答数「その他」の場合,具体的な用語
※数字は回答数(数字なしは回答数1)
1手段的日常生活動作訓練1.掲載用語のままで良い72.手段的日常生活動作練習が良い83.その他
(右セルに用語記入)
3「手段的日常生活動作(IADL)トレーニング」,「手段的日常生活動作トレーニング」,訓練のままかトレーニング
2職業関連活動の訓練1.掲載用語のままで良い92.職業関連活動の練習が良い73.その他
(右セルに用語記入)
2「職業関連活動のトレーニング」,訓練のままかトレーニング
3福祉用具の使用等に関する訓練1.掲載用語のままで良い72.福祉用具の使用等に関する練習が良い103.その他
(右セルに用語記入)
1訓練のままかトレーニング
4適応訓練1.掲載用語のままで良い82.適応練習が良い73.その他
(右セルに用語記入)
3「適応支援」,「適応学習」,訓練のままかトレーニング
5動作訓練1.掲載用語のままで良い82.動作練習が良い73.その他
(右セルに用語記入)
3「動作トレーニング」,「動作学習」,訓練のままかトレーニング
6全身調整訓練1.掲載用語のままで良い72.全身調整練習が良い33.全身調整運動が良い7訓練・運動もしくはトレーニング
7全身持久力訓練1.掲載用語のままで良い82.全身持久力練習が良い23.その他
(右セルに用語記入)
8「全身持久力トレーニング」6,「全身持久性運動」2,訓練・運動もしくはトレーニング
8下肢筋力増強訓練1.掲載用語のままで良い72.下肢筋力増強練習が良い43.その他
(右セルに用語記入)
7「下肢筋力増強トレーニング」3,「下肢筋力トレーニング」2,「下肢筋力増強運動」,訓練・運動もしくはトレーニング
9自主訓練1.掲載用語のままで良い62.自主練習が良い103.その他
(右セルに用語記入)
2「自主トレーニング」2
10自転車エルゴ訓練1.掲載用語のままで良い82.自転車エルゴ練習が良い33.その他
(右セルに用語記入)
7「自転車エルゴトレーニング」2,「自転車エルゴメータによる持久力トレーニング」2,「自転車エルゴメータを用いた運動療法」,自転車を漕ぐ方法の練習という意味であれば「自転車駆動練習」,「自転車エルゴメータートレーニング」,「自転車エルゴ運動」,訓練のままかトレーニング
11歩行訓練1.歩行練習に修正
(用語集に合わせる)
132.その他(右セルに用語記入)5「歩行訓練」2,英文ではwalking training,練習・訓練どちらでもよいと思う,訓練のままかトレーニング
12調整訓練1.掲載用語のままで良い72.調整練習が良い73.その他
(右セルに用語記入)
4「調整運動(全身調整運動)」,「調整トレーニング」,何の調整練習か不明のため提案が困難,訓練のままかトレーニング
13段差昇降訓練1.掲載用語のままで良い72.段差昇降練習が良い103.その他
(右セルに用語記入)
1訓練のままかトレーニング

 
© 2021 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
feedback
Top