研究 技術 計画
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走査トンネル顕微鏡発明史の光と影に見る先端科学技術研究における成功要因
松井 誠
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2004 年 17 巻 3_4 号 p. 212-221

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抄録

1981年にG.ビニッヒとH.ローラーによって発明された走査トンネル顕微鏡(STM)は,原子1個1個を解像できるのみならず,物質表面の電子状態を原子スケール分解能で測定でき,また原子1個1個を操作できる。STMはナノ構造の科学技術の進展に大いに貢献し,発明者は1986年度のノーベル物理学賞を受賞した。他方,STMの発明の10年も前に,R.ヤングらは,真空トンネル電流ではなく電界放射電流を検出する方式であるという以外はすべて,STMの特徴を備えた走査型表面起伏測定機「トポグラフィナ」を開発し,さらに,STMの唯一の特徴である真空トンネル現象をも世界で最初に観測していた。しかし,『真空トンネル電流検出方式のトポグラフィナ』へと発想を転換できず,一歩手前で原子スケール分解能顕微鏡の発明を逃した。本論文では,ビニッヒとローラー及び先駆者ヤングによる論文と講演を拠り所として,STMという新概念に至る過程と装置開発の過程,並びに先駆者の失敗事例を検討し,先端科学技術研究における成功要因を抽出する。抽出された成功要因は,『囚われのない自由な発想』,『新概念探索型研究』,『研究目標が明確であること』,『未知への挑戦』,『食いついていくチャレンジ精神』,『夢想し,探求し,過ちを犯し,過ちを正すために必要な自由度を研究者が享受できる研究環境』,『良き研究マネージャ』,『勤勉で熟達した技術的支援』である。

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2004 研究イノベーション学会
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