2014 年 29 巻 2_3 号 p. 214-228
近年,新たな地球温暖化対策として気候工学(ジオエンジニアリング)が関心を集めている。欧米では専門家の間で活発な議論がなされているのに対し,わが国ではそのような議論は殆ど見られない。本稿では,意見分布を調べるために行った,周辺の学問領域の研究者への気候工学に関するインタビューを報告する。欧米と同様,研究・実施ともに賛否が分かれ,多様な意見が見出され,潜在的に対立する論点も見出された。意見の分岐の主な要因は地球温暖化の現状をどう認識するか,副作用や不確実性を技術で克服可能と考えるか,についての考えの違いであり,後者については専門分野間の違いも見出された。わが国で関心が低い理由を聞いたところ,自然を畏怖し改変を忌避する国民性を挙げた回答者が多かった。しかしながら,こうした考えは日本に限られず,欧米ではむしろ積極的反対論につながるのに対し,日本からはこうした積極的な展開が見られない。今回のインタビュー調査は,気候工学の研究開発の上流からのガバナンスを有効なものにするための,取りかかりとして捉えることができる。今後は専門家のみならず市民や多様なステークホルダーの関与が必要である。気候工学は世界全体の気候を変えるため,仮に実施されれば日本への影響も避けられないことを踏まえれば,この技術への賛否に関わらず積極的に国際的な議論に関与することが必要であろう。