2023 年 38 巻 3 号 p. 332-339
本稿では一関市の研究開発支援を取り上げ,地域の研究開発支援の実施主体がどのように相互の連携と調整を行っているかを事例で紹介している。事例分析では,研究開発支援に関するアンケート調査を用いるとともに,研究開発支援の実施主体である市と,支援の利用者である地域企業(株式会社佐原)の双方からのヒアリングに基づいている。支援実施主体と利用者の双方のデータを用いることで,地域のイノベーション・エコシステムの特徴や貢献,そして課題をより明確にできる。分析から,一関市では原則として,研究開発の専門性の高さゆえに,それぞれの得意領域で研究開発を支援できる機関が独自に実施する方式をとっており,地域のイノベーション・エコシステムを統括するような組織的な枠組みは設けられていないことがわかった。市における研究開発支援の関係機関の間での情報交換は行われているが,市と民間団体・事業者の研究開発支援に関して,全体を包括する俯瞰図やビジョンの共有,それぞれの支援実施主体の役割分担の明確化と官民連携の更なる深化が求められていた。