2018 年 43 巻 4 号 p. 464-470
症例は50歳代,女性.職場検診の胸部レントゲン検査で心陰影の拡大を指摘され,腹部膨満感,両下肢の浮腫を自覚していていたため,近医を受診.腹水,両側下腿浮腫,心雑音を認め,心エコー検査にて高度三尖弁逆流,右心系拡大があり,右心不全と診断され精査目的で当院心臓血管内科紹介となった.
入院時心エコー検査所見は右室拡張末期径49 mm,3Dエコーで計測した右室拡張末期容量は157 mLと拡大していた.左室拡張末期径は40 mmで壁運動は良好だが,右室拡大により心室中隔の拡張期扁平化を認めた.肺動脈弁は肥厚・短縮し,弁の可動性は著明に低下しており,拡張期弁離開による高度肺動脈弁逆流を認めた.また三尖弁も肥厚・短縮しており,弁の可動性は著明に低下し,収縮期弁離開による高度三尖弁逆流がみられ,右室容量負荷の原因と考えられた.以上,右心系の弁のみ高度に可動性が低下する特徴的な形態から,カルチノイド症候群を疑った.末梢動脈血中セロトニン値1,117 ng/mL,末梢静脈血中セロトニン値1,087 ng/mL,尿中5-HIAA値162.5 mg/dayと高値を呈しており,造影CTおよびMRI検査所見は左卵巣に11 cmの腫瘤性病変認め,内部は充実成分が主体で辺縁側は小囊胞が集簇し,脂肪および石灰化成分で形成された成熟囊胞性奇形腫に合併したカルチノイド腫瘍が疑われ,左卵巣の摘出術が施行された.摘出された左卵巣腫瘍の病理所見は,充実成分がChromogranim陽性,synaptophysin陽性,CD56陰性で島状カルチノイドの診断だった.今回我々は,心エコー検査を契機に診断することができたカルチノイド症候群の1例を経験した.