2018 年 43 巻 6 号 p. 683-691
目的:特発性前骨間神経麻痺(sAINP)はまれな疾患であり,誘因なく母指指節間関節および示指遠位指節間関節が屈曲不能となる.自然回復する症例が多く,発症早期には保存的に経過観察される場合が多いが,発症後3~6か月で回復しない場合は保存療法に加え手術療法が考慮される.本疾患では,正中神経の神経束に“砂時計様くびれ”(“くびれ”)が存在することが注目されているが,術前画像診断は困難であった.しかし,近年の装置分解能向上の結果,超音波検査(US)による“くびれ”評価が可能となり,USのsAINP診断への貢献が期待されている.そこで,sAINP診断と治療効果判定におけるUSの有用性を当院での経験症例から後方視的に検討した.
対象と方法:2015年7月~2017年10月に,当院で臨床的にsAINPと診断されUSを施行した4例.被検者を検者と向かい合わせに座位とし,上肢を肘伸展位,屈側を上にした状態で,肘屈曲皮線より近位10 cm以内の正中神経本幹の神経束を高周波プローブ(18~24 MHz)にて評価した.
結果と考察:全例の神経束に短軸走査で径変化と長軸走査で“くびれ”を1~2カ所認め,そのくびれ率は42%~71%であった.4例中3例に手術が施行され,USで指摘した位置に最大“くびれ”が確認された.また,手術例では,その後のUSで“くびれ”の改善が確認されたが,軽度の“くびれ”の指摘は困難であった.
結論:USはsAINPの診断,治療方針決定,経過観察に寄与する可能性が示唆された.