本調査は視覚的対話手法を用いて、対象者の家庭料理に関する思い出を記述者と共有することを試みた。落書きコミュニケーションによって、対象者の食体験を記述者と共有することに加え、一枚のイラストとして表現することを見据えた下書きの共有をおこなうことを目的とした。そこで、落書きコミュニケーションで得た情報からイラストとして食体験を再現できるよう、6つの項目で構成された対話のプロセスを仮説とした。本調査の結果、被験者の家庭固有の調理方や料理の盛付け方等を被験者自身の落書きで補いながら、仮説通りのプロセスで進めることができた。また、被験者は落書きコミュニケーションを通じて母親の料理へのこだわりや愛情を再認識したと述べ、対象者自身が過去の思い出を共有する手法としても活用できることが示唆された。今回の調査は記述役を筆者がおこなったため、今後は落書きの明確化及びガイドラインの作成により、第三者が実践可能となることを目指す。