2002 年 49 巻 1 号 p. 9-18
1901年ダルムシュタット芸術家コロニーで開催された第1回展における重要な成果のひとつ-ペーター・ベーレンス設計による自邸のインテリアとそのデザインについて,本研究は論じる。ベーレンス邸は,各部屋のインテリア・デザインにおいてはモチーフの表現に重きが置かれている点が特徴的である。特に,玄関部分と音楽室に共通するデザイン・モチーフは,ベーレンス自身が演出した祝典劇「しるし」に由来している。クライマックスで預言者が生活のシンボルとして捧げ持つダイヤモンドというモチーフは,いま一つのモチーフであるクリスタルと対になるモチーフとしてベーレンス邸のインテリア・デザインの核となっている。テキストのクライマックスからモチーフを抽出するという発想は絵画的なものであるが、モチーフにシンボルを選択することで、ベーレンス邸は結果として曲線的なデザインが主流であったユーゲントシュティルを脱却して,他と一線を回すような幾何学的なデザインに辿り着いている。