2020 年 67 巻 1 号 p. 1_49-1_58
近年,鉄道車両の意匠面でデザインが注目されることが増えてきたが,営業運転後の車両に対して,ユーザーの評価を分析した研究は少ない。そこで,「学生」「社会人」「高齢者」へのフォーカスグループ調査を実施し,聴取された意見を参考に通勤型車両全般に関するアンケート調査を実施し,デザイン課題を抽出することを目的とした。調査対象は,通勤型車両を多数運行し混雑率も高い西日本鉄道天神大牟田線大橋駅ユーザーとし,その属性分布から回答者として適切と判断した。乗客の行動に関する14 の調査項目を乗客属性(性別・身長・年齢)に分けて集計し,通勤型車両を俯瞰的に捉えて,連続するユーザーの行動を関連付けて分析した。「車両が動き出した段階での安全確保」「体力差・筋力差への配慮」「乗客・社会の変化への対応」の3つの視点から考察を行い,「部分最適が全体不適に結びつく可能性の認識」「視覚的な把握が難しい基準の認識」「設備更新時期の認識」といったデザイン課題を抽出した。また,全体最適のためには「多様な属性を持つ乗客の鉄道車両環境における行動原理への理解」が重要であることを示した。